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ボクの名は  作者: 深海くじら
卯月

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七十四話 笠司、清明(五)

 四日空けて出社したら少し安心している自分がいて、なんか不思議。まだ先週の月火水しか来てないってのに。

 デスクトップを立ち上げてメールをチェック。といってもちゃんとした担当を持ってるわけでもないから、社内連絡以外はどれもCCばかりだ。

 横浜の倉庫で見たフロートの件でもメールが数通届いている。現場からの仕様変更提案と、それに対するスポンサーの返事。荷台の縁を飾る造花ひまわりの本数と高さについてとか。制作現場は見映えやダンサーの踊りやすさを理由にパースより背を低く、本数も少なめを提案してきているが、本当の理由は予算との兼ね合いだろう。森下さんも、コロナ前に比べ三割がた予算が削られてるとこぼしていた。次回の現場総見は二十一日の午後三時。予定表に入れとかないと。

 フロートの中央に立つメインモニュメント最上部の太陽はうちの制作室でつくってるとあったので、ちょっと見にいってみることにした。



 二階の第二制作室はまだ誰も来ていなかった。ここの人たちのシフトは九時半じゃなかったっけ?

 どこをどうすればいいのかわからず立ちすくんでいると、指示書を持った中込(サンタ)さんが入ってきた。


「なんだ。随分早いのが来てるなと思ったら皆川か」


「ここのみなさんはまだなんですか?」


 目的の机に指示書を置いたサンタさんは、軽く頭を振った。


「早いやつで十時過ぎ。ほぼ揃うのは十一時くらいだな。まあたまに前の日徹夜だったのが昼ごろ来たりするが、一時には全員来てるよ」


「そういうところなんですか?」


「そういうところなんだよ」


 僕はたぶん、随分と驚いた顔をしていたのだろう。サンタさんは笑いを噛み殺しながら尋ねてきた。


「どうせ、大方『太陽』でも見にきたんだろ?」


 そうです、と僕は大きく頷く。サンタさんは僕の横をすたすたと通り過ぎて、部屋の隅の作業机に掛けられた薄い紙をめくった。


「ほら。これだ」


 金色の円盤に目鼻が付き温泉マークのヒゲのようなのを放射状に散らした立体造形物が置いてあった。

 パース通りのデザインで、細かいところはオリジナルで作り込んでいる。円盤部分は直径で七〜八百ミリ。光のヒゲも加えると千二〜三百ありそうだ。3D出力だろうが、光沢が際立って美しい。


「こいつのフィラメントはPLAを使ってる。ABSよりちーっと重くなるが、細かい造型はし易いからな。こういうのは菅生(すごう)が得意だ」


 サンタさんのざっくりした説明に僕は頷いた。

 よく出来た成果物を見ると、やる気が湧いてくる。みんな、いい仕事をしようと頑張ってるんだな。

 太陽に見入っていたら、後ろからサンタさんが別の話題を振ってきた。


「で、どうだったよムラモトは。打ち上げ行ったか? 話の合う奴とかいっぱいできたか?」


 台詞のベタさ加減に、お母ちゃんかよ、とツッコミを入れたくなる。


「や、そういうの特になかったッス。とにかくCSRがどうとかステークホルダーがなんだとか、耳慣れない単語ばかり頭に放り込まれて大変でした」


 踏み込まれるのが面倒だったので矛先をずらしてみた。が、サンタさんは乗ってきてはくれない。


「あーゆー場はお勉強なんてどうでもいいの。とにかく話して知り合い増やして、じゃんじゃん仲良くなっときゃいいんだよ。そのための合同研修なんだから」


 僕は、楽しかったんだか苦々しかったんだかわからない金曜の夜を思い出していた。心の中でサンタさんに答える。


 一方的な反感だけなら大いに買ってきましたよ。

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