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ボクの名は  作者: 深海くじら
卯月

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七十一話 瑞稀、清明(四)

 日曜の朝九時、ベッドの中でスマートフォンをいじりながらぼやぼやしていたら、栄さんからのLINE通話で叩き起こされました。


「瑞稀、あんた月曜から始まったんちゃんと見よらんやろ!」


「おはようございます。って、何の話です?」


「なんでんかんでんよかけん、今すぐBSプレミアムば点けんしゃい!」


 もう。栄さんときどきわけわかんないこと言いだすから。

 そう思いながら、私は枕元のリモコンでTVを点けました。BSプレミアムってNHKよね。

 青空の下を短い編成の電車が走る映像とともに、やたら調子のいい音楽が流れてきました。これ、どっかで聞いたことある。あっ、そうだ。高二だか高三だかの夏前にブラバンが練習してたやつ。


「なんですか、これ」


「見らな死ぬやつや。あんたも死にとうなかったらちゃんと最後まで見れり」


 そう言い残して栄さんは通話を切りました。

 スマートフォンを持ったまま眺める画面では、落ち着いた感じの女性のナレーションで田舎の電車の出発式みたいなのをやってます。なんかのドラマ?


          *


 結局私は九十分、ベッドから一歩も動かずに見入ってしまいました。

 これが『あまちゃん』。なんですか、このスピード感は。どこにも無理がなく、一瞬たりとも飽きさせない展開の妙。猫背ののんさんの可愛さ。こんなのを毎日やってたんですか。

 集中疲れで脱力していたら、スマートフォンが震えました。


「見た?」


 見ました、と私も短く答えました。


「どうね?」


「おもしろかった」


「やぁろ」


 栄さんの自慢げな顔が見えるようです。


「これな、今日のんは週まとめん再放送だけど、月金、じゃなくて月曜から土曜まで毎朝七時十五分からやっとるけん。明日からはしっかり見るとよ」


 私の返事も待たずに、じゃあねと言い残して栄さんは通話を切りました。なんとも慌ただしいことで。

 とは言え『あまちゃん』は面白かった。続きも楽しみ。死ぬかどうかは置いといて、確かにこのテンションが続くのならばこれは見届けるべきコンテンツですね。朝のその時間なら、見るのも全然余裕です。一応予約のセットはしておくけれど、お化粧でもしながら見ればいいですよね。


          *


 さて。今日すべきこと。

 ベランダに置いた洗濯機を回し、明るい陽射しの差し込む部屋でトーストを齧りながら頭の中を整理します。そう。とにかくは、明日のプレゼンの企画をまとめなくっちゃ。


 一昨日(おととい)の研修で出されたお題は「今後のはしくらが生活者に提供する新商品・新サービス」。新卒の子たちの三チームが考えている企画は、オンライン葬儀、ディスプレイ内蔵の仏壇、故人のデータを納める共同墓地サーバなどWEBテクノロジーを利用したもののようでした。コロナ下でのオンラインコミュニケーションをがっつり体験した世代ならではという感じ。それはそれで面白いし、実際に似たようなサービスを考えている葬祭会社もあると聞くくらいですから、切り口としては良いところを攻めてると思います。流石、新卒の頭の柔らかさ。同じ方を向いたら、私ではとても敵わないでしょう。

 でも、私には私の切り口がきっとあるはず。彼らより少しだけ社会人経験の長い私は、同世代や少し上世代(栄さんとか)の生活と死者との向き合い方を考えてみます。結婚し新居に住み始めたひとたち、独立したひと、長くひとり住まいしてるひと。私の知る限り、住まいに仏間や仏壇を用意してるひとは一人もいない。近しい人を亡くしたひとでも、写真を飾ってるのが精一杯で、それにしたって少数派です。そもそも二親等以上の誰かを日常的に祀るなんて、考えもしていないのでしょう。

 でも仕事として仏具を扱っている私は、仏様を敬い祀り、ときによっては祈願の拠り所にする行為は本来日常的なものである、ということを理解している。その際の具体的なメタファーとして存在するのが仏壇。でも値段も高く場所もとる仏壇は、十分でない所得や住居空間の中では、どうしたって優先順位が下がらざるを得ないのです。

 一方でご先祖様仏様を祀るのは、この国や世界中の人々に連綿と受け継がれてきた文化です。我が社が主に提供している仏壇はあくまでも容れ物に過ぎず、その形式自体、百年にすら満たない見た目上の流行りに過ぎないのです。であるのなら、今の新しい生活様式にマッチした新しい容れ物を考え提供していくことこそが、私たちが未来に向けてしていかなければいけない責務なのではないのでしょうか。


 あ。なんか降りてきた感じがします。取っ掛かりだけで無計画に始めた物語に、あたかも最初から考えていたかのような全体を透徹するアイデアが湧いてきた、みたいな。白い部屋のときの、ハルが意識交換を繰り返す意図を連載の途中で思いついたように。



 私はまるで操られる人形のように、今しがた降りてきた企画をテキストにして打ち込み続けました。

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