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ボクの名は  作者: 深海くじら
卯月

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六十九話 瑞稀、清明(三)

「瑞稀ちゃん、金曜と来週の月曜は空いてるよね」


 ウェブサイト用のはしくら百年の年表と概要をまとめている私に、灰田さんが声を掛けてきました。顔を上げる私。予定なんぞ先刻承知の灰田さんは、私の返事も聞かずに話を続けます。


「いま新入社員の研修をやってるのは知ってるよね」


 それは知ってます。水晶ちゃんがお手伝いで二週間持ってかれちゃうって涌井さんが嘆いてたから。


「で、さっき少しだけスピーカーやってきたんだけど、金曜と月曜の二回にグループワークをやるんだって。テーマは『はしくらの新しいアプローチ』。でね、瑞稀ちゃんにもちょっと出てきてもらいたいんだ」


 え? 私まだ、演壇で説明できるほどわかってないんですけど。


「『はしくらの新しいアプローチ』って、私たちが今まさにやってることじゃないですか。新人さんたちには何がどこまで伝わってるんですか?」


 うんうんと二回頷いて、腕を組んだ灰田さんが説明してくれます。要は、仏具業界やはしくらの色に染まってない今の若者による自由な発想をリサーチしたいってことらしい。彼らには、私に見せたプレゼン資料の要約を渡してあるそうで、『ウェルネスターミナル』の考え方までは伝わってるはずだとか。


「そんなに難しく考えなくていいよ。別に彼らに何かを教えてあげてってワケじゃないから。ただ、入ったばかりの一年生たちと同じ場で、瑞稀ちゃんがどんな発想を見せてくれるのかなって期待してるだけ」


 灰田さんは笑顔をそう言うと、荷物をまとめて立ち上がりました

 いきなり期待とかされても何にも出てこないんですけど、と頭を抱える私の横を素通りした灰田さんは、ドアノブの手を掛けたところで振り返ります。


「今やってるのはそんなに急がないから、キリのいいところで帰りなさいね。残業はほどほどに」


 片手を上げて部屋を出る背中に、私はいってらっしゃいの声だけ投げ掛けました。

 明後日から新人研修の仲間入りですか。不安だなあ。上手いこと先輩らしいことを思いつければいいんですけど。


          *


 部屋に入った瞬間に感じました。若い、って。

 金曜日の朝九時、集合場所の大会議室に行ってみると、リクルートスーツの新人さんたちは既に勢揃いしていました。入ってきた私に注目する瞳は、みんなキラキラしています。総勢十二名。男女比はぼぼ半々かな。こんな疲れた顔のおばちゃんが入ってきちゃって申し訳ない。真っ先に、そんな風に思っちゃいました。

 私のすぐ後に総務の三木原部長と製品企画部の三枝課長、最後に水野さんが入ってきて扉を閉めました。



「おはようございます。今日で座学研修も四日目になりました。みなさんも、はしくらがどういう会社なのかをざっくりイメージできるようになったかと思います」


 研修の日程が箇条書きにされたホワイトボードの前で三木原部長が滔々とと語りかけます。私はボードを目で追いました。四日目は……はしくらの未来!?


「昨日伝えた通り、本日と週明け月曜日の研修テーマは『はしくらの未来』です。昨日お渡しした資料にある通り、再来年に創業百周年を迎える我が社が打つ次の一手、ウェルネスターミナルについて、若いみなさんのフレッシュな考えを聞かせて貰うというのが趣旨になります。具体的には三チームに分かれて、それぞれで案を出し合い、月曜午後にプレゼンして貰うという形式です」


 そこで息をついた三木原さんは、私の方を向いて目配せをしました。


「今回は特別に、みなさんの先輩でもあるブランド推進室の波照間さんにも、一緒に参加していただきます。波照間さんはブランド推進室のチーフですが、部署自体この四月に立ち上がったばかりですので、ある意味みなさんと同じ一年生です。ですので企画提案もみなさんの三チームに波照間さんの案を加えた四提案でプレゼンしていただく形になります」


 え!? ちょっと待って。それは聞いてない。マジですか?! お手伝いくらいにしか考えてなかったのに。


 一瞬だけニヤリと笑った三木原部長は、すぐに無表情に戻し、私に自己紹介を振ってきました。

 三木原ー灰田ラインに謀られた!


「えっと、ご紹介に預かりました入社五年目の波照間瑞稀です。この四月からブランド推進室に配属されましたが、その前はずっと仏具販売営業の補佐をやっておりました。企画や提案は初めてなので、基本みなさんと同じです。ただ、業務のいくつかについてはみなさんより詳しいところもありますので、質問とかあったら遠慮なくしてください。わからないことは一緒に考えますから」


 二日間よろしくお願いしますと言って頭を下げた私に、新人さんたちはなぜか拍手をしてくれます。いや、私まだなんにもしてないんですけど。


「それではさっそく、チーム分けからはじめましょう」


 そう締めた三木原部長は、思い出したかのように、そうそうと言葉を継ぎました。


「今回出していただく企画ですが、良い提案は実際に進めていこうという考えもありますので、みなさん本気で考えてくださいね」

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