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ゆえに、僕は神を愛そう  作者: 海鳴ねこ
色の無い瞳
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92話『休息』

 明け方、4時前。

 硬いベッドから身を起こし、アドニスは支度を終わらせる。

 あれから数時間。身体は十二分に回復した。

 昨日と何ら変わりなく動けるだろう。


「む?おはよう少年」


 今まで何処にいたのか。

 スーツの上着を羽織るアドニスの前にシーアが現れる。上空でふわふわと。

 いや、何をしていたか?簡単だ。シャワーでも浴びていたのだろう。なにせ何時ものように下着1枚で出て来たのだから。

 今日は白の大人っぽいレースが刺繍された、紐の下着。普通なら顔を赤くし目を覆いたくなる光景だが、アドニスは僅かに頬を染めただけ。小さくなずく。


「俺はもう出る」

「『王』を倒しに?」


 空中で黒いドレスを手にくるくる回る。そんな彼女の問いにアドニスは首を横に振った。


「いや、今日は『四の王』について調べたい」

「ああ、昨日知らずのうちに死んでいた『王様』だね」


 それは昨日、『八の王』との決着後に知った事実。

 『四の王』マリアンナが死亡したと言う情報。


 いや情報源はマイケル(組織)であるし、あの後ドウジマにも連絡を取り、裏を取った。――事実に違いない。

 だが、意外にも何故『四の王』が死んだか、誰が女を殺したか。それは『組織』も把握して無いようであった。

 殺害現場は聞いている。最初に集合した、あの屋敷。そこで彼女は胸を一突きに死んでいたと言う。


 何時、誰が、何の目的で殺したか――?


 元よりこれは10人と1人の殺し合いゲーム。本当は誰が女を殺そうと関係ないが、調べておく必要がある。

 そもそも、まだ《同盟》と言う奴は健在の筈だ。アドニスが死ぬまで続くとされた同盟。それを破ったモノが居る?いや、グーファルトにはこの同盟は当てはまらないが。

 それを調べ、把握する為にも屋敷に向かわなくてはいけない。


「じゃあ、私は?」

「お前は今回留守番だ」


 調べるだけだ。シーアの力を借りることも無い。

 いつの間にか何時もの黒いドレスに着替えていた彼女はつまらなさそうに唇を尖がらせる。


「仕方ないなぁ」


 ただ彼女も彼女で今回は着いて行ってもつまらないと判断したのだろう。あっさりと引き下がり。

 空中で胡坐を掻きながら、にたにた。その場で一回転し、顔をアドニスに近づける。

 それで、名案だと言わんばかりに口を開き宣言した。


「じゃ、私は拠点(ココ)を守る事に専念しよう!」

「はぁ、好きにしろ」


 ソレは正直、彼女なら言うだろうと思っていた言葉だ。

 暇なので何か面白い事は無いかと言う、彼女なりの遊び。


「安心したまえ少年。此処はきっちり守って見せるさ!来る者すべて排除する♪」

「それは俺も含まれていたりするか?」


 シーアはアドニスから天井近くまで距離を離しニタリと笑う。

 わざと眉を寄せて「うーん」と。

 クルリと飛んで、傾げる首。良からぬことを企んでいるのは違いない。


「じゃあ、合言葉を知っている奴は助けるとしよう」


 ほら来た。――悩んだふりをしていたが、きっと最初から決めていたに違いない。

 どうせ嫌だと言っても強行突破してくるに違いない。戯れを受け入れるしかないとか溜息しか出ない。


「どんな?」


 とりあえず聞いてみる。

 再び「うーん」と悩むシーアの声。

 ふわりと宙を飛んでクルリとまたまた一回転。


「じゃあ、私がこう言う」

「――?」


 一度間をおいて、やっぱりニタリ。


「“ふわふわな”――」

「ふわふわな?」

「で、君が応える。」


 ――ねこか?


「肉球!!」

「――“ぷにぷに”だ!」


 ――

 ――――


 何の会話をしているんだ?

 アドニスは瞬時に我に返り思わず頭を抱えた。


 いや、なんだ「ふわふわな、肉球」って。肉球は「ぷにぷに」だろう。いや、違う。

 考えを振り払う様に頭を振っていると、ケラケラと笑うシーアの声が響く。

 完全にからかわれた。わざとだ、今のは。腹立たしい――!

 しかし、そんなアドニスを気にする様子もなくシーアは続ける。


「いいだろ。いいだろ♪あはは、面白い!」

「――っ」

「合言葉が決まったぞ。“ふわふわな肉球、――ぷにぷにだ!”――に決定!」


 わざと今の会話を面白おかしく合言葉に決める。

 それも、最後はアドニスのマネまでして。殴れるなら殴ってやりたい!

 勿論無理、論外である。だからこそ、シーアは笑い続けるのだが。

 真っ赤な顔をしてそっぽを向くアドニスを前に、彼女はさらに続けた。


「これ、面白いから。もう一つの合図にしよう!」

「――はあ?」

「例えば、君がどうしようもなくピンチに陥った時。“助けて”の代わりに使うのさ!」


 ――意味が分からない。そもそも使わない。

 それでもシーアは笑い続ける。


「例えばさ、君に危険が迫った時。耳元で今の合言葉を囁いてあげる。それに君が応えたら成立――どう?」

「どうも何も下らない。馬鹿か?」

「なんだよ。助けてやるって言ってんのに。私だって、この『ゲーム』の参加者だぞ?」

「俺の《武器》として、だろ?」

「でも参加者だ!」


 ああ言えばこう言う、こう言えばああ言う。

 こうなればアドニスが折れるしかない。

 溜息を一つ。


「分かった。分かった、好きにしろ」


 頭を抱えて承諾と共に、黒いコートを羽織ると準備を終えた。

 空中でやはりシーアはニタリと笑う。


「じゃ、君の助けを待っているぞ♪」

「ないよ。そんなの」


 未だに軽口をたたく彼女に苦言を零して、アドニスは教会の出口へと向かうのである。




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