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79話『八の王』1
かの王の話をしよう。
彼女の産まれは実に特別であった。
産まれた時代、産まれた場所。その全てが運命に等しい。
小さな大陸の、小さな国のお姫様。
けれどもその肩に圧し掛かるのは余りに重い宿命。
彼女が産まれた時人々は歓喜する。
漸く本物の女王が御生まれになったと。
大陸にいる、国から名を奪った偽物の王を打倒すべき存在。
大陸に君臨する、世界から名を奪った贋作の王を超えるべき存在。
彼女はそう讃えられ育てられた。
彼女はそう教えられ育てられた。
彼女はそう正しいのだと育てられた。
立派なる女王へと。
完全なる女王へと。
素晴らしい女王へと。
心優しき女王に栄光を。
志し正しき女王に王冠を。
だからこそ民は彼女の為に戦う。
彼女に全てを捧げて失った物を取り戻すために戦う。
貧しさも、悲しさも、辛さも、死んでゆく人々も、全てを背負って彼女は戦う。
憎き、王の名をかたる不届きものから故郷を取り戻すために。
――かの王は生まれながらに女王であった。




