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76話『幕章』

 

 それはオーガイストと対決を終えた時まで遡る。

 『二の王』との対決を終えたあの決戦の日から三日も経たずしての事。

 アドニスは『組織』――。

 ドウジマの元へと尋ねていた。


 彼の部屋に入った瞬間に鼻をくすぐる酒の匂い。

 暗く寂れた部屋の中、ぼろい机に頭を抱えるように肘をつくドウジマの姿が見える。

 その周りには沢山の酒瓶。嫌でも理解する。やけ酒でも飲んでいたのか、と。

 何故か?簡単だ。カエル……本名はギルバードであったか。彼が裏切り者として捕まったから。


 自分(アドニス)達の幼いころの指南役であり、育ての親でもあった彼からすればこれ程辛い物は無いのだろう。

 カエルが裏切ったと言う事実。いや、皇帝陛下は裏切り者にはあまりに酷くて厳しいお方であるから。

 同じくしてリリスも此処3日は部屋に閉じこもりっきりだ。カエルという存在と親身にしていて平然としているのはアドニスぐらい。


 気持ちは分からないではないが――。

 アドニスは大きなため息を付いて部屋の中へと入った。


「ドウジマ」


 軽く声を掛ける。僅かにドウジマはピクリと反応した。

 のそりと顔を上げて、隈だらけの疲れ切った緋色の瞳にアドニスが映る。


「ああ……。お前か」


 訪問者がアドニスと分かるや、ドウジマは僅かに顔を横に振って笑みを浮かべた。疲れ切った笑み。

 少しの間。何時ものように浮き抱き付くシーアが首を傾げる。


「どうした少年。話、しないのか?」


 この時ばかりはこの空気の読まなさ、能天気さは羨ましい物だ。

 僅かに眼を閉じて、アドニスはドウジマを見据えた。その黒い眼はいつも通り、冷静なモノへと戻り何処か冷徹。

 アドニスは手にしていた新聞を3部、ドウジマの前へと投げ渡す。机の上の空き瓶が幾つか倒れる。ドウジマは酷く不思議そうな表情を浮かべると新聞を手に取り、それを見計らうかのようにアドニスは口を開いた。


「アルバ・オーガニスト。この名に聞き覚えは無いか?」


 その名を出した瞬間、ドウジマは見て分るほどに反応を示し、緋色の眼がアドニスを再度見る。


「……知っているとも。お前に脅迫状を出した人物。『二の王』の正体」


 そして、と前置きを一つ。


「……カエルの実の祖父だ――」

「……」


 流れる沈黙。呆れたようにドウジマが言う。


「そう、報告してきたのはお前だっただろう?」


 それは、その通りだ。

 アドニスは事の全てをドウジマには報告した。

 彼だけは『組織』のトップとして、全て知る権利があると。

 いや……。カエルを捕らえた、彼とリリスには知るべきであると皇帝の赦しを貰って。


 ――君なりの優しさかい?


 いまでもその時シーアに言われた言葉が耳を離れない。

 いや……と、アドニスは小さく首を振る。こんな事、どうでも良い。今はそんなもの些細な事だ。

 問題はカエルの話じゃない。


「アルバ・オーガニストの遺体はどうやって始末した?」


 この問いに、ドウジマは眉を顰めた。

 視線が改めて三部の――三日分の新聞に視線が注がれる。


 あの男が死んで3日。

 アルバ・オーガニストが死んだと言う情報はどの面にも載ってはいない。

 そればかりか身元不明の怪しい死体が発見されたと言うような一面も何処にも無く。ただ、新聞には増税に対しての報告があるのみ。

 あまりに大きく違うのだ。『七の王』と『一の王』の時とは――。


 アドニスの聞きたいことに察しが付いたのだろう。ドウジマは溜息を付く。

 いつもの癖だろう、煙草を取り出して一服。望んだ答えを提示する。


「アルバ・オーガニストの遺体は城下から遠く離れた村に放置した。なんでもアルバが数年前から隠居していた場所らしくてな。――自殺だ」

「なるほど。確かにそんな些細な事件、一面処か隅にも書かれないな」


 アルバの死が新聞に載っていない理由は納得する。納得と言うか、想定通りと言うか。

 つまりだが、アルバ・オーガニストの死は他の『王』と違い隠蔽されたと言う事。

 それはきっと皇帝の御意思。疑問や文句は1つとして浮かばない。ただ、思うのだ。


「つまりそれは、陛下はアルバの死は公にしないと?」

「そうだろうな。ま、今までの他の二人と違って公に出来ない理由でもあるんだろう。それか今は時期を見計らっているって所だろ?」


 それが一体どうしたのか。

 ドウジマが言葉に出す前に、アドニスが遮る様に言う。


「だったら、皇帝に報告を。アルバの死はこのまま公にはしないで頂きたい――と」

「……は?」


 胸元のポケットから出す一通の文。

 その文を、皇帝からの公式の招待状を見せながらアドニスは宣言する。


「俺は『ギルバード・オーガニスト』として『ゲーム』に参加する」


 それは皇帝陛下の為の『ゲーム(遊び)

 そんなゲームに参加するに至って、アドニスが考え付いた攻略法。

 元よりどうやって残りの参加者に近づくか、悩んでいた事だ。そこに実に丁度良い穴を見つけたと言う事。


「なるほどな。潜り込むと言う事か」


 アドニスに送られた招待状()を確認しながらドウジマは頭を掻く。


「分かった。それなら陛下もお許しになるだろう。結果は後で知らせる」


 この作戦は驚くほどにすんなりと通った。

 皇帝は言葉通りアドニスの作戦を許す事だろう。あの方はそういうお方だ。


「なにがそういうお方だ……だ!それもアイツの誘導じゃないのかい?」


 なんて後ろでシーアが不服そうにしているが、無視。あの一件以来皇帝嫌いになったようだ彼女は。

 まあ文句なら後で聞き届けるとして、アドニスは再度ドウジマと目を合わせる。


「で、そちらからの用とは何だ?」


 ソレは次の問題。実際は元よりドウジマから呼び出しを受けたからこそ、今日此処にやって来たのが事実である。

 ドウジマから『ゲーム』に対して話がある。皇帝からの命令事項だ。そんな命。だからこそ、本題へと入る。皇帝の命とは一体なんの用なのか。


 僅かに緊張の色を見せたからか、ドウジマは小さく笑った。


「そう身構えるな。何、唯の連絡事項だ。ソレが2つ」

「連絡事項?」


 小さく頷いて、ドウジマは太いごつごつとした指を立てる。


「まず一つ」

「……」

「今回のゲーム。まぁ、もう開催場所は知っているな」

「ああ」


 頷くアドニスにドウジマは続けた。


「この開催場所となった村だが、()()が警備する事となった」

「――!」


 思いがけない命だ。少しだけ驚く。


「それはつまり、『組織』が関与すると言う事か?」

「ああ、そうなるな」


 問いかければ肯定。

 この『ゲーム』は世界に開催が発表されている。

 だから『組織』の人間も『ゲーム』事態は知っていた。だが、まさか『組織』全体が関与する方向に行くとは思いもしなかった。


「……いや、当然か」


 少し考えてアドニスは首を横に振った。

 『組織』が『ゲーム』に関与する。十二分に有り得たことだ。

 むしろ今回の開催場を知った時、其れこそ猫の手も借りたくなるほどの大きな『ゲーム』になる事に違いない。そう察していた。『組織』はソレに駆り出されたと言う事。所謂NPCとして。


「逃げ出し防止か?」

「ああ。他にも色々あるが。途中で逃げ出されたらそこで粛清。その役を俺達は選ばれたようだな」


 アドニスはふと目を閉じて考える。

 今回、『城下町』から離れた村での開催となった『ゲーム』。村の大きさとしては小さい。だが、人間からすれば十分なほどに大きな皇帝の庭だ。

『ゲーム』はこの大きな庭で開催される。つまりだが、途中で怖くなった結果。隠れて逃げる事も可能性としてあり得ると言う事。

 皇帝は『ゲーム』は許したが、元より裏切り者は許さない。彼らは所詮裏切り者でしかなく、『ゲーム』で首の薄皮一枚繋がっているのでしかない。



「分かった。もし逃げ出そうとしたものが居れば、お前達に任せる。それは俺の標的じゃなくなるわけだからな」

「そうだと助かるよ。ま、正直お前から逃げようなんて芸当は出来ないと思うが――」

「……」


 そんな事は無い。

 逃げるとその口で宣言したら逃がすさ。

 少しだけ笑みを浮かべた。


 さて、と。アドニスは最後にもう一度ドウジマを見た。


「で、2つ目は?」


 それは2つ目の皇帝の命令に関して。

 問いかけるとドウジマは、今度は酷く口淀み言いにくそうに目を逸らす。


「なんだ」


 その煮え切れない態度に首を傾げる。

 ドウジマの緋色の視線はアドニス――ではなく後ろのシーアへと飛んでいた。

 まさかと思う。この機に及んで皇帝は彼女の『ゲーム』参加に難を示したと?それは実に皇帝らしく無いのだが。

 片眉を上げ不思議そうにドウジマを見ていると、彼は「ああ」なんて声を貰いし僅か。スーツパンツのポケットから1枚の紙を取り出した。



「お前とヒュプノスにだ」

「なんだ?なんだ?」


 いきなり話を振られたのだ。シーアは楽しそうにフワフワ飛んでドウジマの側によるとまじまじと紙を覗き込み、小さく首を傾げる。


「何だ、落書き?」

「ちがう!これは――」

「『世界』の国章だな」


 シーアの頓珍漢な答えに呆れを見せるドウジマ。 

 その後ろからアドニスが代わりに応えた。

 彼女の隣へと移動し、同じように紙を覗き込んで。目に映るのは間違いなく『国』の紋章。

 獅子の頭をもつ王が頭に冠を乗せ、剣を天高くに掲げる。ゲーバルド44世の為だけに象られた物に違いない。


 だが、この国章が一体何だと言うのだろうか?

 アドニスも疑問に首を傾げる。

 ドウジマは言いにくそうに口を開いた。


「お前たちは『国』の代表だ。だからこそ、周りにそう知らしめるために身体に国章を刻めと……ご命令だ」


 その言葉に、命令に、アドニスは僅かに息を吸う。

 黒い眼は隣で相変わらず不服そうな彼女を映して、何か言いたげに目を逸らす。



 ――。



「――。おい、おい、しょーにぇん」

「……」


 誰も居なくなった屋敷の中。

 もごもごとしたシーアの言葉にアドニスは我に返る。

 顔を上げれば血のような真っ赤な瞳が不思議そうに此方を見据えて笑っていた。


 その顔を見て一気に現実に戻ったようだ。

 アドニスは頭を抱える。誰も居ないからと物思いにふけるなど、自分らしくもない。


 ここで敵に襲撃でも受けたらかわし切れなかっただろう――なんて。


「で、しょーにぇんどーする?」


 思い悩んでいるとシーアが再度声を掛けて来た。相変わらずもごもごしながら。

 その様子を見ていると、思考が冷静になってくる。目の前を飛ぶ彼女の腕を取ってアドニスは溜息交じりに口を開く。


「どうするも何も、何もしないさ」


 そう言って視線を向けるのは先ほどまで居た『王』。その全員が去っていった瓦礫の出口。

 別にアドニスは追おうとは思ってもいない。


「そもそも今回は様子見のつもりだった。一人も仕留めるつもりも無かったさ」


 足元の死体を見下ろしながらアドニスは放つ。

 だが、事実だ。今回は本当に様子見のつもりだったのだ。

 誰がどんな『王』で、誰が一番危険人物で、何を目的にこの『王を決めるゲーム』に参加したか。

 それを見る為だけに態々「オーガニスト(幼馴染)」の名を借りて紛れ込んだと言うのに。

 今回は別に襲われたから返しただけ。それだけで死ぬなんて。実に呆気ない。

 アドニスからすれば、銃弾をつかみ取れたことだけは修行の成果として喜ばしい事だが。


「危険人物は、二人ぐらいだったな」


 この瞬間、手ごわいと脳裏に浮かんだのは2人だけだ。

 1人は『十の王』グーフェルト。この戦場に子供を引き連れ、剰え平然とアドニスに一撃を食らわそうと跳び掛かって来たあの人物。やはり普通に考えてあの『王』が一番の強敵となり得るだろう。弾避けと紹介されたあの少年が気になるが――。だがこいつは後回しで良い。

 今一番の問題となるのは――。


「『六の王』だな!」


 アドニスの思考を遮る様にシーアが声を上げる。

 思考が停止した。

 顔を上げ、まじまじと彼女の赤い瞳を見据える。


「なぜ?」

「なぜがなぜ?」


 話にならない。溜息を付く。


「危険なのは『八の王』だ」


 先ほどから嫌に気になるネクタイとボタンを緩めながら指差し言う。


「え、なんで?」

「あの『王』達を思いだせ。馬鹿正直にこの屋敷に集まって、殺気を出すどころか殆どの連中が警戒すらしていなかった。何故だと思う」


 問いにシーアは僅かに悩む。

 少しして彼女が出したのは1つの答えだ。


「――同盟かい?イレギュラーを殺すとかなんとか言っていた。アレ」

「なんだ。分かっているじゃないか」


 意外と言うべきか、シーアは答えを示した。

 僅かに驚きアドニスは頷く。


 これはゲームだ。

 『王』を決める10人のデスゲーム。

 普通であるなら共闘なんてありえないなんて物じゃない。仲良くみんなで集まっていること自体も可笑しい。だが先程の連中はどうだ。グーファルトとアマンダ以外、その殆どが実に呑気にその場につったり、呑気に会話を楽しむだけ。あんな状況、直ぐにでも試合が開始しても可笑しくないだろうに。


 なら、それは何故か?簡単だ。あそこの連中は全員がまだ、己たちを敵とは認識していないと言う事。敵は別にいるので、今周りは脅威でないと言う事。

 厳密に言えば()()の敵を既に見つけているからこそ。あそこ迄呑気に要られる。

 だからこそ、『王』達が幾人かで手を組んで居る事は直ぐに気が付いた。

 周りから見て、だれがその同盟の主であるかも――。


「下らん同盟だ。直ぐに壊しておく必要がある。」

「下らにゃい?」


 再びアドニスは小さく頷いた。

 腰に有るナイフに手が伸び、きつく握りしめる。


「これは10人の『王』が互いに殺し合う『ゲーム』だろう。それが、唯一人の敵の為だけに共闘する?『ゲーム』の本質が崩れている」

「でも、それも作戦の一つだと思うよ?あにょね、その対峙するひょーてき()も今じゃ、ゲーム参加者。コレを倒すためにきょーと―するのは可笑しくはない」

「だったら、それを根こそぎから壊しても構わないだろ?それもまたゲームの一つだ」


 それはアドニスが決めたことだ。

 ナイフを握りしめ、黒々とした眼は再度放つ。


「最初の標的は『八の王』アマンダ。女帝様さ――」


 ――標的が決まった。

 これ以上シーアは何も言わない。ただ、どこか呆れ顔で息を付くばかり。

 ふわりと飛んで、彼女はアドニスの前へ。その顔に指す。


「君は相変わらず女を見る眼が無い」

「何とでも言え。さっさと正しいゲームの在り方に戻す。コレが俺の決めたことだ」


 何を言われても、もうアドニスの考えは変わる事は無い。

 そうなれば、次にやるべきことも定まってくる。


「じゃ、あの女帝様?追うのかい」

「……さっきも言っただろう。まだ追う気は無い」

「じゃ、どうするのさぁ!」

「どうするも何も、1時間の猶予を与えてやるだけさ」


 アドニスはそう言うと、どさりと近くの階段の上へと座り込んだ。

 側でシーアが不思議そうに宙を飛ぶ。なぜ、なぜ、なぜ?珍しくアドニスの行動に見当もつかないらしく、その顔は心から不思議そうだ。だが、面倒なので説明する気も無く。アドニスはポケットから携帯端末を取り出し簡単に操作した。画面にはまだ何も通知は来ていない。

 仕方が無い。無造作に端末を放り出してアドニスは顔を上げる。知らせが来るまでは動くなと言う命なのだから。通知が来たら、問答無用で相手取るだけである。



 ふと、アドニスの視線に飛び回るシーアの姿が映った。

 広い屋敷の中を水中にいるかのように飛び回る彼女。自然とその背に視線が奪われる。

 白くて真雪の肌にくっきりと浮かび上がった大きな赤い刻印。皇帝の命令で、彼女自らその身に刻み込んだ紋章。


 黒い眼は自身の胸元にも視線を送った。


 鎖骨が露わとなった。くっきりと浮きだした男らしい胸元。だが今までと違うのは鎖骨の場所には赤い紋章が刻まれている事だろう。

 それは彼女と全く同じ刻印。

 そう、獅子頭の『世界』の紋章――。


 ――では、ない。


 ピコんと立った三角の耳。

 つり上がった細い孔の瞳。

 長い三本の髭に、逆三角の鼻。

 あんぐりと開け、牙を向けた「w」の大きな口。


 どう見ても威嚇する猫を用いた刺青。

 そしてそれはシーアの背にも大きく刻まれた刻印。


 シーアが付けた。

 ライオンは嫌だと我儘を言って、無理矢理コレを押し通した。多分「ねこ太」をモデルにした紋章。

 アドニスだけのマークと笑った彼女の顔が脳裏に浮かぶ。


 コレを見ていつも思う。この女は何処までも自由と言うか。突拍子もないというか。

 そもそも良く皇帝も刺青(コレ)を許したものだ。なんて――。


「しょーねぇん?」


 顔を上げる。

 相変わらず口をもごもごしながらシーアは此方を覗き込んではニヤニヤと笑っていた。


「しょれ、そんなに気に入った?」

「……馬鹿が」


 彼女から目を逸らし、アドニスは大きく息を付く。顔が熱いのは気のせいだ。知らせが来る前までには戻しておかないと。

 腕で顔を隠しながら、改めて思う。なんにせよ。このゲームは始まった。

 標的ももう決まった。


 次の相手は、どんな戦いを自分に見せてくれるのか。正直言えば楽しみだ。

 オーガニストの様に自身を窮地に追い込める人物であるなら良いのだが。


「女帝様には望み過ぎか?」


 自虐したように僅かに笑む。

 あと少しすれば、『組織』から行動解除のコード()が来るだろう。

 それまでは楽しみに。今はまだ地実力さえ不明な標的を思い、楽しむのであった。


「それから、ヒュプノス。いい加減口の銃弾をどうにかしろ」

「むぐ!」


 最後にさっきから、もごもごと煩いシーアに助言にも似た文句を零して。

 シーアは気づかれていたのかなんて顔をした。

 だって仕方が無い。口で受け止めたのは良いモノの、吐き出す暇が無かったのだから。

 目の前でシーアがべーと舌を出す。赤い舌の上にはやはり銃弾が一つ。


 不服そうにそれをペッと口の物を吐き吐き出せば、轟音が一つ。

 石作りの床に2mは超える大穴が一つ。露わとなったその下にあるモノに思わず眉を顰める事となったのは別の話。少ししてアドニスは眉を顰める。


「……お前さ。力は押さえろよ。俺だけの命令を聞いて、後は大人しくしておけよ?」

「なにさ、なにさ!人を化け物みたいに!分かっているとも!」


 アドニスは再度溜息を付いた。

 相変わらずふわふわと空を飛ぶ彼女を観つつ、その背に刻まれた刻印を観つつ、笑みを1つ。

 本当の開始の合図を今か今かと待ち望む。




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