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74話 『開戦』5


 ――。



 今までで一番の重たい沈黙が流れた。

 誰も何も言わない。

 誰もがこの状況を、示し出された答えに思考を巡らせ固まりつくす。


 何か言い返そうと思っても、頭の端では分かっているのだ。

 その答えは正しいと。


「……ま、まって!!待ってください!」


 いや、唯一この中で声を荒げたモノが居た。

 アレクシスだ。

 彼は取り乱したように頭を抱え、目で見て分るほどに身体を震わせ何度も「待て」と言葉を口にする。


「それは、ソレは駄目です!この、そんなこの村はどうなるんですか!」


 困惑したように、途切れ途切れに言う。

 頭をかき乱し、何かを思い悩む。

 ギルバードは至って普通に首を傾げた。


「どうも何も。まぁ、巻き込まれるだろう?」

「だがら、ダメですって!!そんなの、そんなの……!」

「……嫌だったら、住民に事情を離して避難させたらどうだ?」


 グーファルトが助け舟を出す。至って普通の考えだが。

 その言葉を聞き、アレクシス顔を上げたのは少しの間も無い。

 彼は一目散に屋敷の出口へと走り向かった。

 何をする気か?なんて問いは愚問か。


「待ちなさい!」


 ま、止める者などアマンダぐらいしかいないのだが。

 ばたんと彼女の言葉を無視して、アレクシスが部屋を出て行く。


 残った『王』は大きく溜息。

 特にギルバードは、何か思う所があったのか小さく首を傾げた。


「お前達、何を呆れている暇がある?追わないのか?」


 その問いに呆れ交じりにマリアンヌは言う。


「何のために?」

「……同盟者なのだろう?さっき言っていたイレギュラーに殺される危険性だってあるだろう」


 ギルバードが示したのは、このゲームに参加している皇帝の犬。イレギュラーの事。

 だが、この問いにジェラルドは鼻で笑い首を振った。


「それの危険性に気が付かず、勝手に飛び出していった間抜けだ。どうなっても我々には関係ないだろう」


 実に冷たい事だ。

 ここでアマンダが溜息を零す。


「後程、妾が追いかけます」


 ギルバードの眼が細まった。

 ……どうやら同盟と言っても、完全な一枚岩でないらしい。

 彼らを繋いでいるのは、アマンダという少女だけと判断する。


 次にギルバードはグーファルトを見た。

 正確に言えば、一言も話すことも無く、先程から彼の後ろにくっ付いたまま此方を除いている幼い少年の姿をだ。

 『六の王』の一件は察しが付いたのだが、この少年は一体誰だと言うのだろうか?それだけが、今の大きな疑問であった。


「そのガキは?」

「弾避けだ」


 グーファルトに問えば、彼は一番初めにアマンダに投げかけた物と同じ答えを返す。

 離れたところでアマンダが睨みつけて来たが、銀と黒の男たちは気にする様子もない。

 ただ、ギルバードは静かに目を細めてグーファルトを見据え問う。


「『ゲーム参加者』……と言う事でいいんだな」

「……正解だ!坊主」


 彼の問いは余りに呆気なくグーファルトが肯定。

 大きな手が長い薄黄緑の頭に伸び、銀色の眼がギラリとギラめく。


「名前は、フォックスとでも呼んでやってくれ」

「……弾避けに名前なんて与えるんだな」


 ソレは嫌味なのか、ギルバードの中に浮かんだ僅かな疑問だったのか。

 なんにせよ、その言葉にグーファルトは一瞬驚いた様に目を細めニタリと笑う。

 彼が少年――フォックスの頭を撫でながら、銀色の眼は目の前の少年を睨み下ろした。


「――じゃあ、次はおれからの質問だな。坊主」

「……なんだ」


 何時から質問コーナーになったのか、なんて心で思いながらギルバードは同じようにギルバードの眼を見上げ睨んだ。

 銀色の眼。鋭い眼光に、酷く面白い物を見つけたかのような色合いを見せ、優しさなど一ミリも無い、殺気の籠った眼。


 ああ、コレは――。


 察すると同時だ。

 グーファルトが腰をがくんと曲げ、ギルバードの顔を覗き込んできたのは。


「ひとつ言っておく。おれはなぁ。これでもアルバの爺さんとあった事が有るんだぜ?直に、な」

「……爺さんと。ソレは初耳だな」


 くつくつ、銀色の眼は嗤う。


「爺さんは一族の血を重んじる。ま、実に家族思いの一族だったよなあ?」

「ああ」

「だが今は息子を亡くし、義理の娘と2人だけの生活の筈だ」


「――え?」


 その言葉に首を傾げたのはアマンダか、それとも『六の王』の女だったか。

 ギルバードは口元に笑みを作り、言い返す。


「知らないのか?孫が居たんだよ。母親は壊れて使い物に成らないって事で、引き継いだんだ」


 苦しい、言い訳だ。分かっている。

 目の前のグーファルトは下を向きクツクツ笑う。


 ――そりゃ、0点だ。


 そう、小さく呟いて。


「知っているか?オーガニストの一族は爺も息子も、孫もな。綺麗な翠の眼をしてんだよ。頭の良さと言い遺伝ってやつは末恐ろしいよなぁ」


 黒いジーンズのポケットから、一枚の紙を取り出して。

 目の前の少年に突きつける。


 その、ギルバードと文字と黒々とした血が付着した、水色の髪と翠の瞳を持つ一人の少年の写真を――。


「死体の隠し方がお粗末だったぜ?貧しい村の家に放置とか?むしろ身元不明の死体で発表した方が良かったんじゃねえか?」


 ……そう言われても、あの死体を片付けたのは他のエージェントなのだが。

 アルバ・オーガニストの死に対して、この世に全く発表しないので何故だろうと思いつつ、利用したのだが。

 もしかしたらコレも皇帝陛下の御心と言う奴なのか?……少年は自分自身の詰めの甘さに息を付く。


 気付く、気付く、気付く。

 アマンダは勿論。

 マリアンヌとジェラルドも、レベッカも。

 『六の王』達も、気が付いて息を呑み、誰かはその表情を般若のごとく変えてゆく。


 その中で、グーファルトは最後の問いを目の前の人物に投げかける。


「――で、お前は誰だ?皇帝の猟犬さんよ……?」


 真っ黒な犬は大きく俯く。

 黒い髪の端から見える、黒い眼は爛々と、目の前の獲物たちを映し撮り

 心の底から楽しむように。


 ――アドニスは口元を吊り上げる。



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