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50話『二の王』2



 二つの視線が、部屋の入口に注がれる。

 部屋の扉を開け、その場に佇んでいたのは水色の髪の少年、カエル。

 両手に何やら大きなケースを抱えて、彼は此方を見据えている。良く見れば、その後ろには同じようにケースを抱えたリリスの姿もある。2人の視線の前に、カエルは言う。


 「それさ、ちょっとした装置があれば、誰にでも『組織』のエージェント達の居場所なんてわれるよ」


 酷く平然とした顔で、正に当たり前と言わんばかりに。

 いきなり現れた彼にアドニスとドウジマは一瞬眉を顰めた。どうやら聞き耳を立てられていたらしい。恐らくは部屋の前で。

 

 ソレに気が付かないなんて、アドニスは眼を細める。

 ――いや、この少年は気配遮断だけは無駄に昔から一流だった。

 

 もっと気を配るべきだった、今現在の問題に気を取られていて周りの注意を散漫にした自身が悪いと言い聞かせて。アドニスはカエルを改めて見る。

 正直、其れよりも今は彼の言葉の方が気になるからだ。


 それはドウジマも同じであったよう。

 彼は真意を確かめる様に、カエルを緋色の眼に捉え、口を開いた。


 「どういうことだ?居場所が割れる?」

 「簡単だよ」

 

 問いをバッサリと切り捨てるように一言放って、カエルは部屋の中に入ってくる。

 だが、その足は直ぐに立ち止まる。原因は分かっている。

 ふわりと、カエルの前にシーアが飛び近づいて来たからだ。


 カエルだって彼女の強さと恐ろしさは充分把握しているのだ。青ざめて、冷や汗を流すのは当然。ごくりと生唾を呑む音が聞こえた。


 「お前――変な色をしているな」


 そんなカエルをお構いなしにシーアは言い放つ。

 不機嫌そうな顔のまま首を傾げて、まじまじと目の前の水色の少年を見る。


 「変……って?」

 「色が無い」

 「……は?」


 赤い瞳が訝しげに、細くなった。


 「今まで魂の色が、見えなかった……」

 「は、はあ?」


 彼女の言葉はカエルには意味すら分からない事だろう。アドニスだって理解している訳じゃない。だが、シーアは酷く不思議そうだ。不思議そうに何度も首を傾げている。


 「あり得んぞ。気配を消したってレベルじゃない。君、一回死んでるに等しい――」

 「ヒュプノス……!」

 

 そんな彼女をアドニスが制する。

 名を呼ばれたシーアは口を閉ざす。再びムスりとした表情を浮かべ上げ、ふわりとカエルから身を離し、再度アドニスの首元に戻り抱き着くのであった。

 

 シーアの様子に慌てた様子を見せていたカエルだったが、脅威が去ったと感じたのだろう。大きなため息を一つ。眉を吊り上げて歩みを再開した。


 カエルはアドニスの隣、ドウジマの前へ。手に持つケースを置くと顔を上げる。コホンと咳払いを零し白衣に隠れた手が、ドウジマを指したのは直ぐの事だ。

 正確に言えば、机の上に置いてある携帯端末を。本題に戻った。


 「それ、発信機付いてんだ」

 「「……は?」」


 それも、あまりに重要な事実をさらりと。

 アドニスとドウジマの声が綺麗に合わさり、後ろにいたリリスだって、唖然とした表情を浮かべる。


 最初に我に返ったのはアドニスだ。何かを悩むように、小さく首を傾げた。

 此方が口を開く前に、カエルが「ああ」と声を漏らしたが。


 「そうか。知らないよね、発信機なんてまだ出回ってないから」

 

 少しだけ小馬鹿にしたような口調。

 思わず眉を顰めたが、正しい。小さく首を縦に振った。

 それはドウジマやリリスも同じだ。カエルは白衣の手を口元に持ってきて、悩まし気に首を傾げる。


 「んー、なんて言えばいいかな。追跡装置っていえばいいかな?」

 「追跡装置?」


 ドウジマの思わず漏れた問い。

 カエルは、なんて説明すればいいかな、なんて零して。

 ポケットからアドニスが持つ携帯端末を同じものを取り出し、指を差す。

 

 ――この端末機械は、所謂「通信装置」だ。


 『組織』の開発者たちがエージェント達にと作った精密機械。

 命令を着信し、情報を受信する、反対もしかり。本部との連絡手段として造られた特殊機械。街も似た形の通話端末が出回っているが、その通話端末とは似ていて違う。


 丈夫で壊れにくく、盗聴と言った電波ジャックも絶対にしない。エージェント達の為に作られた端末機械。……と言っても、通話だけにしか用いられないが。

 ただ《ゲーム機》と同じ、実に特殊で高価な物。


 更に一点。特別な機能が付いている。



 「――それが、追跡機能」

 カエルは端末の簡単な説明の後に、本題へと入った。


 いや、説明の中では聞き捨てならない単語が出て来たのだが。盗聴とか……。

 まあ今はそれは良い。話を聞く限り心配をするようなものではない。其れよりも今は、最後の言葉。最初に反応を示したのは、後ろのリリスだった。


 「追跡……?」

 「簡単だよ。裏切り防止の為なんだけどね。コレを持っているとその人物の居場所が判明する、それだけの機能だよ」


 この説明を聞いて、アドニスは眉を顰めた。

 理解できないからじゃない。理解出来たからこそ、眉を顰めたのだ。


 簡単なんてカエルは言ったが、それは今までに知り得なかった事実だ。つまり自分達は『組織』に、いや『世界』に監視されていたと言う事となる。

 ポケットから同じように端末を取り出し見下ろす。


 「この機械を持っていると、自分の居場所が『国』に筒抜けだったと?」

 「そう、怒った?」

 「……いや、もっともな機能だとおもうよ」


 だが、カエルの答えにアドニスは首を横に振る。

 衝撃であったが、普通に考えれば『世界』がエージェント達の居場所を把握しておく事は至極真っ当だ。怒る事じゃない。

 なにせ、自分達は『世界』の為にと造られた秘密兵器だからである。


 《暗殺者》は幼いころから育て上げた兵器そのもの。

 《諜報員(スパイ)》は様々な国の重要情報を持っている者ばかり。

 《開発者》はその存在自体が機密事項だ。


 組織には大まかにこの3つのエージェント達が存在する。

 これ等が外に流出するなんて、痛手の何物でもないだろう。

 ヘマをして失敗し捕まった。裏切って敵側に寝返った。


 こんな事態が来た時に、速やかに対処に当たれるように……。

 だから、別に携帯端末に発信機が付いていて、自身の居場所を『世界』が把握している。と言う事に関しては問題ない、ないのだが。


 「この情報は、外にも漏れる可能性があるのか……?」

 「うん、そう」


 アドニスの問いに、カエルはすんなりと頷いた。

 このあまりに簡単に肯定された事実は、この場にいた全員が。いや、シーアとカエル以外の三人は苦虫を噛み潰すしかないだろう。


 この手に持つ小さな機械1つで、自分達の居場所が外の人間に筒抜けになると言う可能性をカエルは示したのだ。


 『国』に居場所が筒抜けになるのは当然だが、後者に関しては大問題処の話じゃない。外にも漏れる。すなわち敵に情報が流れる。

 そんなもの、エージェント達の任務に嫌。命に危険が迫ると言う事実でしか無いのだから。


 「まて、俺はその話は聞いてないぞ!発信機の話全てだ!」


 ドウジマが声を荒げた。

 彼は今、上官代理。この話を聞いて一番に部下達に危険が伴う事柄だと察したのだろう。怒るのも無理はない。


 「機密事項だ。関わった一部の開発者と、皇帝陛下にしかこの情報は伝えられてない。『組織』の頭だとしてもね」


 カエルはこの怒りが含んだ問いに関しても、迷うことなくサラリと答えた。

 これにアドニスは眉を顰めながら問う。


 「つまりは、皇帝陛下と。お前達開発者には俺達の位置情報は筒抜けって事か?」

 「あたり」

 此方もまた、カエルは隠すことなく頷いた。


 「正確に言えば。発明家(僕達)が位置情報を随時調べて、怪しい動きをしたエージェント達を見つけたら報告している形」

 「……はあ、分かった。だったら、どうやって位置情報を調べている」


  この事実にドウジマは頭を抱えながら、次の質問に入った。

  カエルはドウジマに視線を移す。


 「モニターだ。ドでかいモニターが開発部門にあってね。それで見る事が出来る」

 「モニター……?皇帝が使う、あの青白い光みたいなものか?」

 「いんや、市民が使うテレビを大きくしたものさ」


 これにはイメージが付いた。カエルは続ける。


 「位置情報を把握するには別の機械が必要でね」

 「別……?」

 「位置情報を知る仕組みだけどね。端末に内蔵された発信装置が発生する特殊な電波を受信して居場所を特定しているんだ。これを受信するための機械が必要」


 ここで一旦話を区切り、カエルは「分かった」と首を傾げる。

 理論まで流石に分からないが、仕組みは何となく理解できた。アドニスは口を開く。


 「その電波を受信できる機械が有れば誰でも、居場所を知り得ると言う事か」

 「正解」


 カエルは三度頷く。

 だが、彼が白衣を立てて続けざまに否定したのは直ぐの事だ。


 「でも、言っておくけどね。機械を作るなんて、簡単にできる事じゃない」


 ゆらゆら白衣を揺らめかしながら、言う。

 そりゃそうだ、と零したのはドウジマだ。


 「そんな精密機械。おいそれと誰でも作れるか。そんな事が出来るのは、貴族上がりで頭がいい――」

 「は?貴族?馬鹿にしないでよ、そんな発明を造れるのは『組織』の僕らだけさ」


 ドウジマが零したその言葉は、見事なまでに切り伏せられるのだが。

 白衣の手が今度は、苛立った様子で腕を組む。不服そうな翠の目がドウジマに向け得られる。


 「あのね。こんな代物を造る事を許されているのは僕達『組織』の人間だけだ。発明とは進歩でもあるが、同時に兵器でもある。許しも無く兵器を造ると言う事は皇帝に仇なす行為に等しい。――お貴族様が出来るかよ」

 

 もっともな正論だ。開発と言う行為には申請が必要で、現に皇帝は国民が秘密裏に何かをモノを作るだけで極刑を与える事が多々ある。それでも、こっそりと開発する国民は後を絶たないが、それは貧民平民あたり。


 貴族がそんな皇帝に逆らうような事をしてバレでもすれば、爵位剥奪。今までの豪華な暮らしは一変。地獄に叩き落されるだろう。


 それに、とカエルは続けた。


 「なにより、物資が無い。僕達でもこの携帯端末とモニターを造るだけで何回も失敗した。その度、ありとあらゆるコネを使って、何とか必要な物資を集めて造ったんだ。それだけでどれだけの資金が使われたか」


 ドウジマは口を噤む。

 聞くだけで嫌でも理解できる。そんな大金を一端の人間が動かせるはずない。

 しかし、それならば……。アドニスは眉を顰める。


 「――お前、矛盾してるぞ」

 

 この言葉に、カエルの目は僅かに細くなった。


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