表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/122

27話『10の王』中編



 『十の王(グーファルト)』を前にして、今まで煩く騒いでいた他の王も口を閉ざした。誰も、何も口にはしない。


 その様子に、『十の王()』は呆れたように溜息を付く。

 前かがみになると、端に新聞がある机に肘を付き、手を組んで口元へ。その体制で、ジトリと画面越しで此方を見据える。まるで此方が見えていると感じる程。鋭く真っすぐな眼であった。


 数人の息を呑む音が聞こえる。彼の視線だけで言いたいことは嫌でもわかった。

 「何のために今日集まったんだ」――と。

 

 ――コホンと、咳を零したのは誰であったか。

 咳払いは兎も角、おずおずと口を開いたのは『三の王』である。


 「さ、先の話とは、ジョセフ殿下とバーバルさんの事で……?」

 「それ以外の何がある」


 問いに、『十の王(グーファルト)』は、視線を机の上にある新聞へ投げる。

 画面内でも分かるほどに、デカデカと『一の王(ジョセフ)』の事故の事が新聞には記載されている。

 ―― そうだ。それが、今の問題だ。


 「……そ、そうね。今は此方に話を戻しましょう」


 我に返ったのか、『十の王()』の言葉に圧倒されたか、『四の王』が話に戻った。

 それに続けるように、『三』と『五』も頷く。『九の王』は何も言わない。

 『八の王(女帝)』も同じ。何も言わない。


 ただ、何も言わないと言う事は、承諾も同じだろう。『十の王(グーファルト)』は一度目を閉じて、また開く。


 「で、お前らは、どう思っているんだ。此処一連の事件について。答えてみろ」


 皆の了承を得て。再度、今度こそ、『王暗殺(本題)』へと進む。



  ◇



 「どう、と言われても……」


 『十の王』の問いに、『三の王』が口籠る。

 少しの間。また、おずおずと口を開く。


 「ぼ、ぼくは、その……。殺されたのだと、思っています」

 「正解だ。『三の王(アレクシス)』」


 その答えを、本名を持って。『十の王(グーファルト)』は返した。

 言葉を詰まらせる『三の王』に、彼は続ける。


 「じゃあ、誰が殺した?」


 この問いにも、誰もが言葉を噤ませた。


 ジョセフ、バーバル。

 『一の王』と『七の王』。ゲーム参加者であったこの2人。

 この2人が、この一ヶ月の間に死んだ。コレは『三の王』の言う通り、「殺された」のは違いない。

 では、誰が殺したか?――簡単だ。


 「――皇帝よ。他に誰がいると言うの」


 『四の王』が冷徹に言い放つ。

 ――正解だ。他に誰がいると言う。

 『六の王』が息を詰まらせるのが分かる。

 

 ガタリと、音を立てて、誰かが立ち上がった。

 画面には『六』の数字が点滅する。


 「なぜ!何故です!?何故、皇帝はゲーム参加者を殺したのですか!玉座を譲ると。そのゲームでは無かったのですか!」


 だが、聞こえて来たのは女の声。

 怒りが混ざった、勢いのままの声。その勢いに誰もが、口を閉ざし。

 しかして、唯一『十の王(グーファルト)』だけは小さく笑った。


 「部外者のくせに、一番話が早い」 

 と、一言前置きして。続ける。


 「簡単な事だぜ、奥方」

 「簡単……?」

 「端から皇帝様は、俺達に玉座なんて譲るつもりはねぇんだよ」


 答えに、誰もが息を呑み詰まらせる。

 いいや。予想していた事であったからこそ。皆、何度も口を閉ざす。


 ゲーバルド。そう呼ばれる暴君が引き起こしたこの『ゲーム』

 『自分が王と思うのなら、名乗りを上げろ。名乗りを上げた者全員で殺し合え。最後の一人に王冠をくれてやる』

 そんな、下らない『ゲーム』に乗りかかったのが、今此処に居る参加者(我々)だ。

 殺される覚悟で、手を上げ。皇帝から赦された存在だ。

 

 手を上げて置きながら、誰もが不快感を感じていた筈。あの皇帝が自分達の反逆とも呼べる、この行為を赦すとは。それも、本気で『ゲーム』を始めるのを決定するなんて。

 知らせを受けた国民たちは、どれほど活気だったか。


 ――ただ、分かり切っていたが。そんな簡単に皇帝が。王が無償(タダ)で玉座を譲る筈も無いのだ。

 自分が王で無くなるゲームだぞ?むしろ、抵抗する。()()()当たり前だ。

 『二の王()』は静かに、卓上の新聞に視線を送る。


 「あの野郎、イレギュラー(バグ)を仕込みやがったのさ。それも飛び切りのな」


 画面の向こうで、同じ新聞を手に振りながら『十の王(グーファルト)』が言う。


 「これは、俺達への宣告だ」

 さらに、一呼吸も置かずに彼は、最後に続けた。


 「“そんな簡単に玉座をやるか、こっちからは()()を仕込んだ。――ほら、『ゲーム』はもう始まってるぞ。好きに動け、自分を楽しませてみろ”、てな」


 先、誰かが問いかけた筈だ。

 これは、何の宣戦布告なの?

 簡単。コレが、答えである。


  ◇



 ―― その場が静寂に包まれた。

 だれかが、「そんなの有り得ない」とでも発言しても良さそうだが、誰一人として声を上げない。


 部外者と後ろ指を指された女でさえ。『十の王(グーファルト)』の言葉に言葉を詰まらせ、息を呑む。

 誰もが思ったのだろう。

 「ああ、やはり。そうなのか」――と。



 「――……だったら、どうするのだ?」


 重い静寂を破ったのは『五の王』。最初の男。

 苦々しい口ぶりで、この場にいる皆に問いかける。


 「皇帝は、最初から。我々を狩るつもりだった。それは、仕方が無い。だったら、どうする。我々はどう動くべきだ」


 あの最初の短気さからは嘘のような言葉であった。

 まるで、それが「あのお方だ」と言わんばかりに溜息。其々の答えを待つのだ。


 「――このゲームにルールと言うルールは設けられていません」


 最初に答えたのは『八の王(女帝)』。

 言葉の端々に、迷いを巡らせながら言葉を紡ぐ。


 「例えば、今から我々が殺し合っても、ゲーバルドは何も言わないはずです」

 「え?じゃあ、今から殺し合っちゃう?」

 茶化す様な『九の王(レベッカ)


 「――いいえ」

 『八の王(女帝)』は否定する。


 「それはゲーバルド(皇帝)は赦しても。何も知らない多くの国民たちの目から見れば、それはルール違反に映ります。我々は大人しく『ゲーム』開始日を待つべきです」

 「だったら、どうすんのさ。ゲーム開始前にイレギュラーに皆殺しかもよ?」


 また、『九の王(レベッカ)』が茶々を入れる。

 しかし、それもまた事実だ。


 皇帝は『ゲーム』にイレギュラーを入れた。コレは違いない。我々を狩る、此方の敵だ。

 だが、この事実に気が付いたのは、今この場にいる『王』だけ。


 「国民に告発するべきです!皇帝陛下はズルをしていると!」

 『六の王(部外者)』が声を張り上げる。


 「むり、では?」

 否定したのは、以外にも『三の王(優男)


 「この『ゲーム』を開催したのは皇帝です。『ゲーム』のルールは彼にある。まだ、この国は彼の物です。非難を上げられるのなら、暴君はいません。それに、彼は奪われる前に抗っただけ。……抗う権利は、十分あります」


 と、皇帝側の権利を(ズルではない、と)主張したのだ。

 続けて『十の王(グーファルト)』が続け言う。


 「ソレにだ、奥方。送り込まれたのは犬一匹だ。猟犬一匹で死んじまうならな。王の座は相応しくねぇよ。つーか、殺し屋が差し向けられた……この可能性を考えない奴は、ゲームが始まっても直ぐに死んじまう。――ジョセフだって考慮していたはずだ。その為の影武者だろ?」


 『六の王(部外者)』が黙る。

 反対に代りに『六の王(もう一人)』が、口を開く。


 「――では、我々は、コレからどう動けと……?」

 『五の王』と同じ答えに辿り着くわけだ。


 「簡単ですよ」

 『八の王(女帝)』が答えた。


 「協定を結べばいい」


 少しの間が空く。

 「協定……?」

 だれかが、口に零した。『八の王(女帝)』が「ええ」と肯定する。



 「イレギュラーを殺す間だけの協定です」

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ