27話『10の王』中編
『十の王』を前にして、今まで煩く騒いでいた他の王も口を閉ざした。誰も、何も口にはしない。
その様子に、『十の王』は呆れたように溜息を付く。
前かがみになると、端に新聞がある机に肘を付き、手を組んで口元へ。その体制で、ジトリと画面越しで此方を見据える。まるで此方が見えていると感じる程。鋭く真っすぐな眼であった。
数人の息を呑む音が聞こえる。彼の視線だけで言いたいことは嫌でもわかった。
「何のために今日集まったんだ」――と。
――コホンと、咳を零したのは誰であったか。
咳払いは兎も角、おずおずと口を開いたのは『三の王』である。
「さ、先の話とは、ジョセフ殿下とバーバルさんの事で……?」
「それ以外の何がある」
問いに、『十の王』は、視線を机の上にある新聞へ投げる。
画面内でも分かるほどに、デカデカと『一の王』の事故の事が新聞には記載されている。
―― そうだ。それが、今の問題だ。
「……そ、そうね。今は此方に話を戻しましょう」
我に返ったのか、『十の王』の言葉に圧倒されたか、『四の王』が話に戻った。
それに続けるように、『三』と『五』も頷く。『九の王』は何も言わない。
『八の王』も同じ。何も言わない。
ただ、何も言わないと言う事は、承諾も同じだろう。『十の王』は一度目を閉じて、また開く。
「で、お前らは、どう思っているんだ。此処一連の事件について。答えてみろ」
皆の了承を得て。再度、今度こそ、『王暗殺』へと進む。
◇
「どう、と言われても……」
『十の王』の問いに、『三の王』が口籠る。
少しの間。また、おずおずと口を開く。
「ぼ、ぼくは、その……。殺されたのだと、思っています」
「正解だ。『三の王』」
その答えを、本名を持って。『十の王』は返した。
言葉を詰まらせる『三の王』に、彼は続ける。
「じゃあ、誰が殺した?」
この問いにも、誰もが言葉を噤ませた。
ジョセフ、バーバル。
『一の王』と『七の王』。ゲーム参加者であったこの2人。
この2人が、この一ヶ月の間に死んだ。コレは『三の王』の言う通り、「殺された」のは違いない。
では、誰が殺したか?――簡単だ。
「――皇帝よ。他に誰がいると言うの」
『四の王』が冷徹に言い放つ。
――正解だ。他に誰がいると言う。
『六の王』が息を詰まらせるのが分かる。
ガタリと、音を立てて、誰かが立ち上がった。
画面には『六』の数字が点滅する。
「なぜ!何故です!?何故、皇帝はゲーム参加者を殺したのですか!玉座を譲ると。そのゲームでは無かったのですか!」
だが、聞こえて来たのは女の声。
怒りが混ざった、勢いのままの声。その勢いに誰もが、口を閉ざし。
しかして、唯一『十の王』だけは小さく笑った。
「部外者のくせに、一番話が早い」
と、一言前置きして。続ける。
「簡単な事だぜ、奥方」
「簡単……?」
「端から皇帝様は、俺達に玉座なんて譲るつもりはねぇんだよ」
答えに、誰もが息を呑み詰まらせる。
いいや。予想していた事であったからこそ。皆、何度も口を閉ざす。
ゲーバルド。そう呼ばれる暴君が引き起こしたこの『ゲーム』
『自分が王と思うのなら、名乗りを上げろ。名乗りを上げた者全員で殺し合え。最後の一人に王冠をくれてやる』
そんな、下らない『ゲーム』に乗りかかったのが、今此処に居る参加者だ。
殺される覚悟で、手を上げ。皇帝から赦された存在だ。
手を上げて置きながら、誰もが不快感を感じていた筈。あの皇帝が自分達の反逆とも呼べる、この行為を赦すとは。それも、本気で『ゲーム』を始めるのを決定するなんて。
知らせを受けた国民たちは、どれほど活気だったか。
――ただ、分かり切っていたが。そんな簡単に皇帝が。王が無償で玉座を譲る筈も無いのだ。
自分が王で無くなるゲームだぞ?むしろ、抵抗する。それが当たり前だ。
『二の王』は静かに、卓上の新聞に視線を送る。
「あの野郎、イレギュラーを仕込みやがったのさ。それも飛び切りのな」
画面の向こうで、同じ新聞を手に振りながら『十の王』が言う。
「これは、俺達への宣告だ」
さらに、一呼吸も置かずに彼は、最後に続けた。
「“そんな簡単に玉座をやるか、こっちからは猟犬を仕込んだ。――ほら、『ゲーム』はもう始まってるぞ。好きに動け、自分を楽しませてみろ”、てな」
先、誰かが問いかけた筈だ。
これは、何の宣戦布告なの?
簡単。コレが、答えである。
◇
―― その場が静寂に包まれた。
だれかが、「そんなの有り得ない」とでも発言しても良さそうだが、誰一人として声を上げない。
部外者と後ろ指を指された女でさえ。『十の王』の言葉に言葉を詰まらせ、息を呑む。
誰もが思ったのだろう。
「ああ、やはり。そうなのか」――と。
「――……だったら、どうするのだ?」
重い静寂を破ったのは『五の王』。最初の男。
苦々しい口ぶりで、この場にいる皆に問いかける。
「皇帝は、最初から。我々を狩るつもりだった。それは、仕方が無い。だったら、どうする。我々はどう動くべきだ」
あの最初の短気さからは嘘のような言葉であった。
まるで、それが「あのお方だ」と言わんばかりに溜息。其々の答えを待つのだ。
「――このゲームにルールと言うルールは設けられていません」
最初に答えたのは『八の王』。
言葉の端々に、迷いを巡らせながら言葉を紡ぐ。
「例えば、今から我々が殺し合っても、ゲーバルドは何も言わないはずです」
「え?じゃあ、今から殺し合っちゃう?」
茶化す様な『九の王』
「――いいえ」
『八の王』は否定する。
「それはゲーバルドは赦しても。何も知らない多くの国民たちの目から見れば、それはルール違反に映ります。我々は大人しく『ゲーム』開始日を待つべきです」
「だったら、どうすんのさ。ゲーム開始前にイレギュラーに皆殺しかもよ?」
また、『九の王』が茶々を入れる。
しかし、それもまた事実だ。
皇帝は『ゲーム』にイレギュラーを入れた。コレは違いない。我々を狩る、此方の敵だ。
だが、この事実に気が付いたのは、今この場にいる『王』だけ。
「国民に告発するべきです!皇帝陛下はズルをしていると!」
『六の王』が声を張り上げる。
「むり、では?」
否定したのは、以外にも『三の王』
「この『ゲーム』を開催したのは皇帝です。『ゲーム』のルールは彼にある。まだ、この国は彼の物です。非難を上げられるのなら、暴君はいません。それに、彼は奪われる前に抗っただけ。……抗う権利は、十分あります」
と、皇帝側の権利を主張したのだ。
続けて『十の王』が続け言う。
「ソレにだ、奥方。送り込まれたのは犬一匹だ。猟犬一匹で死んじまうならな。王の座は相応しくねぇよ。つーか、殺し屋が差し向けられた……この可能性を考えない奴は、ゲームが始まっても直ぐに死んじまう。――ジョセフだって考慮していたはずだ。その為の影武者だろ?」
『六の王』が黙る。
反対に代りに『六の王』が、口を開く。
「――では、我々は、コレからどう動けと……?」
『五の王』と同じ答えに辿り着くわけだ。
「簡単ですよ」
『八の王』が答えた。
「協定を結べばいい」
少しの間が空く。
「協定……?」
だれかが、口に零した。『八の王』が「ええ」と肯定する。
「イレギュラーを殺す間だけの協定です」




