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26話『10の王』前編

 


 広い部屋の中に、その男はいた。

 暗い中。その場には彼しかいない。

 古びた机の前、古びた椅子に座る。


 机の上にはパソコン(機械)が一台。暗闇を照らす。


 画面が更に大きく光を放ち。音を立てて画面に8つの数字が浮かんだ。

 そのなかで、一つの数字が点滅する。


 「おい、コレはどういう事だ?」


 ―― 誰が、最初に零したか。声が一つ。

 その声色は怒気と困惑に染まり、唯のその一言で在ろうとも震えているのが分かる。

 しかも、問いに答える者はおらず。響き渡る声が消えると、その場は静寂に包まれた。


 机でも叩いたか、激しく何かを叩きつける音。


 「どういうことだ。コレは!!」

 もう一度、同じ声。次は怒号。

 

 ―― 溜息が一つ。

 画面が点滅する。

 

 「馬鹿ね。分からないの?」


 今度は響くは女の声。淑やかで美しく。心から呆れかえるような声。

 彼女は続ける。


 「記事の通りよ」


 何かを、投げ捨てる音。

 音からして、紙。言葉からして新聞。

 もう一度ため息を零し、此方も投げ捨てるように言霊。


 「どう見てもゲーバルドの仕業だわ」

 冷静に、しかし苛立った様子で放つ。


 また、画面の別の数字が点滅する。


 「――せ、宣戦……布告。……でしょうか?」


 今度は別の声。男。気弱そうな、優しげな声色。

 だが、此方もまた困惑。


 「でしょうね」

 先ほどの女が間を開ける事無く肯定。

 再び、その場が静まり返った。


 誰も何も言わない。静寂が流れる。


 「あのさぁ。これって、どういうつもりの宣戦布告なのぉ?」


 それを壊すのは、幼子の様な少女の声。画面を見れば、別の数字が点滅。

 数人の、溜息が聞こえる。


 「あれぇ?ボク馬鹿にされてるぅ?」


 少女が不満気な言葉を上げる。

 たが、その声には不満さは一ミリも無い。むしろ、子供が悪戯して揶揄(からか)う様に「ゲラゲラ」


 機械の向こうで、腹立たしそうに息を吐く音が数個。

 それでも、少女はクスクス笑いを止めはしない。


 「やめなさい。レベッカ」


 誰かが、名を呼んだ。

 レベッカ。名を呼ばれた少女は、ピタリと笑うのを止める。

 凛とした、落ち着いた声色の女は静かに続けた。


 「皆も落ち着きなさい」


 ぴしゃりと。圧が掛かる。機械向こうからでも十二分に伝わり。

 その場の殆ど全員が、その女の圧に押し黙った。

 怒りを露にしていた男も、苛立ちを露わにしていた男も、恐怖を露わにしていた男も。

 この場を、かき乱そうと目論んでいた少女も、クスリとも声を漏らさなくなった。


 画面を見つつ、彼は思う。

 この女の迫力と存在感に勝てる者は、そういないのだろう、と。

 流石『優勝候補』。女帝と呼ばれる女だ。


 女帝(彼女)の造り出した、三度目の静寂。

 コレを壊したのは、また別の女だった。


 「―― 恐れながら、疑問を一つ」


 画面を見る。点滅する数字は『六』。彼は小さく首を傾げる。

 その、画面向こうの女は。礼儀が正しい口調で。一度間をおいて。


 「『九の王』の言葉は、正しい。――皇帝陛下は何をお考えなので?」

 

 と、しかし。怒りが隠し切れない声色で。

 彼ら――……『10の王』に問いただしてくるのだ。


 息を呑んだ『王』は、誰か。

 ガタリ、椅子か机か。木造の何かがズレる音が響く。


 「――すまない。先日出来た私の協力者だ!無礼を働いた」


 今度聞こえるのは、更に別の男の声。

 声からして40代あたりか。落ち着いた声色なれど、焦りが見え隠れしている。

 彼は、パソコン(機械)の画面を見る。変わらず数字が浮かび、今の発言が誰の物か露わにしている。


 浮かぶ数字は『六』。先ほどの礼儀正しい女と同じ数字。

 少しの沈黙のち、『六の王』の隣に別の数字が浮かんで来た。

 

 まずは『三の王』。

 「えーと。協力者?ソレは、『ゲーム』の……ですか?」

 先と変わらず、気弱で優しげな。しかし、不服を混ぜた声。


 次に『四の王』

 「全くだわ。我々の戦いに、いったいどんな部外者をまきこんだわけ?」

 最初の女。二番目に声を上げた女。


 「ルールを破る気か!ああ、なんて苛立たしい!」

 続けざまにもう一人。『五の王』

 一番最初の男。本当に一番に問いかけをした男。


 げらげら笑うは、幼い声色の『九の王(少女)』。

 その光景を『八の王』と呼ばれる女帝は黙認。


 そして、この会話を聞く『二の王()』もまた口を閉ざして、この場に居る。ただ、騒ぐ他の王たちを画面越しで、静かに見据えていた。


 ――……今、この場には十人の王が居る。

 いや、数が減って、今は八人か。


 画面の向こうで、顔は見せずに、しかし。

 そう。この暴君が君臨する世界で、皇帝の戯言に手を上げ。

 「我こそが王だ」と『ゲーム』に参加した。『10の王』。

 その全員が、今この場に揃っているのだ。


 しかし。どうした物か。

 騒ぎ立てる他の『王』の前で、『二の王()』は顎をしゃくった。

 煩い。心の底から煩いとげんなりする。この『王』達の糾弾に。


 今、この場に居る『王』が騒いでいる原因は『六の王』にある。

 もっと詳しく言えば、つい先程声を露わにした『六の王』の側にいる女。名も知らない彼女が原因。

 今日は『ゲーム参加者』の協議でとして、こうして集まったのだが。

 断言しよう。その中で『六の王』と呼ばれる存在は男だ。断じて女じゃない。

 つまりは、先程の『六の王』の女。部外者である。だから、他の王(周り)は騒ぎ立てる。

 

 これ以上騒ぎが大きくなれば、誰かが

 「参加者に相応しくない。失格だ」

 と、言いだしそうな雰囲気。『六の王』も何も言えない。


 ここは、『八の王(女帝)』。彼女に任せるべきなのだろうが。

 彼女は僅かな声を上げる事もしない。


 そもそもと思う。こんな下らない会話をしている暇があるのか、と。

 テーブルの上。手元の2つの新聞に目を落とす。目に映るは其々の記事。


 1つ、「宗教団体、謎の火災。死者数不明」

 2つ、「ジョセフ皇子、事故死」


 『七の王(バーバル)』と『一の王(ジョセフ)』と名を上げた両者()の死亡を発表した物。

 今、話題にすべきことは此方だろう。

 コレが原因で、わざわざ自分に接触してきたのではないか?女ごときで話を変えないで欲しい。

 小さく溜息を付いて、この場を設けた『八の王(女帝)』の()を見る。


 何か言うべきか。いや、『二の王()』は口黙る。声も漏らさず、現状を見極める。

 暫くは、この煩い『六の王』批判に付き合うかと、もう一度溜息を零そうとした時。



 「――……だまれ」

 低い。今までの誰よりも圧が掛かる声が、響くのだ。



 彼は画面を見る。点滅する数は『十の王』。

 いままで、自身と同じように一言も声を発さなかった存在だ。

 『二の王()』は、ふと目を細めた。


 この『王』は良く知っている。

 本名を「グーファルト」

 数か月前。『ゲーム』が開催されると決定された日から、唐突に名を上げ。轟かした人物。


 「自由ある国」を掲げ。『世界』謀反(レジスタンス)を立ち上げた。

 掲げる理想の為ならば、何をしても厭わないスタンス。

 しかし、何故か彼の名を尊ぶ民衆は後を絶たない。

 今では、あの暴君と唯一渡り合えると噂される、産まれ付いての『王』

 『10の王』の中で、『八の王(女帝)』に並び優勝候補と名高い人物。それが彼だ。


 画面が揺れる。ノイズが走り、数秒。一人の男が映った。

 歳は30程か。長い銀髪。銀色の切れ長の鋭い眼。

 見間違えるわけもない。こうも、堂々と姿を現すとは。流石と言うべきか。

 古びたソファに腰かける画面向こう。『十の王(グーファルト)』は、舌打ちを繰り出す。


 「下らねぇ話を続ける暇があるなら、先の話に戻れ。俺達より今は皇帝(現王)が問題だろう」

 低い声で、迷いもなく。口沿いするのである。




話は3つに分かれています。いっきに投稿してもいいのですが。

話の続きが書けない追い付けないと言う作者の都合により、

一日一話投稿にさせていただきます。

明日は投稿お休みです

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