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110話『生き残り』

 

「ふん。まるで潰れたカエルみたいだな」


 村外れ。

 『組織』の人間が集まり慌ただしく働いている中、銀色の髪を風になびかせながら『十の王』は煙草を片手に呟いた。

 彼の目に映っているのは、黒い袋の中。乱雑にぶち込まれた二つの死体だ。

 一つは頭が潰れ識別不能。もう一つは肉だまりと化し識別不能。

 これがあの偽善者ぶった『三の王』と復讐に燃え上がっていた『六の王』と誰が思えようか。


 タバコを吸いながら側に居たドウジマに視線を送る。


「おい、呼ばれてきてみれば。本当にこいつらは『三の王』と『六の王』なんだろうな?原型がねぇぞ」

「……確認済だ。『世界』の化学班の能力を疑うのか?」


 一瞬疑うが、コレは2人の『王』の死体で間違いないらしい。

 と言うのもヒュプノスと呼ばれる少女から連絡があり駆け付けた後、この原形をとどめていない二つの死体は徹底的に調べ上げられた。カメラの映像を確認し、遺伝子検査。その結果、二つの死体は『三の王』アレクシス。『六の王』フレシアンナであると正式的に解明されたのだ。


「ふーん。ま、『世界』が言うんじゃ、その通りなんだろうな」


 説明を聞き、つまらなさそうに『十の王』は手に持つたばこを落とすと踏みつける。

 背に抱き付いたままのフォックスの頭を撫でながら、大きなため息を一つ。


「話ってのはそれだけか?――わざわざ残った『王』を呼びつけてご苦労な事だ」


 少年を連れたまま背を向ける。

 もう興味はないと言わんばかりにこの場を離れようと歩み出した。

 彼をこの場に呼び出したのはドウジマだ。話があると残った『ゲーム参加者()』の三人に声を掛けた。

 といっても、『五の王』は行方不明。『九の王』は拒否して今この場に来たのは『十番目』だけであったが。

 その『十番』も確認が済んだら、もう用は無いと言わんばかり。


 そんな彼の背を見ながらドウジマは大きく溜息を付く。


「二人を殺したのは『組織』だ。それだけは伝えておく」


 この報告。

 『十番目』の足は止まる。

 ちらりと銀色の眼がドウジマを睨む。


「言われなくても分かってる。でもな『三番』はさて置き、『六番』はなんだ。人の殺しかたじゃないだろ?これは、自称【神様】か?それとも天才様の仕業か?」

「……ヒュプノスって女だ。映像見るか?」

「いいよ、あのお嬢さんは規格外過ぎて興味ない。勝てる気もしない」


 ぶっちゃけ言わば、彼女のミサイル落としの件は嫌でも目に入ったし。とはあえて言わなかった。

 ばさりと切り捨てる様に言い切って、眼を細める。

 少しの沈黙、背の少年が不安そうに顔を上げ始めた頃。再びドウジマが口を開く。


「『五の王』の居場所を知っているか?」

「いいや」


 問いに対し、直ぐに首を振った。


「だが、予想は付いている」


 続けざまに言葉を零す。

 『十の王』の様子にドウジマは険しい表情を見せ、苦々しい顔のまま溜息を零す。


「ま、コレはそんな『ゲーム』だろ?其処まで気に病む必要、あんたには無いだろ?」

「…………」

「あんたは何時も重荷を背負い過ぎなんだよ」


 助言にも似たような言葉を零し、軽く片手を上げる。

 もう『十の王』にとってこの場に用はない。これが最後の対話になろうとも、今の彼には意味も無い。


「ん?お、『十の王』様じゃん」


 ふと、『十の王』の正面から軽い声を掛けながら歩み寄ってくる人物がいた。

 サングラス向こうで親しみと殺気を交わせて、にこやかに声を掛けるのはマイケルだ。

 軽く手を振る彼に対して、『十の王』も返す様に手を振り返す。

 フォックスが怪しんで背に隠れようとも気にしない。


「よお、マイケル」


 『十の王』の眼には殺気はなく。実に親しげだ。

 歩み寄った2人は何を言う事でもなく、ハイタッチを一つ。

 そのまま『十の王』はマイケルを通り過ぎてゆく。

 反対にマイケルは脚を止めた。


「――『十の王』様よ」

「…………ん?」


 呼ばれて初めて足を止める。

 サングラス向こうで金色の眼が銀色の男を睨む。


「うちの最強くんはどうだい?」


 何気なくも何処か確信を付く様な問い。

 長く寒々しい沈黙が流れた。

 どれほど経ったか、銀色の男は目を細めてニヤリと笑う。


「ああ、想像以上に面白い(やつ)だったよ。ああいう奴を待ち望んでいた」


 酷く楽しそうに、心から望んでいたかのように。

 たが彼の表情が変わったのは直ぐの事だ。

 冷め切った表情へと変わり、マイケルから銀色の視線は外される。


「だが、今は残った『王様』だ」

「……ふーん、それってまさか『五番』?」

「――さてね」


 深くは答えない。

 『十番』がマイケルに対して答えたのは唯、それだけ。

 完全に話し終えたと言わんばかりに『組織』に背を向けて歩みを再開する。

 もうその足が止まる事は永久にないだろう。彼はたった今別離を終えたのだから。

 彼の後ろを少年が慌てたようにちょこちょこ着いて行く。


 マイケルはその様子を酷く表情を歪めて見つめていた。

 嗚呼あのガキの仕業か。

 なんて、心の中で小馬鹿にしながら。

 金色の眼は『十番目』から離される。


「心配しなくても、明日中には終わらせるよ」


 最後に『十の王』の発した言葉、これは誰に向けられたモノだったか。

 今この場で険しい顔を浮かべる『組織』の人間には分からない。

 彼らに見送られながら、『十の王(グーファルト)』は村の奥へと消えていった。




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