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ゆえに、僕は神を愛そう  作者: 海鳴ねこ
色の無い瞳
114/122

107話『フレシアンナ』

 

 『六の王』


 彼女は心から愛した男がいた。

 それは政略結婚だったが構わない。一目ぼれだったのだ。

 星屑の様な銀髪、父親譲りの翠の瞳。男らしく整った彼に心を奪われる人なんていない――!


 彼女は心から男を愛した。


 男が皇族の暮らす城から離れ、城下に住むと言った時。

 次期王として市民の声を聞きたいと言う彼の願いを素直に受け入れ身一つで着いて行った。

 男が市民の為にと尽力を尽くすとき、同じようにその身を捧げて好きでもない民に身を尽くした。

 子が産まれ、男が一人で家を出て言った時は文句を言わずに待ち続けた。


 男が酷く臆病者で父親である皇帝に酷いコンプレックスを抱いていた事も知っていた。

 父のマネが出来ないと、唯のそんな理由で国民たちに表向きだけ付き添った偽善定期な行動だと気が付いていても。

 子供が生まれた自分に男が飽き、違う女にうつつを抜かしていたと気が付いていても。


 最後は自分の元に帰ってきてくれると、寂れたアパートで幼い娘と共に待っていた。

 それでも愛した男は帰って来てはくれない。


 そればかりか、ある日事件が起こる。

 娘が僅かに大きくなった時の事。


 義理父が言ったのだ。

 ジョセフ()から王位継承権を剥奪する。

 幼い孫娘に第一王位継承権を渡す――と。


 この日から愛した男は壊れてしまった。

 彼女は皇族の母として王女()と共に城に引き戻され、男は彼女の元に帰って来なくなった。

 帰れなくなったのではない、帰って来なくなったのだ。


 自分から王位を奪った娘の顔なんぞ、そんな邪魔者を産んだ女の顔なぞ見たくないと。


 女は娘を憎んだ。愛せなくなった。

 彼女は何処までも、何処までも親ではなく女であったから。


 男が他の女にうつつを抜かそうが、自分をのけ者にしようが我慢した。

 それでも必死に彼の為だけに尽くそうと、娘を蔑ろにしてまで頑張った。


 見てくれない、見てくれない、見てくれない。

 ソレがどれ程憎たらしく、辛かった事だろうか。


 男が触ったモノ全てを裏で壊した。

 男が愛した物全てを自分の手で殺した。

 男が求めた物は与えておきながら、飽きたら徹底的に壊した。


 愛ゆえに、愛しているがゆえに、彼の為ならなんでもした。


 『ゲーム』が決まったのは、そんなある日の事だ。

 珍しく夫が嬉しそうにやって来て報告して来た。


「最後のチャンスだ。コレをモノとする。叔父上にも協力を頼んだ。皇族の伝手を使い何としてでも私は『王』となる」


 珍しくご機嫌で、意気揚々と。

 そんな彼を見て、どれほど嬉しかったか。どれほど誇りに思ったか。


 彼女は誓った。

 自分も手を貸すと、彼の為になんでもすると。

 彼が王になる為に、彼だけの為に、その為だったら娘だって殺してやろう。


 ――皇帝に、その思惑が知られているとも知らず。


 『ゲーム』が決まって一週間。

 夫は死んだ。


 皇帝の犬の手によって死んだ。

 呆気なく、簡単に、慈悲も無く、殺された――。


 彼女が復讐に身を投じるのは時間の問題だった。

 娘を完全に捨ててまで、憎い義理父に縋りついて迄、頭を擦りつけて『王』になった。


 夫を殺した薄汚い犬を殺す。それだけの為に。

 なんだってする、なんだって利用する、なんだって屠る覚悟がある。

 だって、夫以上の存在なんていないから。あの人を愛しているからこそ。


 夫以外の存在など、蟻も同然。

 すべて、すべて、すべて、すべて、すべて、すべて――。

 駄犬を殺すために、壊し尽くしてやる。


 ソレが『六の王』

 フレシアンナ・ゴーダン

 彼女の生涯を掛けた復讐の物語である。



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