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ゆえに、僕は神を愛そう  作者: 海鳴ねこ
色の無い瞳
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95話『大きな問題』

 

 つい先程頭をよぎった問題が早速と話題に出る。


「ソレが問題だろ?」


 グーファルトが再度問う。その言葉に『王』は各々口を噤む事となった。

 当然か。アドニスは物陰に潜んだまま、聞き耳を立てる。


 『同盟』はもう無いに等しい。ソレは確か。

 2人殺され、1人は行方不明と言う。その中にはリーダーと呼べる存在が居た訳で、今のメンバーじゃ存続は厳しいだろう。なりたてる事が出来る存在が居ないのだから仕方が無い。故に『同盟』は破棄。そのはずであった。


 僅かな静寂。

 そんなアドニスの考えも虚しく、おずおずとしかしハッキリとした口調でアレクシスが口を開いた。


「『同盟』は続けます」


 迷いなど一切ない宣言。

 一番眉を顰めたのは勿論と言うべきかアドニスだ。

 この男は一体何を言っているのか、一瞬分からなくなった。


 同盟続行だと?

 なんて無駄な事を――。歯を噛みしめる。

 アドニス(自分)を消すために同盟を立ち上げるなんて、何度も言うが実に馬鹿げている。そんな下らない、同盟を壊すために態々最初に『八の王』を排除したと言うのにコレでは全くの無意味だ。全く、こいつらは本当に『ゲーム』の趣旨を理解しているのだろうか。これは、10人と1人による殺し合いの『ゲーム』だと言う事を。


 苛立ちと呆れで思わずとアドニスの口からは舌打ちが零れる。


「ほーん。お前らはソレで言い訳?」


 同じ気持ちなのか溜息交じりでグーファルトが言った。

 後ろに隠れる何処か不機嫌そうに顔を覗かせ伏せるフォックスの頭を乱暴に撫でながら続ける。


「お前達、猟犬に狙われたんだろ?しかも執拗以上に女帝様を狙って来たって言うじゃねぇか」

「……はい」

「だったら、俺の考えは当たっていたな。流石は猟犬さまだ。皇帝の『ゲーム』に反することは許さないらしい」


 一度目を瞑り、グーファルトは真っすぐに見据える。


「お前ら、このゲームの趣旨忘れてないよな?理解したうえで、その同盟を続けるって事でいいんだな」

「……」


 彼の問いに、アレクシスは何も答える事は無かった。

 肯定も否定もしない。だがその瞳には確固たる決意が固まっていた。それだけで答えなど十分と言うモノだ。


「狙われるのは百も承知です。それでもあんな化け物放っておくわけには行かない。そうでしょう?」


 少しの沈黙のち、当たり前のようにアレクシスは答えを提示する。

 賛同を求めるかのように、側に立つレベッカと『六の王』を目に映し問う。

 ちらりと顔を上げ、金色の瞳に決意が定まった青年を映したのはレベッカだ。

 変わらず妖艶でしかし嫌に子供っぽい笑顔を浮かべて大きく頷く。


「そだねぇ。あれ、こわいもんねぇ?」


 けたけたり笑って、あまり感情が籠っていない口調と態度。

 しかしアレクシスの言動に賛同なのは確か。口元を更に吊り上げ彼女は笑う。


「いるだけでゲームの邪魔になりそう」


 ソレが同盟続行を認めたレベッカの単純で明確な動機らしい。

 いや、口調も相まって今の言葉が本心かも不明であるが。


「ね、そうだよねぇ?」


 軽い口調で隣に佇む、『六の王(問題児)』に話を振る。

 青いドレスに赤黒い染みを付けたままの女は腕をみつつ険しい顔を上げた。


「ええ、そうですわね」


 彼女もまた迷いもなく氷結の言葉を放つ。

 肩につく長い茶色の髪を流す様に上げて、美しい容姿であるのにコレでもかと醜く歪みきる顔。


「――君ってさぁ、何があったのぉ?」


 レベッカが問いただした。『六の王』の覇気に疑問を抱いたのだろう。

 この問いに関し、グーフェルトは目を細め苦笑を浮かべた。


「おい、女――」

「だって気になるじゃん♪何があったのさ!」


 制そうと手を出したグーファルトを押しのける様に顔を出し、ニマリ。

 誰の目からもそれは地雷を踏み抜いている様にしか見えなかった。


「おい、馬鹿。こいつは――」

「そうですね。同盟存続に賛成していただいたのは嬉しいのですが、何故賛同していただいたか気になります。宜しければお話を聞かせて頂けますか?」


 最後の止めと言わんばかりに、無駄に真剣な表情でアレクシスが声を掛ける。コレが起爆スイッチ。

 刹那『六の王』は手を振り上げ、その表情をさらに大きく歪ませる。眉間にしわを寄せ、目に狂気を宿し、悪鬼羅刹が如く般若の面持ちを顔に浮かべ上げるのだ。


「なぜですって!?わたくしが、わたくしだけがあの駄犬に仕置きをして当然の立場に居るのですよ!!それが分からないのですか!?」


 張り裂けんばかりの声。

 その迫力に威圧にアレクシスは僅かに息を呑み、レベッカは楽しそうにニマリと笑う。溜息を付くのはグーファルトと、隠れ見ていたアドニスだけだ。

 ああ、そう。『六の王』

 アドニスはあの女の正体は最初から知っている。立場的に知らない方が可笑しい。

 最初見た時は流石に度肝を抜かれたような気持にもなったが、彼女が此処に立つ理由も今理解出来た。


 だからこそ実に下らなくて溜息が零れる。

 そんな心情など露知らず。『六の王』は大きく振り上げた手を胸元に置いて張り裂けんばかりの声を振り上げるのだ。


「わたしくは愛する夫を殺されましたのよ!世界で唯一愛した男を殺されましたのよ!こんな下らないゲームに!」


 ――。ああ、やはりか。

 これにやはり息を付く。


 ほら、馬鹿げているだろう。

 この女は一人の男の復讐の為にゲームに無理矢理参加したのだ。皇帝も良く許したものだ。

 いや、面白いと思えたからこそ参加を見逃したのか。興味も無い存在の嫁は更に価値も無いと言う奴なのだろうか。


 そもそも、殺されたとか言うが、このゲームに参加したのは紛れもなくこの女の愛する男と言う存在だ。

 何度も言うがコレは殺し合いのデスゲームなのだが。理解しているのだろうか、この参加者達。溜息を付く。


「あの人だったら、あの人にこそこのゲームの優勝が相応しかったのに!剥奪された彼の、コレが最後のチャンスであったのに!」


 地団駄を踏みながら女が吠える。

 ここでアレクシスが彼女の正体に気が付いたらしい。見る見るうちに青ざめていくのが分かった。

 まぁ、気が付かないのも当然か。


 有名だったのは、第一皇子であるアイツだけであったし。

 現皇帝の今は無き妻の弟君とか?皇子の()とか、貧しい村や町に住む者達は姿なんて一度たりとも見たことは無いだろうから。


「わたくしは夫の亡骸の目で誓いましたのよ。お義理父様に、アイツが放った猟犬に復讐してやると!」


 般若の面持ちで、興奮しきった女はアレクシスの元へと走り寄ると勢い儘に胸倉を掴み上げ声を振り上げる。



「わたくしは、わたくしフレシアンナ・ゴーダンは夫の、『一の王(ジョセフ)』の仇を取るために此処に立っていますの!それだけの為に全てを犠牲にして此処に居ますの!!」



 今は亡き、王位を剥奪された落ちこぼれを最後まで愛し抜く復讐者(王妃)は、そう高らかに声を振り上げるのだ。




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