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ゆえに、僕は神を愛そう  作者: 海鳴ねこ
色の無い瞳
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93話『大穴』

 


「…………」


 相変わらず錆びた村落の端。

 廃墟となった、あの屋敷の前にアドニスは立つ。

 顔を上げて眉を顰めて苦い顔。


 彼の前には相変わらず、苔に覆われた屋根と蔦が生い茂ったボロボロの外装が目に入るはずであった。

 だが、目に映る物は大きく違う。

 黒い眼に映っているのは、崩れ切った石作りの壁。彼方此方に穴が開き崩壊している。屋根は半分が破壊され――。いや、違う。

 寂れながらも大きな屋敷。ソレが半分、ごっそりと抉り取られていたのである。


 半分に割れた屋敷であったモノから瓦礫がポロポロと落ちる。

 踏み込むのは危険であるが――。


「――!」


 ふとアドニスは何かに気が付き眉を上げた。

 足早に進みよる。屋敷の中、エントランスであった場所だ。

 床に開けた大穴。コレだけは誰が開けた物か良く知っている。

 問題はその大穴の端。割れた穴の側にベットリと赤黒い染みが付いていることに。

 染みは大きく広がっており、大穴まで続いている。


 確かこの穴の先は――。


「『四の王』が殺されたのは此処か……」


 異常な迄の出血。到底人は生きていられない。

 なら、『四の王』マリアンヌが殺されたのは此処で違いないだろう。

 アドニスは染みに手を伸ばす。指で掬ってみるが、乾いていて僅かにも指には付かない。

 報告から数時間は経っているので当たり前だろうが。ぱっと見と触った感触から、数時間処か半日は経っているだろう。


「――。だったら、『王』が逃げて行ったときか?あの後、直ぐに殺されたと?」


 昨日、黒塀での一幕。

 目の前に現れた猟犬(アドニス)に『王』達が様々な反応を見せたあの時。

 『四の王』は『五の王』と共にこの屋敷へと走り去って行ったはず。


「仲たがいでもしたか?」


 アドニスは大穴の底を見て呟く。それは、昨日から合ったものだ。

 屋敷の地下、そこにずらりと敷き詰められていた物。


 ――。拳銃、マシンガン、ライフル、手榴弾、爆弾、大砲、バズーカ。ナイフに刀とハンマーetc.


 武器と言う武器がずらりと敷き詰められ並べられている。

 これが『四の王』の武器――。いや、『四の王』と『五の王』の武器と言う所か。

 この『ゲーム』の為に二人が用意した物で違いないだろう。


 『四の王』『五の王』は同盟関係なく手を組んでいた。コレは確かであろう。


 それは昨日の時点で分かっていた事だ。

 だが、何かが有って仲たがい。『五の王』が『四の王』を殺した。そう考えれば楽なのであるが。


「――いや。この獲物じゃこの崩壊ぶりは説明できない。なんだこれ?ミサイルぐらいじゃなきゃ此処までならないだろ」


 屋敷の壊れ方は尋常じゃない。

 たとえバズーカであっても半分を繰り取ることは出来ない。

 『組織産』の武器か《オーガニスト産》であるなら可能性もあるが、今は此処まで強力な物を作れる人物はもう居ない。そもそも、作れていないし。此処までの破壊を出来るとすればミサイルを撃たれ直撃したぐらいか?いや、ミサイルならもっとひどい気もするが。


「――人の手でやられたな、これは……」


 武器ではありえないと考えた先、待っている答えは1つ。

 これは、この崩壊は人が起こしたと言う事実――。


 無理だろ?いや、出来る。

 鍛錬を積んだ人間なら簡単に。少なくとも『組織』の人間ならいとも簡単に。なら組織の人間が?――違う。それならマイケルやドウジマが把握している筈。そもそもルール違反だ。即座に粛清されるだろう。その報告が無かった時点で『組織』の人間ではない。なら、普通に考えて辿り着く答えは1つ。


「『組織』と同じレベルの人間が参加している、か」


 ――嗚呼、なんて面白いのだろう。

 口元に自然と笑みが零れる。


「こっちです!」

「――!」


 後ろから子が聞こえた。

 慌てて口元に手を伸ばす。


 咄嗟に建物、大穴の中に飛び込んで武器の隙間に身を隠す。

 足音が聞こえて来たのは、それからすぐの事。

 殺気を抑えて隙間から様子を見、聞き耳を立てた。


「見てください!このありさまを!昨晩、気が付いたんです!」


 声が近づいて来た。

 その主は『三の王』アレクシス。

 彼だけじゃない、足音から彼を含め5人。穴の中からでは誰が来たか分からないが――。


「わぁ、すっごーい!」


 まず一人は『九の王』レベッカ


「なんですの……これ?」


 次に『六の王』――。


「こいつぁ……」


「ひゅう」と口笛。

 これは『十の王』グーファルト。

 それならば、もう一つの小さな音は彼の弾避けの少年。


 今この場に来たのは、この5人の様だ。それならグーファルトと言う存在が危険。

 アドニスは更に殺気を抑えると気を静め、気配を出来るだけ消した。



「どうやりゃ、こうなるんだ?ぶん殴ったか?」

「なぐ!?そんな訳ないでしょう!漫画でもあるまいし!」


 グーファルトとアレクシスの細やかな言い争う声が聞こえる。

 冗談だとクツクツ笑う男の声を耳にしながら目を細めた。


 今の発言、冗談には聞こえなかった。

 ほんの軽い気持ちで、彼自身の常識を口にしたよう。


 であるならグーファルト(あいつ)は少なくともそれぐらいの力を持っている。叉は見たことがあると言う事。

 現にグーファルトは首を傾げるばかり。さも当然のように言う。


「なんだ、知らないのか?鍛え方次第では簡単なんだぜ?」

「では、これは貴方が?」


 冷徹な声が放つ。

 それは『六の王』であるのは違いないだろう。

 相変わらずヒステリックな色合いが混じる声色だ。


「いや、俺はやってねぇよ」


 その問いにグーファルトはクツクツ笑う。

 呆れが混ざる様な、面白がっているかのような。

 タバコでも吸っているのか、煙の臭いが鼻をくすぐる。


 隙間から僅かに身を乗り出し、見上げれば銀色の男が大穴を見下ろしている姿が見えた。

 案の定煙草を加え、銀色の髪をたなびかせながら、傍らに黄緑の少年を置いた男。

 銀色の眼が面白そうに穴を見下ろし、ニヤつくと共に細くなる。


 ――もしや、気が付かれたか?

 気配を消し、姿を隠す。


 だが、銀色の眼が視線を外したのは直ぐの事。


「で?ここで『四の王』が殺されたと?」


 まるで話を戻すかのように。

 どうやら彼らも自分と同じ疑問の元に此処にやって来たらしい。


 当たり前か。

 突然『四の王』の悲報が届けば誰もが確認しに来るはず。

 何処で『四の王』が死んだと聞いたかは謎であるが。


「ま、この血痕だ。間違いないだろうな」


 グーファルトが言う。

 おずおずと言う様に次にアレクシスが口を開く。


「あの黒い少年の仕業でしょうか?」

「いや、違うだろ」


 アレクシスの疑問をグーフェルトがばさりと切り捨てた。


「考えて見ろ。昨日あの黒いガキはアマンダ――。『八の王』を追いかけて行っただろ。完全にあの女を標的として定めていた。『四の王』が殺された時は丁度、アイツと殺し合っていた頃だろうさ。それはお前が一番分かっているだろ?」

「――。それは」


 何も言い返せないのか、アレクシスが口籠るのが分かる。


「じゃあ、だれがぁ?」


 子供っぽい口調。レベッカが問う。

 その場に静寂が流れたのは言うまでもない。


 『四の王』は死んだのは事実。では、誰が?


「普通に考えなさい。犬の仕業で無いと考えると、この場にいない。見つからなかった人物が有力でしょう」


 冷たい声で『六の王』が言う。

 この場にいないモノ。それは『五の王』で違いない。 

 これまた同じ考えにいたった訳だ。


「ま、可能性としては一番だろうがなぁ」


 グーファルトが再度大穴を覗き込みながら言う。

 遠目ながらも、僅かながらに彼の顔が歪んだのが確認できた。


「俺が思うに『四』と『五』は元から同盟関係にあったと思っている。それを殺すと思えないんだよな?」

「え――。」




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