犯罪者
小箱の中身に触れた感触で俺の胸が高まった。
固い!金属の感触だ!白金貨か!?
しかし手に取った瞬間違うと分かった。
それは紫色の輝く石がはめ込まれた指輪だった。
掌に乗せ「落ち着け、きっと高価な物に違いない」と自分を安心させると「鑑定!」と声を上げた。
即座にウィンドウが開く。
『不明な魔術の指輪』
現在の鑑定レベルでは効果不明
「え?鑑定にレベルなんかあるのかよ。でも魔術の指輪って事は、おそらく高価な気がする」
これを直接アリシャさんにプレゼントしたとして、万が一安物だった場合、幻滅されてしまうだろう。じゃあ売却して換金するのが賢い選択だ!
翌日、アリシャさんに気取られるのを避けるため、自力で町を歩き回り、一軒の宝石店に入った。
白いひげの店主はカウンターから丸い眼鏡越しに、奇妙な格好の俺を覗き込んでいる。
俺は緊張しながらも、店主に「あのっ!買い取りしてもらいたい物があるんですが」と伝えた。
「買い取り?ふーん、あんたこの町来たばかり?変な格好だねえ」
「え?ええ、少し遠くから旅してきまして…」
「旅ねえ」
店主は警戒心を露わにして、俺を上から下まで覗き込むのだった。
「あの…買い取りを…」
「ああ、物は?」
ぶっきらぼうな応対に少しイラつきながらも俺はポケットから指輪を取り出し、カウンターに置いた。
店主はそれを手に取ると、眼鏡をはずし目を細めてじっと見つめる。
5分ほどあらゆる角度から観察していた店主は再び眼鏡をかけると、俺をギロリと睨みつけた。
そして店の裏に向かって
「おーい!ジル!!ちょっと来てくれ!」
と叫んだ。
予想外の展開に俺の心臓がドクドクと鳴り出す。
裏から現れたジルと呼ばれる浅黒い男は、見上げる程の筋肉質の人物だった。
男の頬の深い傷跡から、カタギでは無い事が見て取れる。
と、いきなり男は俺の首を掴むとそのまま床に叩きつけた。
「ぎゃっ!」
突然の事に鼻血を出しながらも、店主の方を見ながら震える声で「何で」と訊いた。
するとジルは再び俺を片手で持ち上げ、床に叩きつける。
「ぐえっ!」
思い切り顔面を殴打し、鼻は折れ前歯も数本折れた。
朦朧としながらも俺は立ち上がろうとするが、ジルに押さえつけられピクリとも動けない。
するとようやく店主が口を開いた。
「盗品を誇り高い俺の店で売ろうとしやがって!ここはお前のような安い犯罪者が入っていい店じゃねえんだよ!今から憲兵呼んでくるから待ってな!」
「と、盗品な…わけが……」
何とか弁明しようとしたが、口の中に溜まる血と、押さえつけられ続け呼吸がままならない為、これ以上言葉が出なかった。
暫く経って店に3人の憲兵が現れた。
「こいつが宝石泥棒か」
ジルは俺の髪の毛を掴み片手でそのまま持ち上げると、憲兵に見せつけた。
「お?お前数日前にアリシャといた男じゃねえか!」
その憲兵は、俺が初めて町に入った時に門で検閲していた太った男だった。
「き、聞いてください…俺は何も……」
「あっはははは!!」
意識を失いかけながらの、俺の必死の言葉はその憲兵の高笑いにかき消される。
「お前冴えない顔してたのに、もっと酷い顔になったなあ!なあこいつの顔、ひでよなあ」
2人の憲兵は笑って頷く。
「じゃあそろそろ連れて行きます。店主さん、町の治安の為、正義の通報ご協力感謝いたします!」
憲兵たちは後ろ手に手錠をかけると、俺を連行した。