神殺し
「こ、この死体の山は何だ…?に、人間ではないのか貴様…!?」
アリシャは体を震わせて剣を構えている。
「ああ、さっき殺しましたこの人たち。人間では無いのかも知れませんがよく覚えていませんね」
と、男の姿にアリシャは「あっ!!」と声を上げた。
「レンの人形!!その姿はレンの人形の姿そっくりじゃないか!!」
「あれ?なんだっけ、なんか思い出せそうな。あなたは誰ですか?」
「私はアリシャだ!レンに助けてもらった冒険者だ!」
「アリシャ…?」
と、その時鎧の男に妙な声が聞こえてきた。
『アリシャの存在があなたの細胞内のアリシャを呼び起こしています。細胞内のアリシャを起動させ増殖させる事で〝冴木煉一郎のこころ〟を蘇らせる事が出来ます。起動しますか?』
「はい?アリシャの細胞?サエキレンイチロウ??何だよ誰だよそれ。意味不明だから起動しないよ、怖いし」
そう呟くと、謎の声は一切聞こえなくなった。
「まあ何か思い出せそうな気もしたけど、そんな価値も無い気もするから思い出すのは止めます。あなたは何故か良い人だという根拠の無い直感が働いたので、もうあなたの事は無視します。これ以上関わればあなたを殺しますが」
アリシャはそう言われても何かを諦める事が出来ないのか、食い下がった。
「レン!君はレンなのか!?教えてくれ!」
「レンが誰なのか知りませんがレンと言う名は記憶にあります。でもただそれだけです、あなたが次何か一言でも喋ったらあなたを殺します。じゃあさようなら」
黒い鎧の男は会話を強引に終えると、アリシャに背を向け歩き出した。
アリシャは膝をつき、彼の後ろ姿をただ黙って見送るしかなかった。
街で大量殺人が起き、住民は大混乱に陥っている。
鎧の男は騒ぎを避け森にまで足を延ばし、思案に耽っていた。
そして1つ閃くとぼそりと喋りだした。
「えーとさっきの声の人います?実は理由あって神に会いたいんですけど」
その言葉に謎の声が反応した。
『進化したスキル〝チートガチャ〟を使用しますか?』
「え!?なんですかそのスキルは!」
『ガチャボックスに入れたアイテムが瞬時に必要なアイテムに変化します』
「つ、使う!チートガチャ!!」
そう叫ぶと、鎧の男の目の前に真っ白な小さな四角い箱が現れた。
そして足元の雑草を毟ると、箱の中に入れた。
『必要なアイテムを音声で伝えて下さい』
その案内に鎧の男は静かに答えた。
「光の神ルミエルの所に瞬時に移動できるアイテム」
白い箱が一瞬輝くと蓋が開き、中から青い石が出てきた。
『〝神隠しの秘石〟を砕く事で、神ルミエルの元に移動できます』
「おお、いいね。じゃあ早速いこう」
鎧の男は、神隠しの秘石を握りつぶした。
次の瞬間辺りが一面真っ白になる。
遠くで気配がする。
その方向から何者かが近づいてきた。
暫く待つと美しい女性が現れた。
「全く、あなたと言う人はすぐ死んだかと思ったら傀儡に成り果て、無礼にも神聖なこの場所に踏み入れるとは。クズは何をやってもクズと言う事が分かりました。さあ気が済んだら帰りなさいな」
開口、不快な言葉に鎧の男は小さなため息をつくと
「ルミエルだな?」
と訊いた。
ルミエルは返事する事無く、鎧の男に圧倒的な光の魔法をぶつけた。
鎧の男の全身が光と共に消えて行く。
そして神の視界から完全に姿を消すのだった。
「浄化の魔法が効くと言う事は、やはり闇の力の傀儡だったようですね。全くとんだ珍客でしたわ」
小さなため息をつくルミエルの腹部に2本の剣が刺さっている。
「え?これは一体…」
消えかかった鎧の男は完全には消えてはおらず、今度は双剣がルミエルの胸を貫いた。
膝をつきながらルミエルが訊く。
「私の浄化魔法で浄化できない存在などいない…何故あなたは存在しているの…?」
「ああ、この身体にはアリシャの細胞が混ざってるらしくて。彼女は闇の力じゃないって事だと思うよ?それより剣で刺しても血が出ないんですね神って」
「お、おのれ!あなたは何故私を狙うのです…!?」
ルミエルは瞬時に傷を回復させると、怒りの表情を露わにした。
「だって、好き勝手に人の命弄んで勝手に人生の方向性決められてさ。あれ?なんだろうこの記憶と感情。まあ兎に角あなたの事が途轍もなく憎いんですよ!何となく!」
「あなたは危険です!私の権限で強制的に生まれ変わらせます!」
そう叫ぶとルミエルは光の塊で鎧の男を満たした。
しかし変化はない。
「な、なぜ!?何故生まれ変わらないの!?」
「恐らくですけど、この身体って命を宿してないんじゃないですかね?あなたさっき自分で傀儡って言ってたでしょ?」
すると鎧の男は突然「チートガチャ」と呟いた。
そして白い箱に自身の鎧のかけらを放り込む。
「光の神ルミエルを殺せる毒」
その直後箱が輝き、中から小瓶が出てきた。
鎧の男は双剣に小瓶の液体をかけた。
「なんなのですその液体は…?」
「あなたを殺せる毒です」
「ふふ、神を殺せるなどバカげているわ」
「じゃあ試してみます」
鎧の男は瞬時にルミエルの両腕を切り落とした。
「あっ!?」
傷口から真っ赤な血が大量に噴き出ている。
「なんで!?何で痛いの!!?これは血!?血なの!!?」
今度は両脚を切り落とすと、ルミエルは無様に地面に這いつくばった。
「痛い!痛いわ!私は神なのよ!?こんな事あってはならないの!!」
鎧の男は静かにその姿を眺めながら呟いた。
「まあぶちゃけ本当に死ぬかどうかは分かりませんよ?〝神のみぞ知る〟って事で」
そう言うと、鎧の男はルミエルの首を刎ねた。
血しぶきを上げ、光の神は静かに動きを止めるのだった。
「はあ、終わった終わった。しかしアリシャの細胞が無ければ、この結果にはならなかったな。今度アリシャにありがとうを伝えよう。やはり感謝の言葉は〝人〟として大切だもんね」
(終)




