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好きです!

俺の名前は冴木煉一郎(さえきれんいちろう)。お察しの通り長男だ。零細な町工場で働く33才独身、彼女無し。顔は可もなく不可も無い、中肉中背の良くも悪くも印象の薄い俺の年収は280万円。この歳で年収300万円を切る俺は紛れもない低所得者である。


今、そんな俺の目の前に絶世の美女が立っていた。


「冴木煉一郎、あなたは死にました」


彼女の第一声に俺は驚いた。何て清らかで可愛い声なんだ!


「好きです!連絡先交換してください!!」


「あの…あなたは今しがた死んだのです…!」


「ほほう!?では、お名前教えて下さい!」


遥か昔から彼女のいない俺の目の前にアイドルよりも何十倍もカワイイ女性が立っているのである。心が燃え盛らない男など居ないはずだ!ましてや俺の名は煉が付くのだからなおさらだ!


「そ、そうですね。申し遅れました、私の名はルミエル。光の神です」


「おおハーフ!?日本語うまっ!可愛い!」


「いえ…神です。どうぞこの場所をご覧ください」


俺はルミエルに言われた通り、辺りを見渡した。


その時初めて気づいた。ここは白一色で何もない。真っ白な世界がひたすら広がっている。


「え?ここどこですか??」


初めて不安を覚えた俺にルミエルは優しく微笑んだ。


「ここはこの世とあの世の境界の場所。ここであらゆる生命が次の生命に生まれ変わる手続きを行います」


「え!?まさか俺死んだんですか…!?」


「ええ、先程そう申し上げました。ただあなたの死はとてもイレギュラーな出来事だったのです」


「ひょっとして死ぬはずがない俺が死んじゃった的な!?」


「その通りです、しかし死んだ者を生き返らせる事は絶対に出来ません。ですのであなたには生まれ変わる以外に進むべき道は無いのです…」


「ここであなたと暮らすって道はありませんか!?ルミエルさんに惚れたんですけど!」


「いえそれは断じて出来ません。生まれ変わる覚悟をして下さい。代わりに特別な力を授けましょう」


おお!これは小説やアニメでよくある異世界転生というヤツか!?チートスキルで無双して美女にモテまくりな幸せ生活出来るのか!?


「是非下さい!特別な力を!!最強の力を!!!」


「あの…残念ですが最強の力を与えることは出来ないのです。あなたの潜在的に持つ特性を究極に高めたスキル。それを授ける事しか出来ません」


「え?いやいやちょっとそれ渋すぎませんか…?強くなって良いじゃないですか減るもんじゃないし!無双キャラの流れだったじゃないですか!なのに何でそんな意地悪するんですか!ブツブツ!」


ブツブツ言う俺にルミエルは悲し気な顔を見せた。


「それが最近になって転生規約が改正されてしまい、無暗に強力なスキルを与える事が出来なくなったのです。諦めてください」


「うーわ心傷ついた!じゃあ代わりに俺を抱きしめて慰めて下さいよ!」


「いえそれはもっと無理です…。ですが規約上お詫びとしてアイテムボックス(無限)、そしてスキル〝全言語理解〟〝鑑定〟が与えられます。それではさっそくスキル付与を行います!!」


ルミエルはそう言うと俺に手のひらを翳した。


一瞬俺の全身が輝いたと思うと、それはすぐに収まった。


「終わりました。スキルはステータスウィンドウを開いて確認してください。では新しい世界での人生、頑張ってくださいね」


「もう終わり!?もう転生するんですか!?心の準備出来てないんですけど!あ!待って男前にしてください!!16才イケメン男子にしてください!!あとそれからそれからっ…!」


しかし、その声はルミエルには届いていないようだった。


どんどん彼女が遠ざかっていく。


そして急に暗転すると目の前に美しい青い惑星が現れた。


俺はその星に猛スピードで落下していった。




どれくらい気を失っていたんだろう。


暖かい日差しに起こされた俺は辺りを見渡した。


「森?」


木漏れ日の射す平坦な地面には短い草が生えており、ふかふかのベッドの様で気持ち良い。


その小さな空間の周りには高い木々が伸びていた。


「木が邪魔で遠くが見えないけど、ここって異世界だよな?普通に日本の森なんじゃ…」


その俺の疑いは一瞬で消えた。


木陰からこちらを覗くウサギの額に鋭い角が生えている。


「ま、魔物…!?やっぱりここは異世界なのか…」


重い腰を上げた俺はルミエルが言っていたステータスウィンドウを確認してみる事にした。


「えーと…コホン!出でよ!ストゥエータスウィンディアウ!」


気合を入れてネイティブな発音をしてみたが、何も起きない。


今度は落ち着いて


「ステータスウィンドウ」


とだけ呟いた。


すると目の前の空間に俺のステータスが表示された。



      【冴木煉一郎】


    職業       迷い人

    

    レベル       1

     

    HP      39/39

    MP      17/17

    

    一般スキル    無し

    ギフトスキル  全言語理解 鑑定

    固有スキル   アイテムガチャ

    

    称号      神にフラれし者

            神に気味悪がられし者



「な、何だか色々ツッコミ所あるけど、俺ってルミエル気味悪がられていたのか…。てかそんな事一々称号にする必要あるのか…!?」


ルミエルが言っていたスキルってこの固有スキルってやつか?アイテムガチャ??ガチャってソシャゲでよくあるあのシステムだよな??


俺は早速このアイテムガチャというスキルを試してみる事にした。


「よし行くぞ!アイテムガチャ!!」


すると、目の前の空間に禍々しいデザインの重厚感のある小さな黒い箱が現れた。


「え?何この箱??」


俺は両手のひらに乗る程の小さな箱を手に取り念入りに確認した。


箱には一か所だけ取っ手のような出っ張りがついている。


「これって蓋だよな?中に何か入ってるのか?」


出っ張りを摘まむとギギギギと古めかしい音を立てながら立方体の一面が開いた。


「あん??」


中には何も入っていない。


「何だこの箱、これがチート?説明書的な何かないのかよ」


再びステータスウィンドウを開く。


そしてアイテムガチャと書かれている箇所を指で触れてみた。


すると別のウィンドウが開く。



  ≪冴木煉一郎だけが持つスキル。箱にアイテムを入れる事で発動する≫



「成程!じゃあ早速アイテムを入れてみるか」


しかし俺は前世で着ていたこの衣服以外アイテムを持っていない。更に小さなこの箱に入る大きさのアイテムが無い。


「う~む、まあ何でもいいか。このふかふかな草を一束入れてみよう」


足元の雑草を毟ると、黒い箱に入れ蓋を閉じる。


すると箱が宙に浮きあがり俺の目の前で高速で回転し始めた。


「え?何だ!?壊れた!?」


焦る俺の前で、どこからか声がする。


『ガチャを行います、終了時間は20秒です』


機械的な女性の声の後、回転する小箱がピタリと止まった。


そして再び女性の声がした。


『ランクノーマル、薬草×1』


蓋が自動的に開くと中に草が入っている。


「これって、雑草と色が違うよな?てことは今の声の説明通りこれは薬草??」


箱の中にある一束の草を取り出すと、黒い箱は一瞬で消え去った。


俺は淡い緑色の光沢ある草をまじまじと見つめると、閃いた。


「鑑定!!」


草の傍に半透明のウィンドウが開く。



         【薬草】


   使用者のHPを30~40回復する

  


「おおおお~鑑定便利だ!」


これが薬草だとなると、1つの重要な事実に辿り着く。


「このアイテムガチャがあれば、俺は大金持ちになれるんじゃないのか!??」


ただの雑草を箱に入れるだけで薬草になった。しかも声の説明によると〝ランク ノーマル〟らしい。

即ちガチャの中で最低ランクだ!

この薬草を再び箱に入れてガチャをすればどうなる!?そしてそこで引いたアイテムを更に箱に入れてガチャすればどうなる!?

そう!答えは!!



「わらしべ長者になれる!!!」



何処かもわからない森の中、俺は1人「フフフフフ!」と、不敵な笑い声を上げていた。






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