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プロローグ
下駄箱の前に佇む、一人の男子生徒。
校舎の周りを走る女子テニス部の掛け声と、隣の棟で活動する吹奏楽の練習音が、静かな昇降口に響いてきていた。
ゆらゆらと漂っている埃に、西日が反射する。
「……だれか、気づいてくれるかなぁ」
男子生徒はそう言うと、“46”と番号の振られた下駄箱をギィィと開けた。
長年使われてないそこは湿気った埃の匂いがする。
男子生徒は軽く手で埃を払うと、その中にノートの切れ端を置いた。
雑に四つ折りにされたノートの切れ端。
ゴミと捨てられればそれまでの事。これはほんの暇つぶしだ。
男子生徒は、周りに誰も居ない事を確認すると、ゆっくりとその扉を閉めた。