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其ノ八 怒我之章

 これは最近の記憶だ

 最近の内……幸せだった記憶

 こんなことになった今ではもう甘受できない記憶

 でも、大切な記憶


 今は、笑うことも出来ない……

 興奮もしない……

 今、僕にあるのは後悔や悲しみだけだ

 何で僕はこんなに朱いんだろう……?

 ねえ、伯父さん……


 ◇◆◇◆◇


「なあ、また前みたいに……いや、何でもない」

「どうしたの?」

「いや、何でもない。スマシズ買いに行こ」


 伯父さんは僕の返事を待たずに行ってしまった

 伯父さんは、ふと、足を止めて、振り返る

 前にいた

 随分と早い。いや、僕が止まっていたんだ


「俺は信じてるからな」

「えっ?」


 ビルとビルの隙間から月光が漏れる

 その月光が伯父さんを照らす

 やけに、絵になっていた


「行こう」


 そうして歩みを進める


 ◇◆◇◆◇


「ただいまー」

「おかりー」

「おっもい……2人とも少しは持ってよ」

「「だが断る」」


 伯父さんのあとに続いて一抱えもある食料を持ち、部屋の中に入る


 伯父さんの財布の中には見た感じ30万ぐらい入ってた……あんなにもどこから

 うっ…

 ちょっと、吐き気がしてきた……

 久しぶりに飲みすぎた


「ハサミあるか?」

「台所の方にあるよー」


 何故結月が知っている

 僕達がいない間に探検だとか言って色々探したのだろう……

 なんか想像できる


「お兄ちゃん今変なこと考えなかった?」

「別に……。この食料どうする?」

「今から私が調理するのです!」


 と、そこでグッチャグチャに散らかった部屋が目についた

 このままでは足のふみ場すらもなくなる

 そして片付けるのが面倒になって……ズルズル、ズルズルと……


「僕は色々と片付けるから、分かった?」

「ラジャー!」

「俺は……スマシズの設定でも」


 設定とは……? 休むつもりだろうけど……

 まあ、スマシズを買ってくれたのは伯父さんだ

 気づかない、僕は伯父さんの魂胆なんか気づいてない

 気づいてないのだ


 ◇◆◇◆◇


 朝、腹のあたりに衝撃を感じて目が覚めた

 衝撃を感じた所を見てみると、案の定、足があった


 それをどかして起き上がる

 頭が痛い……

 それに怠いし、いわゆる2日酔いだ


 それよりも気になるのは、部屋が汚いということ

 足の踏み場は……かろうじてある

 しかし、洗い物はたまっていて、ゴミも散乱している


 ふと、時間が気にかかった

 時計……は置いてないんだった

 スマホスマホ

 11時か。やることがないからまだ良いけど……


「あれ……――?」


 ソレを見た瞬間、僕は目を見開いた

 床に転がる、中年の男

 ゴミを枕にして、まるでホームレスのような……


「なんで伯父さんがまだいるの……?」


 おかしい……

 確か10時で帰るとか言ってた気がする

 13時間も過ぎてるし……


 今日って、伯父さんの仕事あったっけ?

 いや、聞いてないから分からないけども


 ゆさゆさと、伯父さんの体を揺さぶってみる

 起きない……

 鼻と口を抑えて、息をさせないでおいて

 次第に抵抗が強くなっていって……


「ぶばっ……!」


 起きたので離しておく


「…………? ……ああ」


 伯父さんは少しキョロキョロしてから、何か合点が行ったように声を漏らした

 ゴミがついてるけど、気にしないのかな


「あれ、今何時だ!?」


 そう言って上半身を起こして聞いてきたので、さっき調べた時間を言っておく


「午前11時……だいたい」

「ファッ!? 待て待て、今日って何曜日だったか」

「確か土曜日」

「土曜日……か」


 それを聞いた途端、伯父さんは安堵したのだろう

 あからさまに力が抜けた様子でゴミに倒れた

 本当に汚いとか、気にしないのかな……?


「すまん、酔いすぎて寝てた」

「今日、何にも予定ないなら、部屋の掃除、手伝ってもらっていい?」

「おう、そのつもりだ」


 その日は掃除をするだけで終わった

 明日には牧瀬さんの所に行くつもりだ


 ◇◆◇◆◇


 その晩、寝る直前になって問題が発生した

 結月の布団がないのだ

 昨日は床に転がっていたけど、素面でそれは少し忌避する


 なので、どうするかを今話し合っている所だ

 ちなみに伯父さんはもう帰っている


「別にお兄ちゃんのベッドで寝ればいいじゃん」

「シングルだから大人2人はちょっと狭いかな」

「じゃあホテルにでもいく?」


 それもいいかも知れない

 今からだとどこが空いてるだろうか


「じゃあ僕が近くの漫画喫茶にでも行くよ」

「ここはお兄ちゃんの部屋なんだし、私が行くよ」

「じゃあ10時には連絡くれよ」

「子供じゃないんだから……」


 ということで結月は漫画喫茶に行くことになった

 不安だ


 翌日、10時になっても結月から連絡がくることはなかった


 ◇◆◇◆◇


 一度、連絡を忘れてるだけかとも思ったけど、それはない

 結月に限ってそれはない


 誘拐か

 はたまた寝坊か


 後者の可能性が高い

 警察には言っておいた方がいいだろうか

 伯父さんには知らせた方がいいか





『おかけになった電話番号は、現在電波の届かない所に――』


 電話にはでなかった

 となると、今は仕事中か?


 1人で探すしかないか

 ひとまず、結月の泊まっていた漫画喫茶に連絡を入れてみるか


 ◇◆◇◆◇


「607の伊藤結月様ですか、そちらのお方なら、もう退室されておりますが」

「そうですか、ありがとうございます」


 ホテルには来ていた

 なら帰りにトラブルにあったか


 いや、ホテルをログアウトしてるなら、その後すぐ連絡を済ませているはず

 だとしたら、ホテル内で脅されていたりするかもしれない


「結月がログアウトする前か後に出ていった人とかいますか?」

「すみません、守秘義務があるので、そこまでは」

「そう、ですか」


 出ていった跡を探ってみるか






 ホテルを出ていった後、裏路地などを一通り探ってみたけど、特に何も見つからなかった

 もう家に帰っているかもしれない

 そうだったら連絡するか……


 通報、するか

 1人の力じゃ見つけれない


 ◇◆13:30時、警察署にて◆◇


「あまり緊急性はなさそうですね」

「この時間になっても連絡をくれないのはおかしいですって」


 事情を話したが、まともに取り合ってくれない

 やっぱり、今どきの警察は怠慢すぎる


「とりあえず捜索願いだけだしときますねー」

「……わかりました、自力で探します」


 来てもあまり意味がなかったかも知れない

 無駄な時間を浪費した


 と、帰ろうとしたとき

 スマホが鳴った

 見るとそこには結月の文字


「やっぱり大した事ないじゃないですか」


 そう言う警官を横目に電話にでる

 本人だといいが


「もしもし、結月か」

『よお、13年前のこと、覚えてるか〜?』


 電話から聞こえたのは男の声だった

 やけに掠れている、しかしそれは些事なことだ

 この男が結月を誘拐した犯人……


「どこにいる!」

『そんなツンケンすんな、落としたスマホを拾っただけだよ』


 ……失念していた

 その可能性もあったはずなのに、焦りが心を支配していた

 なら、結月は今家に僕がいないから右往左往してるんじゃないか

 早く帰え――


『まあ、嘘だけど』


 ッーー!


『今オレの隣に人質がいる、自分のしでかしたことがどれ程のことか、精々考えるんだな』

「しでかしたこと……?」

『やっぱ覚えちゃいないか、ああ、そうだよ、お前はそういう奴だよ。そのくせ今じゃ普通に生きてるから探し出すのに時間が掛かっちまったよ』


 こいつは何を言っている……

 さっき言っていた13年前のこと、13年前と言えばまだ岐阜にいた頃

 恨まれるようなことをした覚えはない


「何が望みだ」

『来い、場所は木張小学校っていう廃校だ』

「分かった」

「ちょ、これって誘拐……」


 警官が慌てた様子で呟いた

 スピーカーにしていないから犯人には聞こえてないはずだ


『くれぐれも警察は呼んでくれるなよ、呼んだ瞬間、こいつを殺す』


 スマホからバン、と銃声がした

 ふつふつと怒りが湧いてきて、唇を噛み、そして血が垂れる


 その銃声を最後に電話は切れた


「木張小学校か……」

「あの、ええと、ここでひとまず待っていてください、上に報告を」


 警官の言葉を無視して警察署を後にした

 警官は腰が抜けているようだった


 ◇◆12:00時伊藤博文(伯父)視点◆◇


「緊急!印東銃砲火薬店にて窃盗、犯人は猟銃1丁、拳銃2丁、スナイパーライフル銃1丁、ショットガン1丁、弾薬それぞれ400弾を窃盗し逃げた模様!」


 突然扉が開いて常田――ある警察官の苗字――が叫んだ

 銃の窃盗


「先輩、ヤバくないっすか」

「那倉ぁ〜、命の覚悟をしておけ」

「えっ、そんなにヤバいっすか……」

「ノリで言ってみた」

「ええ……」


 この前の課長誘拐事件と関わりがあるかもな

 大体こういうのは関連性があるものだ


「指揮官は?」

「伊藤巡査、お願いします」


 誰かが質問した、それに常田は俺の名前を出した

 え、俺……?


「時間が惜しいです、早くしましょう」


 指揮官とか経験ないんだけど

 まあ、ようやく俺も評価される時がきたようだ

 ここは見せてやろうではないか、伊藤博文の実力というものを


「よっしゃあ、受け持った。犯人の消息は?」

「銃砲火薬店の店員は動揺しており、分からないと」

「オーケー。じゃあまずは捜索っと、その前に常田、他の部署と連絡を繋げ。他の奴らは捜索を。犯人の特徴は分かるか」

「帽子に黒いマスク、それにサングラスをかけた身長160m〜170m程度、身長は確定ではないそうです」


 情報が少ないな……

 しかし少ない情報から真実を突き止めるのがオトナだ


「そういや正田警視長はどうした?」

「喫急の用があるとのことで会議室に」


 この事件よりも優先の用事?

 いや、この事件に関わることか


「じゃあ2人で一組になって捜索、異論はあるか?」


 誰も何も言わない

 異論はないらしい

 まあ、ベターだしな。優秀な指揮官は定石を理解しているのさ


「捜索範囲が被らないように捜索! 情報が手に入れば俺に報告!」

「「「了解ッ!!」」」


 俺は一番慣れてる那倉と一緒に捜索しよ


 ◆◇12:30時◇◆


「なかなか情報は入らないな」

「聞き込み調査じゃ、限界がありますよ」


 那倉と捜索を開始してかれこれ三十分前後、それらしい情報は全くと言って良い程得られなかった

 他の捜索員も同じこと


 件の銃砲火薬店の周辺の監視カメラを使えばいいではないか、と思うだろうが

 そこは他の部署が行っているらしく、手出しはできそうにない


 まだ犯人がわれてないところを見るに、監視カメラを掻い潜っていったのだろう

 そうとう計画的だな

 これはまた犯行があるまでどこにいるか分からんかもしれない


「那倉、人に聞くのが駄目なら、上空から探すぞ」

「……? どういう?」

「ビルだ。ビルに登って、望遠鏡で探すんだよ」

「また随分とアナログな……ドローンでいいでしょう」

「ふっ、若造が。それだと手続きとかいろいろ面倒だろ。それに、犯人が警戒してでてこない」

「なるほど」


 そんな「先輩も色々考えてるんすねぇ~」なんて顔をすんな

 俺だってやる時にはやる

 いや、むしろ常日頃から有能なはずだ。いつもぐちぐち文句を言ってるだけだ

 でもなければ指揮を任されたりしない


 近くに使えて、かつ高いビルなんてあったろうか

 ああ、そうだ。あいつの部屋があった

 少し前にあったあの通報

 何故かはよくわかんなかったけど、大金を貰った相手でもある

 そう、ミセス・マダム、またの名をデブの部屋が

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