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其ノ三 眼別之章

『結月ちゃんが帰ってくるらしいのよ、あんたちゃんとフラグ立てておくのよ!』


 突然電話がかかってきたと思ったらそんなことを言われた

 結月……ああ、あいつか


「母ちゃん、フラグって何?」


 電話をかけてきたのは母親だった

 何のことかは分からないが、結月に関することらしい


『あんたフラグの意味も知らないの!?まあ知る必要はないわ。なにはともあれ、ファイト!」

「だから何―――切れたよ」


 スマホからラウィンの通知の音がした、これもまた母ちゃんだ

 さっき電話しておけば……ああ、そういう


『羽田に二週間後、2時半に来るらしいから、迎えに行ってあげてね by愛しの母より』


 恐らく電話で話したら断られると思ったのだろう

 ラウィンでなら有無を言わせずに出来そうとか、考えたんじゃないか?

 僕ははなから断るつもりないけど


『分かったよ、じゃあ僕が行くからそのあとどうすればいいの?』

『あんた……素直になったわねー。わかったわ、じゃあ迎えに行ったらちょっとだけ泊まらせてあげなさい』

『それは流石に……』


 今は冷蔵庫の中に課長のニクがある……

 今来られたら危険だ

 いくら妹といえど、殺人を見過ごすなどありえるわけがない

 結月には悪いが、ホテルとかに泊まってもらおう


『あんたも初心ね、いい加減彼女でも作りなさいよ~。あ、結月ちゃんが始めてかしら?』

『なに言ってんの』


 まあ、そうそうバレはしないだろう

 僕も、久しぶりに結月と会ってみたいし


『分かったよ、じゃあ羽田空港に迎えに行って、そのあと少し泊まらせればいいんだね? by子不幸な息子より』

『子不幸ってなに! 子不幸って!』


 僕はそのまま既読無視をした

 こうやって巫山戯合えるのは、ストレスから解放されたからだろう


 そうだ、退社届けを出さないとな

 結月が来るまで一週間ある。時間的には大丈夫だろう


「退社届けってどうやって出すんだっけ?」


 まあ、会社で調べればいいだろう


 ◇◆約一週間後◆◇


 警視庁、機動捜索隊、第四機動隊

 冴えないおじさんがいた


「人が失踪ねぇ、ってここの会社、あいつがいる所じゃんか!」

「あいつって誰のことっスか?」

「関係ねーだろ……んぁあ、甥だよ甥。ヤバいな、仕事終わったら行かないと」


 あいつか、最近会ってないな

 前はちょっと無理してる感じあったけど、大丈夫か?


「先輩、失踪ってことは家出か誘拐か殺人ですよね」

「さあな、これは俺らが考える事じゃない。上に任せよう」

「上っていうか横ですけどね」

「そこは気にすんな」


 俺はそう嘯く

 でもあいつの働く会社となれば無関係とはいかないか

 今になってこんな雑な事をしたかだが


「だー、もう!頭使うのは駄目だ!」

「まぁまぁ、機捜―――機動捜査隊の略―――なんて肉体労働なんだし、さっき先輩が言ったように頭使う必要無いですよ」


 我が後輩よ、違うのだよ。俺が頭を使うのは私的なことなのだよ

 と、心の中で思っても伝わらないよな


「ちゃーんと集中しろよ、110番が来たら反応出来ねーぞ」

「話、逸した……まぁ良いですよ。十中八九甥がどうとかだと思いますから」

「お前、分かってんじゃねーか!」

「さぁーて、なんの事でしょうねー?」

「コイツ……………」


 機動捜査隊の仕事は車で巡回して、犯罪を取り締まる

か、110番が来た時に現場に急行する

 若しくはもしくは現場捜索をする。単純に言えばそれだけだ

 頭を使う要素なんて……無いとは言い切れないが、余り無いだろう


 巡回中は大抵暇だからこうやって話をする

 よく曲とかかけてカラオケとかもしてるんだけど、今日に限ってCDを家に置いてきてしまった

 別に音楽なくてもいいけどそんなに歌い続けるわけでもない

 大体、こうやって他愛のない話もする


「お前の方こそ話逸らしてんじゃねーか」

「話逸らすのとは若干違うんじゃないんですか?」


 そう言う後輩を鼻で笑ってからまた業務に戻る

 業務と言っても車で巡回するだけだから今までとなぁーんにも変わらないけど


『メーデー、メーデー』


 無線が鳴り響いた

 この車に取り付けられている警視庁の無線で、後輩の乗る助手席の人がとるはずの無線だ


 機捜に響く無線というと110番であり……


「はい、もしもし。分かりました。住所は、はい、はい、直ちに向かいます」


 後輩はメモを取ってから俺に手渡す

 あんま急いでる感じないし、緊急じゃないだろ


 普通110番ってのは緊急だけで、他の用事なら他の番号があるのにな

 まあ、俺も言うほど使い分けて無いけど……

 でも面倒なのは面倒なんだ。かけるなら俺が非番の時にしろ!


「先輩、自転車の盗難ですって。自分行ってきますね」

「何言ってんだ? 一緒の車に居んだから一緒に行くに決まってんだろ」

「当たり前じゃないですか!」

「おめぇなぁ」


 後輩の理不尽な言い分に溜息を吐きつつも車を進める

 これは完璧精神労働だな……精神労働ってなんだ?


 ◇◆◇◆◇


 自転車の盗難の通報があった場所はものの6分で着く所にあった

 俺は通報のあったマンションに車を停めると、装備を急いで体に着けてエンジンを止める


「デカイっすねー」

「そーだ、俺達には一生かかっても住めないな」

「なんで威張ってるんすか……」


 俺は通報のあったマンションを見上げる。今は昼過ぎなので太陽が眩しい、丁度向いた方向に太陽がきて眩しい

 まあ、そんな特別見るものじゃない。とっとと終わらせてまたエアコンの効いた車に戻ろう


 通報があったのはマンションの6階だった

 部屋の玄関に入れて貰った

 玄関からだけでも見える範囲に漆喰で塗られた白い壁と豪華そうな観葉植物が並ぶ、いるだけで劣等感に苛まれ、溜息を吐きそうになる空間


「れんちゃん、警官さんが来たザンスよ」


 目の前にいるのはいかにもなボンボン

 正直デブで語尾が臭い。金があっても結婚したいとは思えない

 そんなデブが子供と思わしき男の子の肩に両手を置いて純白の歯を出して笑ってる。真っ赤な口紅がついた唇は下手にメイクされていてはみ出てる所が気になる


「けーかんさん! けーさつかんにはどうやってなるの?」


 この子は警察官志望か

 現実を教えてやるか……ちょっと後ろのデブが怖いからやめとこ

 普通に答えた方がいいのか?まあこういうのに答えるのは大体俺じゃない


「坊ちゃん、警官には案外簡単になれるんだよ。高卒で試験に合格するだけ。じゃあ警官を呼んでないで勉強しようね?」


 案の定俺が答えなかったけども……こいつ、遠回しにこの少年に通報すんなって言ってやがる

 なんでこいつはこんなに育っちゃったんだろう……?思い当たることなんか一個もナイゾー、ホントだぞー

 でも、流石にこれはデブが怒るんじゃ……


 ふと、部屋の奥から映画の音がした

 ホラー映画。それもゾンビ映画だろう

 なんともまあ恐ろしいものを見るもんだ。子供に見させていいもんじゃないだろ


「ママ! けーかんになるのたいへんそうだからあきらめる!」


 おっと、坊ちゃんの話だったな

 というか、今のどこに大変な要素があった!?

 この少年、もしかして勉強とかしてないな。高校に行くのも面倒臭いとか思ってそう……

 ていうか高校が何かとかも分かってなさそう。まあ、いいやパッパと盗難届処理しよう


「この話はこの位にして、自転車はいつ頃から無くなったんですか?」

「あら? 自転車なんてアタクシ知らないざんしょ」

「……………」


 どゆこと?

 暫く絶句していると後輩が前に出る


「それは……誰かに勝手に通報された、ということですか……?」

「れいちゃんが警官になりたいって言うから、呼んじゃったザマス」


 デブはそう言って札束を握らせた

 暗にこれで見逃せ、と言っているのだ


 俺はズイッと前に出て、デブ、いや、ミセス・マダムの元へと駆け寄り、その札束を持ったてを握る


「麗しきマダム、貴方は息子様の為に行動を起こした。とても素晴らしいことでございます。ひいては今後とも、警視庁機動捜査隊をご贔屓に……。こちらは名詞でございます」

「あらあら、お上手」


 ミセス・マダムは俺の耳元へと口を近づける、小声で言った


「今度、ワタクシの部屋に招待してあげるザマス。可愛い坊や」


 背筋がブルった

 この金は前金という訳か……


「御用の際は、名詞の番号に電話を下さい」


 そう言いつつ、俺はミセス・マダムから電話が来ても居留守をしようと決めたのであった


 ◇◆◇◆◇


「先輩……マジすか……」

「ゾンビ映画を見るとか、最近の子は凄いねー」

「いや話を逸らさないでくださいよ」


 車に戻ってから、言われた

 多分ミセス・マダムとの夜の約束を勘違いしているんだろ


「馬鹿め、行かないに決まってんだろ?そんで、この金はどうするよ?」


 俺の手には30万は下らないだろう金が握られていた

 運転は後輩だから片手運転じゃない


「俺は上にバレてクビとか嫌だから、全部先輩にあげますよ」


 それなら、今の状況を見逃してる時点でヤバいんだけど……言わぬが花だ

 ああ、神様、仏様、この幸運に感謝を……

 フッヘッへ、1、2、3――5万ッ!!


「やっぱり、持つべきは友情。だなぁ」

「そうですね。んじゃあ、お礼と言っちゃあなんですが、今日飲みに行きません? 勿論、先輩の奢りで」

「んー、そうしたいのは山々なんだがなぁ……残念ながら今日は用事がある!」

「甥の所に行く……という?」

「よくお分かりで」

「さっき車の中で言ってましたからね」


 まあ、アポイントメントは取ってないんだが……細かいことは気にしない


 その後、特に何も大きな事件はなく、いつものような1日となった

 平和だな

 まあ実際、最近ここらじゃ殺人とかも起きてないしな

 ……暴行、窃盗はノーカンで

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