表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

其ノ十三 介政之章

恨みか信実か、どっちが勝つかな


「ねぇお兄さん撃つなら撃ってよ。早く撃ってよ」


子供に手頸を掴まれ、銃口を頭に押し付けさせられる

子供ってのは本当に怖いもの知らずだな

俺がホントに撃たないとでも思っているんだろうか

いや、実際撃つ気はないけど……でも、あいつが本当に危なくなったら、撃つかもしれない


「れんくん待ってくれ! そいつは冗談を言ってるんじゃないんだ!」

「そうなんだ。そうだとしても関係ないよ。ボクはもう死んでるんだから、撃たれたぐらいじゃ倒れないよ」


なんだそれは

中二病とも思えないし、何か闇を抱えてそうだな

とはいえ、今はそれとこれとは関係ない


「じゃあお前が銃を捨てろ! そしたらこの子供は助かるぞ」


小戸は苦虫を嚙み潰したような顔をして、銃を投げる

と、同時に子供が引き金を引こうと手を動かす

安全装置は解除してあるし、ハンマーも起こしてあるから、後は本当に引き金を引くだけで打ててしまう


「や、やめろ! 危ない!」

「おにいさん、ボクを撃つんじゃないの?」

「小戸が銃捨てたからいいんだよ!」


子供はそれを聞くと漸く手を放し、力を抜いた

そして、子供を掴んだまま、小戸の落とした銃を拾いに行こうとするが……


「ウアァァ!」


雄たけびが聞こえたかと思うと、打撃音が響き、小戸が殴られていた

その背後には手足を縛られたままのあいつがいて、あの状態のまま頭突きをしたようだった

しかし当然縛られたままでは力など入るはずもなく、小戸には大して効いていない


なぜこんなことをしたのか、疑問は尽きないが、とりあえずは喜ぼう。今は生きていたことと、頭突きをするだけの体力があることを――


刹那、煌めくナイフが飛び、あいつが血を吐いた

小戸が投げたナイフがあいつの腹に刺さったのだ


腹には内臓があり、生物界でも弱点とされている

そこに深々と刺さったナイフ


「小戸テメエェェ!」


あの傷ならすぐに治せばまだ間に合うかもしれない

今すぐ助ければ……!


拳銃を両手で持ち、構えをとり、標準を合わせる

この引き金を引けば、小戸は死ぬ

小戸が死ねば、あいつを治療できて、あいつが助かる


選択肢はない

今すぐ、殺すんだ

小戸を……


手汗がすごい

心臓の音が聞こえる

指の先が震える


大丈夫だ。こいつは犯罪者

殺さないと、別の、しかも俺の大切な人間が死ぬ

しかし、俺がこいつを撃てば、俺が犯罪者

そしてこいつも一人の人間。人望もある


くっそ、迷ってる暇なんてない

撃て! 撃て!

今すぐに、撃て!


「ふぅ、うぁ、ウあ、アアアァァァァァ!!」


――バヒュッ


撃った

確かに感じる銃弾の飛ぶ感触とすさまじい反動

拳銃故にその反動は小さく、骨を伝って全身を衝撃が走る程度だ


銃弾は銃口から射出され、廃校の壁に豆粒大の穴をあけている

カラカラと撃ち終わった薬莢の転がる音が室内に響き、それ以外の音はあまり聞こえない


そしてそこにいる無傷の小戸……

撃つ直前に感じた脇腹への衝撃

下を向くと、脇腹に抱き着いている子供……

撃つ直前に飛びつかれたのだ

そしてそれで標準がずれて、壁に当たったのだ


「おじさんを、おじさんを殺さないでえぇぇ……」


静かだった室内にその泣き声が響き渡った

残る泣き声の余韻と、後に続く嗚咽


「ちょっと待て、おじさんって、お前たどういう関け――」


『突入!』


けたたましい行軍の足音とともに、強烈な刺激が目を照らし、周囲が見えなくなる

そして急激に喉が熱くなり、無意識に咳がでる

催涙弾だ


聞こえてくる音は足音と無線からの指示の声

どうやら、警察官が突入してきたらしい

もしかすると、SITかもしれない


足音はある瞬間にピタッと止まり、無線ではない、生の人の声がする


「動くな! 貴様等は完全に包囲されている! 小戸堂満! 伊藤博文! 両手を頭の上に置き、両膝をつきなさい!」


小戸の焦燥しきったうなり声と暴れる音が聞こえた直後

銃声がした

催涙弾で俺達は視界を失ったが、軍警察だかSITだかには視界がある

俺達、正確には俺と小戸だけが狙われてるわけだ

ならばこの事件はほとんど解決したも同義だ


やはり、政府機関が動けばこういう事件はすぐに解決するのだ

小戸の過去に政府が何をしたのかは知らないが、ひとまずこれで一件落着か

と、思ったのもつかの間


「おい! このナイフのスイッチが何か分かるか! これを押すとそいつにつけた爆弾が爆発するぞ」


爆弾……

十中八九、いや確実に嘘だ。不自然にもほどがある

そもそも、爆弾なんてものがあるならさっき銃を向ける必要なんてなかっただろう


しかし、人質の命を握られて逆らえる政府機関なんていない

必然的にこの場では小戸をたてる必要性がある


「その人だけ連れて行ってください。後はここを出て行ってください」


そのままSITだか軍警察だかに連れられ、引きずられていく


「待ってろ、待ってろ! 絶対に助けてやるから、待っていろ!」


◇◆主人公視点◆◇


まるで閃光のようだった

瞬く間に展開が変化していき、結局元のままだった


「はぁ、お前の伯父は家族想いだな。お前とは違って」


小戸が小馬鹿にするような、恐れているような、そんなように鼻で笑う

その一々の所作に苛立ちを感じる

こいつだけは、許しておけない


「んだよ、そんな睨んで」


結月が攫われた程度じゃ湧き出ない程の苛立ち

ギリギリと、歯を噛み締め、噛み締め、睨む


この苛立ちは何者にも代えがたい大切なものを害された苛立ちだ

結月程度ではない、更に大切なものを

そう、例えば僕自身

例えば『バトルアース』の皆


あぁ、あぁ、イラッイラッ、するなあぁぁ


「早めに済ませましょう。次にいつに突入されるか分からない」


小戸が眉をひくつかせながらこちらに近づいてくる

無防備なまま

そのまま僕の頭突きを喰らわせてやる


「ガアアァァァ!」


地面に座った状態から重心を前に傾けて突撃する

ただ愚直に、ただ真っ直ぐに


その頭突きは軽くあしらわれ、受け流されて投げられて、僕は地面に激突した


「フッ、無様だな。でもこれだけじゃ終わらないぞ。終わらせない。これは僕の復讐なんだ」

「僕が何したってんだよ。こんな、こんな酷こと、惨い。とてつもなく惨――」


泣く振りをして、再度突撃する

小戸のニヤけた面に、一発焼を入れてやる


小戸は、その突撃を読んでいたかのように先程と同じように受け流す

そして地面に激突する


再度突撃する

地面に激突する

突撃、激突、突撃、激突


これを繰り返せばイケるはずだ

いつかは絶対に

この苛立ちは奴を殺さないと収まらない

奴を殺すために、諦めずに突撃するのだ

そうすればいつかは絶対にイケるはずだ


「こんなんじゃ、やっぱり済まされない。お前は、こんなもので晴れる程の罪じゃない」


小戸がツカツカとこちらに近づいてくる

もう一度


突撃したところ、受け流され、しかし離されない

腕を極められたまま動かない

否、締め付けがより強くなっている


ゴキゴキと音を立てて関節の外れる感覚が伝わる

こいつは、どこまで僕を害すれば気が済むのだ

いい加減にして欲しい。このままこの苛立ちが他人に向いたらどうしてくれるつもりなのか

他人が死んだらどう責任をとるつもりなのか


「もう一度、気絶しとけ」


小戸が極めていない方の手で僕の頭を掴み、地面に何度も叩きつける

血が出ても、叫んでも、許しを請うてもただ叩く


やがて山に登った時の耳鳴りが強くなり、世界と離れる感覚になる

自分の中で痛みが反復し、苛立ちが増す

視界が端から徐々に、徐々に白くなって……


そして、意識は途絶えた


◇◆◇◆◇


「うぶっ」


冷たい何かをかけられて目が覚めた

水だ

そして今度も案の定縛られている

しかも今度はがっちりと


「じゃあ、始めようか」


小戸がホースを取り出して、口の中にねじ込まれる

が、歯を閉じて入らせない


「お前は、炎で俺達を苦しめてくれたよなあぁ」


ホースの口から水がでる

グリグリとねじ込まれながら


「なんで、お前なんかを信じちゃったのか、分かんないよ」


鼻を指で摘ままれて、呼吸ができなくなる

口には水があるから、口からも呼吸はできない


「お前が火で苦しめるなら、こっちは水だ。水で苦しめてやるよ。限界まで生きて、苦しんで、死ね」


息が続かない……

口から息を吸おうとして、大量の水が流れ込んでくる

ごぼごぼと音を立てて水が体中に行きわたっていく


気持ち悪い。しかしそれ以上に苦しい

またも頭にもやがかかって来て、来て

苦しい。許さない。殺して――


◇◆◇◆◇


「ごふっ」


目が覚めた途端、咳がこみ上げてくる

水を吐き、吐き、吐いた

歯が震える。怒りと、寒気とが入り混じり、歯が、ガクガクガクガクと


「おはよう。じゃあもう一回」

「ま、まっで、もう、無理……」


油断したところを襲ってやる

人は油断する生き物だ。いける


「行動がワンパターン。ついさっき見たぞ」

「ぐえぇ」


腹を蹴り上げられる

そして髪をつかまれ、鼻をつままれ、ホースが、ホースを


「ウガアアァァァ!」


いくら威嚇しても無駄

小戸は情け容赦なくホースをよこす

また、溺れて、靄がかかって、プツンと途絶えた

えーはい以上になります。

読んで頂いてありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ