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其ノ十一 侵入之章

『こちら3班、木張小学校にて人影を確認』

『こちら5班、同じく人影を確認』

『こちら4班、同じく――』


 木張小学校についた班から次々に報告が上がる

 廃校の人影など限られている

 おそらくAか例の子供だろう


「了解。1班は2班と。3班は4班と。それぞれ四人一組で突入」

『『『了解』』』


『――ぇ…――ろ――…っ――……がァ!』


 無線機から、か細いが何者かが叫ぶ声が聞こえた


『男が一人出てきました。身長服装共に目撃情報と一致しています』

「銃はどうだ?」

『確認できません』

「なんと言っている」

『アイツの通報か、こっちには人質がいるんだぞ、近づくな、と。少女を人質にしています!』

「那倉! 聞いたか? 直ぐに本部に連絡しろ!」

「了解です」


 双眼鏡で木張小学校を見てみる


 確かにさっきの男が少女を人質に……

 あれ結月じゃないか?

 よく顔が見えないけどそんな感じがする


 なんでよりにもよって結月が……


 ◇◆◇◆◇


『木張小学校を包囲。SIT――ハイジャック等の大規模な事件を担当する特殊部隊――の準備ができるまで犯人を逃がすな』


 無線機から中年ような声で指示が出される

 今回の事件を対処する代表となった人のようだ


『機動捜査隊は犯人の特定を。代表は機動捜査隊第一科長、佐々木涼君に頼む。必要があり次第連絡せよ』


 その後中年を過ぎ、初老に差し掛かった声がして作戦を立て、それを要約して、俺たちに伝えていく

 おおむねは顔写真から過去の記録を洗ってくれ、という内容のもの


 犯罪歴、マイナンバーや国民情報

 その他にも聞き込みやネットでの掲示板等々、担当を決めて配備された

 因みに俺は犯罪歴だ


 結果から言うと、Aの正体はすぐに分かった


 小戸堂満。24歳

 11歳の頃に、ガス缶に火をつけ、重傷者8名、軽症者多数、被害総額4億、死者1名にもなる大犯罪を犯し、懲役14年となった

 性格は温厚。周囲からの信頼も厚い

 刑期削減により昨年出所

 因縁かな


 そして今、目の前に刑務所時代の小戸の友人、清本大昌がいる

 両親は既に死亡してたため、説得に一番有効だろう人物だということで呼んだ


「へぇ、ついにやったんだな」

「ついに、ということは前々から計画していたことと?」

「知らねえよ」


 周囲からの信頼は厚い、か

 これはその正義感に魅了された感じじゃなくて小戸という個人に魅了されたタイプか

 厄介だな


「このままだと小戸はまた捕まって、今度はもっと多くを刑務所で過ごすことになるぞ。友達なんだろう? 誰も殺してない今なら罪も軽い。助けてやろうとは思わないのか?」

「捕まることはありえねぇ。堂満は人を殺したら、どうせ自殺すんだろ」

「……自殺?」

「多分な。それ以外は知らねぇよ」


「分かった。説得は無理なんだな」

「ったりめぇだ」

「じゃあ小戸の過去だけでも教えてくれ。頼む。姪の命が懸かってるんだ」

「は? 堂満の相手って男じゃなかったっけか」


 俺の情報だけじゃ不安だし、小戸側の話も聞きたい

 ていうか相手って誰だ

 怨恨……逆恨みかよ


「ふぅ……。頼む、この通りだ」

「土下座なんてしたって無――! おい! やめろ靴を舐めるな! こないだ買ったばっかなんだぞ!」

「頼みますよ旦那ぁ、靴磨きしますからぁ」

「ッ! 気持ッち悪りぃわ! わぁーった、分かったから!」


 ということで教えてくれることになった

 ちょろいな


「まあ言った所でどうにもなんないだろうがよ。そうだな、どっから話すか……」


「まず初めにあいつの罪は冤罪だ。真犯人は他にいて、堂満は犯人に仕立て上げられたんだとよ。そいつを殺すために生きてきたって。父と母の仇だと」

「堂満の両親は被害者たちへの返済で生活が困窮しててな。それどころかイジメがあって、落書き無視暴言は日常茶飯事。酷い時には物を盗ってかれたりしてたらしい」

「そんである日、いつもみたいに小戸と母親の面会の時。どうやって入手したのか、母親が突然銃を手にして、お父さんはもうあっちにいるから、どうちゃんも一緒に逝こうね。って言ったらしいんだよ。そしてそのまま堂満を打って、自分も打った。そん時堂満への狙いが外れてて、堂満は命どころか体には傷一つなかった。体にはな」

「母親が目の前で死んだんだ。そのすぐ後に父親の死んだっていう報告もあってな。相当きついだろうな。両親が一度に自殺したんだ。親共はイジメのことを堂満に話していてな。当然、堂満は自分のせいで両親は自殺したって思う」

「その後は酷いもんだっったとよ。なんも喋らないで食事もしないかと思ったら、次の日には辺りにあるもん片っ端から全部ぶっ壊してってよ。そんで疲れたら寝て、その間に栄養注射して、どうにかこうにか生きてたってよ」

「そんなひっどい生活で身も心もボロボロになった堂満はある日を境にキッパリと元に戻ったらしい。その日が、復讐を決意した日って訳だ」

「そっからはずっと復讐の事だけを考えて、考えて生きてきた。品行方正になり、出所を早くして、できるだけ残虐で、苦しませて殺す方法を模索し続けたとよ」

「そして、今に至るワケだ」


 なるほどな

 これが全部本当の出来事だとしたら大問題だ

 あんな大事件の犯人を間違えることも大問題だし、加害者家族のアフターサポートもしっかりできていない

 本当なら、な


「で、何でお前はそんなこと知ってんだ?」

「堂満が話してくれたんだよ。大昌なら応援してくれしてくれるよねって。まあ、仲良かったからな……」


 もうこれ以上は何も出ないか


「説得はしないんだな」

「……ああ、しない。たとえ堂満が死んだとしても、俺は堂満の選択を尊重する」

「そうか」


 ◇◆◇◆◇


「――ということでした」

『もう一度説得の嘆願を頼む』

「用事があるとかで帰っていきました」

『なら他の小戸との関係者へ嘆願を頼む』

「了解しました」


 その後、薄い関わりの人の説得には成功したが、それだけだ

 特に有益な情報は得られなかった

 その後すぐに呼び出しを受けた


 ◇◆◇◆◇


「親族の方がいらっしゃいまいしたよ」

「嫌だ嫌だ殺さないで殺さないで。お兄ちゃんを連れて行かないでよぉ」


 連れてこられたのは救護用の仮設テントの中だった

 一応は救急車を呼んでいるらしいが、まだまだ時間がかかるそうだ


「結月、何があったんだ?」

「お、伯父さ、お兄ちゃんが、お兄ちゃんが殺されるッ! 小戸に殺されちゃう! 私の、私のせいで、お兄ちゃんがぁ……」

「落ち着いて、無理しなくていいから」


 そこにいたのは何でか泣きじゃくる結月だった

 何があったかは分からないが、あいつもこの事件に巻き込まれたらしい

 望遠鏡で見た人質はやはり結月だったか


「よろめきながら廃校から出てきた彼女を保護し、ここに移動させました。しかし未だに人質が二名いることに変わりはありません。そのうち一人は伊藤巡査部長の親族、甥にあたる方です」

「そうですか……」


 清本の話では怨恨ということだったが、あいつに向くか

 警察だと変なルールがあるからな。このままだと小戸が何か取返しのつかないことをするまで特に何もできないで終わる気がする


「大丈夫だ結月、俺が何とかしてやる」

「何とかって……」

「任せとけ」


 警察には従わずにあいつを助けてやる


 ◇◆◇◆◇


 さて、やることといえば、何といっても突撃だろう

 廃校ということだから隠れれる草むらとかもあるはずだ

 それに、学校だから後ろから回れば十分死角になるだろう


 警察官だから拳銃と、防弾チョッキぐらいは持っている

 この二つさえあれば、素人相手なら勝てる筈だ

 出来れば閃光弾ぐらいは欲しかったが、相手の位置さえつかんでいれば不意打ちで倒せるだろう


 腹とかにあたっても直ぐに治療すれば治る

 いざとなれば……殺してでも


 あとは小戸の位置の特定だな

 さっきは窓が一か所だけ開いてたが、今は全て閉じている

 サーモグラフィもこの距離じゃ意味がない

 ということは、警察も小戸の正確な位置は特定できてない筈だ


 どうやって特定するか……

 もしあいつがスマホを持ってたらGPSで縦の位置は把握できるが、三階建ての小学校の内のどこにいるかわからない

 それにいかにGPSといえど誤差もあるだろう

 それ以前に小戸がスマホを外に投げているか、別の所に移している可能性もある。逆に移してない可能性の方が薄いだろう

 どうするか……


「先輩? 何してるんですか?」

「那倉か。今待機中だからな。ほら、姪がああなってるから。そう言うお前こそ何やってんだ? お前は仕事あるだろ」

「俺と先輩ってペアだったじゃないですか。だからもう他にペア組む人もいなくて、一年目だと逆に邪魔だから俺も待機中なんですよ……」


 これはもしかしてこのまま会話コースじゃないか?

 小戸の位置が分からないとしても早めに動かないといけないんだが、那倉を巻き込むわけにもいかないし


「すまん。ちょっとやることがあるからまた今度な」

「何かあるんですか? 手伝いますよ?」

「大丈夫だ。いいから休んどけ」


 強い口調で言うと、不審がりながらも引き下がる

 さぁて、どうするかな……


 ◇◆◇◆◇


 木張小学校の裏口あたりに来ていた

 小戸の場所は入ってから捜索すればあいいだろう


 装備は拳銃と防弾チョッキにヘルメット。それに一本のサバイバルナイフとバット

 爆弾の類はない


 警察の包囲網は強行突破した

 俺自身も警察官だから、警戒するはずもなく、簡単に抜けれた

 一人を後ろから強く押して、その隙に走るだけだ


 当然違反じゃないはずもなく、犯罪でないはずもない

 後ろから俺を追って複数人の警官が走ってきてる


『伊藤巡査部長。即座に包囲網内から戻り、投降しなさい。これは命令である。繰り返す。伊藤巡査部長。即座に――』


 ヘリからの照明で禄に目が開けられない

 だが建物の場所や構造は覚えている

 それに触れているから見失う事もない


 そんなに騒がれたら小戸に気付かれる

 しかし放置すればあいつが殺される

 今捕まれば、もう俺がこの建物に入るチャンスはない


 ならば、行くしかない


「ここが窓か」


 一般のガラスというのは脆い

 それは小学校の窓ガラスも例外ではなく、大人が本気でバットで殴ればすぐに壊れる

 鉄製なら尚更だ


「っリャア!」


 窓ガラスが割れると、割れ残った小さな欠片を素手で割り、バットを投げ捨てて中に入る

 中はただの廃校

 しかし、監視カメラ付きの


 360°見れないタイプの古いカメラだ

 金がなくて古いタイプしか買えなかったんだろう


 それなら死角さえ通ればいい

 死角に入りつつ、小戸を探すために一つ一つ部屋を確認していく

 難しいことはない


 一つ目の部屋も、二つ目の部屋も異常はない

 三つ目も、四つ目も

 中をくまなく探している訳ではないが、人間が隠れるスペースなんて多くはないし、隠れる必要もないからパッパっと見て回る

 それでも見つかるものは見つかるもので


「子供……?」

「おにいさん、誰?」


 五つ目の部屋にその子供はいた

 どこか見覚えがある……


「ああ! お前麗子さんの子供じゃんか!?」

「お母さんのことしってるの?」


 このあいだ麗子さんと初めて会った時の子供

 何でこんな所にいるんだよ

 小戸はあいつに恨みをもってるから、もう目的を達成して人質を解放したとか

 それならとっくに出てきてもいい気がするが……

 事実、結月は出てきてるわけだし


 と、耽っているのもつかの間

 後ろから声したがした


「どうも、私が、犯人です。警察官のお方、どうかれんくん、そこの男の子を連れて帰って貰ってもいいですかね?」


 即座に振り返るとあらかじめ用意しておいた拳銃の引き金を引く

 否、引こうとした

 小戸の銃口の先には気を失ったあいつがいた


「人質かよ……」

「拳銃……。聞いてる限りでは勝手に入ってきたらしいですけど、何が目的ですか? こいつの家族ですか?」


 正義感の強い人間

 すぐ近くの子供の腕を引っ張り、首筋に銃口を当てる


「今すぐ銃を捨てろ。じゃないとこのガキを撃つぞ」

「なッ……!? 貴方それでも警察官ですか!?」


 恨みか信実か、どっちが勝つかな

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