幕間
終わった。
終わった。
終わってしまった。
試合が終わった時はいつもそうだ。
ただ「終わった」とだけ感じる。
KO勝ち、KO負け。
一本勝ち、一本負け。
判定勝ち、判定負け。
判定なしの引き分け。
無効試合。
自分以外の格闘家やファンにとっては、そんな結果が大事らしい。
闘っている時は楽しい。
でも、すぐに終わる。
あたしは一人、控室でバンテージを解いた掌をじっと見つめた。
スターライトコロシアムは裏の興行故に所属団体の関係者にも内密に参戦する選手が多い。
そのため選手が望めば大会側で一流のスタッフを用意してくれる。
ただ、あたしは所属ジムにも内密に大会のスタッフも頼まず一人で試合に臨んだ。
試合当日のアップや調整をする相手がいないくらい、別にどうってことない。
あたしは自分の身体の存在を確かめるように顔の前で右拳を握る。
あたしにとって試合はいつも途中で終わる映画だ。
物語中盤のこれから盛り上がるというところでスクリーンが暗転、劇場が明るくなる。
ひと時の夢は終わり、現実に引き戻される。
あたしが唯一ライバルと認めた別次元の強さを持つ女、桜庭夢乃。
その夢乃が推薦した、秋月和子といったか。
「アァッ!」
バンテージを巻いていない素手の拳を一発、サンドバッグに叩き込む。
拳に伝わる重い感触。
だが、これじゃない。
あの茶髪の女に今すぐ拳を打ち込みたい。