最終話 戸惑いからの喜び
《落ち着かないアージスモ》
「スチクノ! イウファーは大丈夫なのか!」
「陛下、先程女官が頑張っている最中と申していたではないですか」
スチクノは呆れつつも、普段は見れないアージスモの狼狽している様子を楽しんでいた。
「それにしても、もう医師が部屋に入ってから三時間は経つぞ! 何かあったのではあるまいな!」
「陛下、落ち着いて下さいませ」
部屋に入って来た女官長は狼狽ているアージスモを一喝した。
「どうした! 女官長が来るとは! イウファーに何かあったのか!」
「もう! 情けないですわね! これだから殿方は……お産とは時間の掛かるものなのです。今は陣痛の間隔が十五分程ですので、まだ時間が掛かりますわよ」
出産を間近に控えて、無力感に苛まれるアージスモは心配で心配で仕方が無いのだ。その様な姿を見せるものだから女官長に叱られてしまうのだった。
それから更に二時間ほど経過した頃、王城に赤子の産声が響き渡った。そこにアージスモの叫び声が混じっていたのは、皆聞いていない事にしたのだった。
▽▼▽
「ウォーディー! 何で! 貴方は、処刑されたと……」
「ああ、ウォザディー・ミフオサは、もうこの世にいない」
フリューニはもう二度と会えないと思っていたウォザディーが目の前にいる事に戸惑っていた。
「それって……」
「今、俺……私はウォード・ウジャーノです。ウジャーノ侯爵の養子になりました」
ウォザディーは貴族然としたキチッとした礼をして名乗った。
「……という事は、ウォーディーは私の息子になるのですか?」
「は? ……父上! どういう事ですか!」
ウォザディーの嫁が来ると聞いていた所にフリューニが現れて戸惑っていたのに、母親になると言われて彼は混乱した。
「ああ、すまんのう。陛下より口止めをされておったのじゃ。フリューニ様にも何も言っておらんのだ」
フリューニはウジャーノ侯爵に降嫁されたのだと思っていた。だが二人の会話を聞いていると、どうにも何か違う様だった。
「あのっ、私はウジャーノ侯爵に降嫁されたのですわよね……」
「いえいえ、ワシは陛下よりウジャーノ侯爵家に降嫁するとの言葉を頂きましたぞ」
これ以上の幸せを期待してはいけないと、フリューニは自身に言い聞かせる。ウォザディーが生きていた事だけでも彼女には十分なのだ。
しかし、ミフーソカも意味深な言い方をしたので、彼女の期待はどんどん膨らんでしまうのだった。
「陛下が大事な貴女をこんなジジイに嫁がせる筈ないではないですか。どんな勘違いですか」
「そんな事言ったって! ウォーディーの処刑と共に言われたのですよ! ウジャーノ侯爵家を調べてみても、再興したてで御当主の情報ぐらいしか無かったのですから」
現実について行けずに戸惑っているフリューニが可愛らしく、そんな彼女が嫁になると思うとウォザディーはついつい揶揄ってしまうのだった。それに対して怒って反発して来る彼女の姿も彼には微笑ましかった。
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、無論貴女様の結婚相手はこの愚息ですぞ。そうそう、陛下はこんな事も申しておりましたぞ。『これで跡取りの心配もなくなったな』と」
「なっ!」「えっ!」
ミフーソカの発言にウォザディーとフリューニは思わず顔を見合わせてしまい、恥ずかしくなって視線をそらしてしまった。
「良い大人が、もう夫婦なのじゃから恥ずかしがる事もあるまいて。早く孫の顔が見たいものじゃな」
「まっ、まぎょ!」
フリューニは顔を真っ赤にして盛大に噛んだ。
「そうじゃ、お前達の結婚式は来春に盛大に行う事になっておるからな。国王一家でいらっしゃると仰っておったぞ」
「そっ、そうですわね。もう時期お義姉様のお子が産まれますものね。楽しみですわ」
フリューニは話を逸らして誤魔化した。
「それじゃあ、ジジイは退散致しますかな」
ミフーソカはそう言い残すと部屋を出て行ってしまった。
「フリューニ様。今の私は何の実績もない新興貴族の息子です。こんな中年に嫁いで後悔しませんか」
「馬鹿ですわね。私は降嫁されたのですよ。陛下のお言葉に否応があるわけないではないですか。それと『フリューニ』ですわよ」
フリューニは口を尖らせた。
「それもそうですね。では、私の全霊を持ってフリューニの事を幸せにしますので、ご容赦願えますか?」
「もう、信じられませんわ! 私がどれほど喜んでいるのか、伝わっていませんの? 私は貴方に助けれられたあの日よりずっとお慕い申し上げておりますのよ」
思いもしなかった彼女の告白に戸惑うウォザディーの胸にフリューニは飛び込んでいった。
二つの影が一つに重なったのは、秋の日差しが穏やかな日の事だった。
〜完〜




