第九十五話 裏の終わりと終わりの始まり
《あの時のカウコーヨの話》
カウコーヨはとある王領に有る邸をアージスモから頂いていた。
そこにプトルが訪ねて来ていた。
「コーヨ様、ずっと聞きたかった事があります。あの時私を転送して魔力が尽きた貴方が、何故大怪我を負って城に転移して来たのかを教えて下さいませんか」
「何じゃ、何故そんなに怖い顔をしてるのじゃ? ……分かった、話すからそんなに睨まんでも良いじゃろうて。てっ! ……あっ!」
カウコーヨは今はコーヨと名乗っているのだった。言葉も矯正中だ。
「コーヨ様、お茶が入りました」
メイド服に身を包んだキヌラがお茶を運んできた。
「私もその話を聞きたいですわ。誰かさんがお弟子さんの名を呼ぶから、私は今ここに軟禁状態なのですからね」
カウコーヨに訴えかけるキヌラは言葉とは裏腹に愉しそうな表情をしている。
「じゃがあの時は陛下も……」
言い訳がましいカウコーヨはキヌラに睨み付けられて言葉を濁した。
「はあ、では、聞かせて進ぜよう」
〜〜〜
カウコーヨはプトルを転送した事で魔力がほぼ尽きた。そんな状態で四方を囲んでいる羽付き達が放った炎の塊が迫って来る。
「我が意志は愛弟子が継いでくれるはずじゃから悔いは無いのじゃ。じゃっ! じゃっ! じゃ!」
死を覚悟したカウコーヨの脳裏に愛弟子の姿が浮かぶ。一般常識すら無かった孤児に魔法以外にも彼の持てる全てを根気よく教え続けた。
期間は一年に満たなかったが、頑張り屋だった愛弟子はグングンと成長していった。
「ただ、彼奴は魔法に集中し過ぎるきらいがあるからの。剣や教養も疎かにしないと良いのじゃがな。なっ! なっ! な!」
炎の塊がスローモーションで近付いて来る中、カウコーヨは愛弟子の声が頭に響いた。
『師匠、これをお守りとして持って行って下さい。僕の魔力を込めてあって、それを媒体に魔法が使えるだけの物ですけれど』
カウコーヨは首から下げていたお守りを握り締めた。
直後轟音と共に火柱が立ち昇った。その火柱の中から四つの光の筋が出ていた。
三体の羽付きは眉間をその光に撃ち抜かれ絶命した。一体は辛うじて避ける事に成功したが、右肩を撃ち抜かれ右腕と右の羽が飛び散った。
「なんとも凄いのう。魔力が違うだけで威力がここまで変わるとはのう。うっ! うっ! う!」
炎が収まるとそこには結界を展開して無傷のカウコーヨがいた。
「この魔力を使えば魔物を一掃できるのでは無いか? かっ! かっ! か!」
カウコーヨは先程の光線を無数に魔物達に向かって放った。大多数の魔物が光に撃ち抜かれて絶命していった。
『ザシュッ』
魔法に集中して無防備だったカウコーヨは、後ろから振り下ろされた爪の斬撃によって吹き飛ばされた。
「ぐぅふぁっ」
地面を転がり、口から血を吐き出しつつも振り返ったカウコーヨは、片腕で瀕死の羽付きの姿を捉えた。
「抜かったわい。……いっ!……いっ!……い!」
羽付きに止めを刺すとカウコーヨはその場に崩れ落ちた。
「……はぁ、……はぁ、あれだけやってもまだ残ってるのか……彼奴の魔力は……凄いの……のっ……の……」
薄れゆく意識の中でカウコーヨは愛弟子と過ごした王城の一角を思い浮かべていた。止め処なく背中から溢れ落ちる血液が限界量に近付き彼は意識を手放した。
お守りが輝きを増していき、次の瞬間にはカウコーヨの体は王城に転移していたのだった。
▽▼▽
ウォザディーは目の前にかかっている燕尾服を眺めている。
「明日は遂に式の当日か」
本当は早く寝ないといけないのだが、どうにも緊張し過ぎて眠れないのであった。
「彼女のためにも、失敗は許されないからな」
胃がキリキリとして来るのであった。
「仕方が無い。最終手段だ…………すぅ……ふぁぁぁ……すぅ……ふぁぁ……」
ウォザディーは自身に睡眠の魔法を掛けた。
そこには規則正しい寝息だけが響いていたのだった。




