第八十九話 大罪人ウォザディー
《降嫁されるフリューニ》
「アージ兄様! ウォーディーが処刑されるというのはどういう事ですか!」
「言葉の通りの意味だ」
アージスモはフリューニを冷たく遇らう。
「そんな事はさせませんわよ。私がウォーディーを救い出します」
「お前にそんな暇はないぞ。降嫁先が決まった。年嵩のお前でも迎え入れてくれるそうだ。明朝の出発になるから準備しておけ」
フリューニは耳を疑った。
「私のウォーディーに対する気持ちはご存知ではないですか。先日も婚姻のお許しを頂いたではないですか」
「待て、何の事だ。そんな許しは出していないぞ」
アージスモには全く身に覚えがなかった。
「嘘ですわ、確かに仰ってました。ウォーディーが許しを請いに行かれてアージ兄様が黙認したと仰ってました」
「なる程な。あの時はウォザディーとは戦争関連の話をしておったのだ。何かやりたい事を濁して伝えて来たので踏み込まずに黙認する事で肯定したのだぞ。結婚の話なんて全くなかったぞ」
フリューニは冷静に振り返ってみる。ウォザディーは『傷の責任は取らせて頂きます』と言っていた。文字通り取るならば、必ずしも結婚の事を言っている訳では無いと気付いた。
「諦めろ。ウォザディーは明日処刑する。そしてお前は明日降嫁する。これらは決定事項だ。お前の相手は……」
「もういいですわ! アージ兄様の分からず屋!」
フリューニは話の途中で部屋を飛び出して自室へ駆け込んだ。
「うっ、えっぐぅ。うぇっ、ひっぐぅ。……ウォ……ディ……」
その日、フリューニは部屋に引き籠もって、出て来る事はなかった。
▽▼▽
その日のディアトキアは妙な熱気に包まれていた。普段は閉じていて必要に応じて開いたとしても、片側が三分の一程しか開かない貴族街の北門が全開になっているのだ。
そして平民街側の広場に処刑場が建設されていた。文献を頼りに組み上げたれたそれは、所謂断頭台だった。
アージスモを始め早々たる面々が席に着く。会場は静まっていった。
「本日、150年ぶりに公開処刑が行われる事となったのは、あまりにも罪深き者が現れたからだ。その者は、まやかしを用いたり荒唐無稽な話をして巧みに人心を操り利益を貪った。更には魔物を手懐け国家権力に逆らう反逆人である」
アージスモは辺りを見渡す。民衆にまだ戸惑いの色が見える。
「先の戦勝で27年に及ぶ内乱に終止符が打たれた。にも関わらずその者は私欲の為に国の根幹に害為す極悪人だ。ようやく訪れた平和を脅かさんとする者には厳粛に対処する事にした」
だいぶ民衆の熱が上がってきていた。
「大罪人をこれへ!」
アージスモが命令した。右足と左足を鎖で繋がれ手枷から伸びた鎖が首をに繋がっている格好の男が鎖を『ジャラジャラ』言わせながら壇上に引っ張られて来た。
鎖の長さの関係上、歩幅は狭く手枷に引かれて頭が下がり、猫背になって歩く大罪人にふさわしい惨めな姿を民衆は固唾を飲んで見守っていた。
断灯台にウォザディーが上がった時に、人垣を割って一組の夫婦が前に出てきた。
「お待ち下さい! 彼は悪人などではありません! 私達夫婦を結び付けて下さいました。それも報酬は一握りの小麦の種だけでです。同じ様な事を他の農家などにもしておりました。果たしてそれが私利私欲と呼べるものでしょうか!」
民衆の一部の空気が確実に変わった。『そういえばあの時』など恩を受けた実体験が語られはじめた。騒めきが広がり始めアージスモが静止の言葉を掛けようとした。
「ふっ、おめでたい奴等だな。お前らの結婚で製粉作業がパン屋から農家へ移った。小麦粉で流通すれば物流費が下がり仕入れ値が下がればパンが安くなる。そしてパンが主流になる。そうして潤ったお前らから恩に着せて搾取し続けられる所だった! 捕まっちまったけどな」
それを遮ったウォザディーの言葉に、民衆はまた怒りの声を上げた。
「馬鹿が相手で、やりやすかったぜ」
ウォザディーは怒号に包まれた。石などを投げる者も出て来て会場は少し混乱した。ただ結果的に、その混乱のお陰で反逆者を庇った夫婦はいつの間にか姿を消していて罪に問われる事は無かった。




