第八十五話 念願
《消える見張り》
「ねえ、フジョーさん。俺って夜間の見張りが多いと思いません」
「普通だろう」
フジョーは詰所で後輩の愚痴を聞いているのだった。
「さあ時間だ。見回りに行くぞ。お前は上を頼む」
「はっ、はい!」
後輩は元気良く答えて走り出した。上の見張りの方が楽なのである、少しでも後輩の気持ちが上がってくれればとのフジョーなりの心遣いだった。
「よし、俺も行くか」
右足を引き摺るような独特の歩き方で、フジョーは建物の中から見回っていく。今まではルートで無かった部屋の中を見回る。
「ははっ、凄い寝相だな」
メジマーが送り届けた子供達が寝ている部屋で、フジョーは床に落ちた掛け布団を拾い上げ掛け直して回る。
そして廊下に出た時に違和感を感じた。
「誰だ!」
フジョーは腰の剣に手を掛けて声を上げたのだった。
▽▼▽
「ああ、いきなりごめんな。ちょっと来てくれ」
「えっ、領主様?」
フジョーは剣から手を離す。所が、ウォザディーは戸惑っているフジョーのその手を掴んだ。
「それじゃ、行くぞ」
ウォザディーは指を鳴らした。
〜〜〜
「陛下! この者が何か問題を?」
「何を言っている賊だ」
目の前に血塗れで倒れていたのは、何故かキエッツォ軍の兵士だった。
「変わり身の術だ」
「ひゃう!」
ウォザディーが後ろから声をかけた事でヤーカンは飛び上がった。
「ぞくぅ……っ!」
入り口付近で叫び出そうとした男は突如息が出来なくなった。
「騒がないでくれよ。俺今機嫌が悪いんだよ」
ウォザディーが言い終わる頃には男は泡を吹いて倒れた。
「さあ、フジョー。こいつがお前の人生を狂わせた男だ。復讐するなら今だぞ」
「ぐぅ……がぁ……」
ヤーカンは必死に何か訴えているが声が出ない。しかもウォザディーの魔法で動く事さえ出来なかった。
フジョーは腰から剣を抜くと静かに構える。
「お覚悟!」
フジョーは剣を振り抜いた。
『バゴッ!』
ヤーカンは白目を向いて倒れた。
「それで良いのか」
「ええ、スッキリしました。こいつを殺した所で私の体が元に戻る訳ではありませんから」
フジョーは剣の腹で動けないヤーカンの頭をぶっ叩いたのだった。
「そうか。まあお前がそれで良いのなら構わないけどな。よし、敵大将を討ち取った褒美をやろう」
「へっ?」
意識のないヤーカンを縛っていたフジョーは、突然の事に変な声を上げた。
論功行賞を現場で行う事なんて今まで聞いた事がない。
「望みは何だ言ってみろ」
「充分です。もう諦めていた戦果を上げる事が出来ました。他に何を望みましょうか」
フジョーの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「馬鹿が。あるだろうよ。仕方ないから俺が思っているフジョーの欲しいであろう物をやろう」
ウォザディーはフジョーの右足を蹴り飛ばした。フジョーの足から義足が外れ吹っ飛んでいった。
片足でよろけたフジョーは倒れないように足をついて踏ん張った。
「お前の足だよ!」
「なっ!」
フジョーは驚いた。右足で踏ん張っているのだ。地面に両の足を突いて立っていたのだった。
「あははっ、夢か、夢だよな、夢じゃなきゃおかしい……いでででっ!」
ほっぺたを思いっきり抓ったフジョーの頬に涙の線が描かれた。
「違いますよ」
「ああ」
否定するフジョーにウォザディーは素っ気無く答える。
「本当に違いますからね。これは抓ったのが痛くて出ただけですからね」
「ああ」
ウォザディーは只々素っ気無く答えるが、その口元には笑みが浮かんでいた。
「そこまでよ。これが何か分かるかしら」
突然現れたギムテアは例のガントレットを手にして構えていた。
「やめろ! それを使うと死ぬぞ!」
「ふん、負け惜しみを。じゃあ、さよなら」
ガントレットに魔力が集まっていく。
『ばたり』
ギムテアが白目を剥いて倒れた。
「それは俺専用でとてつもなく魔力を吸い込むんだよ。おっ、息がある」
ウォザディーはギムテアが生きていられた事に驚いたのだった。




