第八十四話 騙し合い
《広まる話》
人は実際に見た物に関しては口に戸を立てるのは難しくなる。見た人が多ければ多いほどにそれは顕著になる。
ウォザディーのあの光はディアトキアの多くの者を救ったのは事実だ。しかも中には偶々一部始終を見ていた人もいた。
「空飛ぶ使徒に抱えられたあの方は、街の惨状を嘆き手を翳されたのだ。その瞬間あの方の手は吹き飛んで奇跡の光が街を包んだのさ。光に目を奪われた私が再度あのお方を見上げると、その手は復活を遂げ健在でした」
等々、嘘は一つもないのに矢鱈と神格化されて話は広まっていったのだった。
今日も酒場でそんな話題で盛り上がっている。
「そんなものは、まやかしだ! 大体奴等は魔物と繋がってる! という事は最終的に悪魔と魔女に繋がってる筈だ!」
憲兵達はかなり苛立っていた。先日あの孤児院の院長を拘束に行ったが、魔物騒ぎで有耶無耶になってしまったのだ。
「はっ、笑わせるぜ! 院長先生に言い負かされていたくせに!」
「「「あはははっ!」」」
どっと笑いが巻き起こった。
そうなのだ、中途半端になったせいで憲兵達が言い負けた印象が付いてしまった事も、彼等の苛立ちに拍車を掛けるのだった。
「俺もあの方がいたから結婚出来たんだ!」
「そうだな。俺も助けてもらった。不思議な力だろうと何だろうとその事実は変わらない!」
「そうだ! 俺は魔物に喰われかけてたんだぞ! それが今はピンピンしてる! そん時、あんたらは何していたのかな」
こうなってしまうと憲兵達はお酒を楽しむなんて出来なくなる。そそくさと帰る事しか出来ないのだった。
翌日、それらの怒りをぶつけんが勢いで憲兵達が孤児院に迫っていた。
そして、弾き飛ばされたのだった。
「何だというのだ!」
再度挑戦するが、また弾き飛ばされる。ウォザディーが施した結界は魔物を弾くのではなく、『悪いのが入って来れない』結界なのだから。この孤児院に対して悪意がある者は弾かれるのだった。
それを見た人々が、『憲兵達が魔物除けの力に弾かれた』と噂を広げ憲兵達の信頼は地に落ちたのだった。
▽▼▽
「ウォザディーじゃないか。そんなに怖い顔をしてどうしたんだ。もしかして甲冑の事か? あれはギムテアが勝手にやった事で、ここには無いぞ」
「いや」
首を振るウォザディーにヤーカンの目が泳ぐ。
「やけに兵の数が少ないな。みんな寝ちまったのか」
「あっ、いや、そのな」
ヤーカンはポケットからハンカチを取り出して、溢れ出た汗を拭いた。
「性懲りも無く、また人攫いか」
「人聞きが悪いなあ。現地召集ってやつさ。国際的には内戦扱いなんだろ、じゃあ国の人間を徴兵した所で問題無い筈だ。文句を言われる筋合いは無いな」
凄んだウォザディーを馬鹿にする様にヤーカンは牽強付会の主張を行った。
「なあもう止めないか。これ以上は本当に殺さなくてはいけなくなってしまう」
「お前は相変わらず優しいな。分かった」
ウォザディーの最後通牒にヤーカンは微笑んだ。
「もうお前には死んでもらおう」
「えっ?」
ヤーカンの微笑みはいやらしい笑顔に変わった。彼はハンカチの下に隠し持っていた発信器のスイッチを押した。
四方八方から光線が放たれウォザディーの体を貫通していく。
一拍遅れて彼は全身から血を吹き出して倒れたのだった。
▽▼▽
「やったぞ! これは起動に時間が掛かるのが難点だったからな。うまく時間が稼げたのが勝因だったな」
ヤーカンは常に何かと比較され、かなりの面で上回られていたウォザディーを葬り去った事で胸のすく思いだった。
そして勝った喜びにほくそ笑んでいた。
「誰かおらぬか!」
ヤーカンは大声で叫んだ。
「陛下! 如何なさいました!」
大慌てで臣下がヤーカンのテントに飛び込んで来た。
「賊が侵入した。始末したので後処理をしてくれ」
ヤーカンは気分が高揚していて臣下がとまどっている事に気付かなかったのだ。




