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第八十一話 リミット

 《迫り来る限界》

 ソイベが必死で町中を走り回って戻って来た時には、孤児院に避難してきた者は一組の家族しかいなかった。


「ムカニ! 良かったぁ。セカチネさん、ようこそいらっしゃいました」

「ソイベもあまり無理しないでよね。ビックリしたんだから。あそこで憲兵に歯向かうとか無謀すぎよ」

「こら、ムカニ。ソイベさんには彼女なりの事情があるんですよ。あなたの意見を押し付けては迷惑よ」

「持てるだけの野菜は持って来たぞ」

 青果店のセカチネ一家だった。


「取り敢えず狭いですが中で寛いでいて下さい」

「ああ、ではそうさせて貰うよ。これらはキッチンに適当に置かせて貰うな」

皆それぞれ箱を持って孤児院の中に入って行った。


主人(オーナー)殿も休まれてはどう?」

「いえ、私はここにいるわ。魔物が迫って来たらここに避難してくる人もいるかも知れないもの」

 クレナはソイベの底抜けにお人好しで馬鹿みたいに純真な所もとても好きだった。それ故に危険からはしっかり守ってあげなければと思うのだった。


「ちょいと! 手伝ってちょうだいな!」

「は、はい」

 ソイベは声のする方を見ると、荷物がこれでもかと乗った荷車を引いている老婆がいた。


「キーナジョマさん! 来てくれたのですね」

「あんたは悪い子じゃ無いし。ほれ、あのウォザディーとかいう子にも世話になったからねぇ。ありがとう、助かるよ」

 ソイベは後ろから荷車を押して裏庭に回り込んだ。


「キーナジョマさんは念の為にこちらに避難しておいてもらって良いですか」

「分かった。お邪魔するよ」

 キーナジョマは足を踏み入れて驚いた。窓から見える景色が全く違うのだ。


「キーナジョマさん、森の方には出ないで下さいね。魔物が出るそうなので」

「もしかしてルイシネ樹海なのかい? ……ウォザディー? そうじゃ無いか! ああ、歳を取るっていやだねぇ、何で思い出せなかったんでしょうね。あの子は英雄様じゃないかい」

 キナージョマは若い頃は名の知れた薬師だった。貴族や王室御用達の商人なんかとも繋がりが有り、色々と一般人では知り得ない情報に触れる機会も多かった。ウォザディーがルイシネ樹海に魔物を封印した話も耳にした事が有ったのだった。


 荷物を運び入れ終わるとキーナジョマは並べられている本を興味深そうに眺めていたのでソイベは外に出た。

 あっちこっちから逃げ惑う人々の声が聞こえる。魔物が遂に街に侵入したようだった。


「こんな状況でもここに避難して来ないのね」

「信じ切れないのでしょうね。それがどれほどの危険に繋がるかも分からずにね」

 ソイベはとても切なかった。今まで積み重ねて来たものが出鱈目を言われただけで崩れてしまったのだから。

 クレナは残念そうで哀しげな表情を浮かべた。


 遂に孤児院へも魔物がやって来た。ソイベを見つけて走って向かって来る。

 目の前に迫った所で空間が光った。そして魔物は空間にぶつかって跳ね返っていた。


「ウォー様がいないせいですかね、ちょっと力が弱いです。私がウォー様を連れて来ます。暫くは持つとは思いますけど中に入っておいて下さいね」

 クレナはそう言うと飛び立って行ってしまった。


▽▼▽


「お前が慌てているという事は、ディアトキアは魔物の群れに襲われているのだな」

「はっ、はい。孤児院の結界も弱まっている気がしましたので、ウォー様をお連れしようと参りました」

 クレナの判断は正しかった。ウォザディーの結界は術者の影響を受ける。距離に応じて威力も落ちてしまうのだ。


「ちょうどこっちも魔法具兵器部隊を引き離した所だから、陛下達の拠点防御で何とかなるだろう。よし、急ごう」

「ええ、飛ばしますので、しっかり捕まって下さいね」

 ウォザディーはクレナにおんぶされた。しっかり捕まると後ろから抱きしめているようで気まずいと思ったのは一瞬だけだった。

 すぐに力一杯捕まった。そうしないと振り落とされそうなのだ。


 あっという間に王都ディアトキアが見えて来た。その時に、閃光が走った。

「まずい!」

 キラキラと魔力の欠片が輝きながら結界が決壊していった。

 クレナもそれが何を意味するのか分かり更にスピードを上げたのだった。

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