第八十話 救出
最初のプロットでは80話で終了予定だった筈が……
まだまだ続きます。
三桁には行かないで終われそうです。
《ソイベ被疑者》
イコルニアツ孤児院は憲兵達に囲まれていた。
「イコルニアツ孤児院院長ソイベ・ササツィ。貴女にM規制法違反の容疑並びに異端審問会より異端審問の要請が出ている。よって身柄を拘束させて貰う」
「お断りさせて頂きます。この孤児院の運営もありますし、大怪我をされている方もおります。それどころでは御座いません」
毅然とした態度でソイベは臨む。
「ここの孤児院には禁書どころか魔物を隠し持っていると調べは付いている!」
隊長らしき男はソイベではなく、野次馬に向かって声を上げた。途端に周囲が騒がしくなる。
魔物は恐ろしいものと教えられている人々は、非難の声すらあげるものが現れた。
「さあ、これでもまだ拒むのですか。皆さん迷惑そうですが」
男は口角を片側だけ上げてほくそ笑む。
その時だった街に半鐘の音が其処彼処から響き渡る。
「「「魔物だ!」」」
鐘と共に叫んでいる言葉は人々に伝播していく。視界の先に土煙が上がっているのが見えた。
憲兵達は我先にと貴族街へと逃げ帰ってゆく。平民街の人々は大混乱で右往左往としている。
「クエチノ! ウォザディーさんの結界はまだ健在よね!」
「ええ、私もこれが無いと外には出れないわよ」
クレナ(クエチノ)が腕輪を見せる。それを見て、ソイベは走り出した。
「皆さん! 孤児院は安全です! 避難してください!」
大声を上げながら街を回った。
「うるさい! 魔物使いめ!」
「黙れ! 裏切り者!」
「この魔物もお前がけしかけたのだろ!」
しかし、心無い声が返ってくるだけだった。それでもソイベは声を上げ続けたのだった。
▽▼▽
ウォザディーは単身キエッツォ軍の魔法具兵器部隊の近くの林に潜伏していた。
「くそっ、見る限り魔法具は埋め込み式か、当然といえばそうなんだが……。本当に人権を無視しているんだな」
部隊の子供達は青い顔をしている者や意識が朦朧としてふらふらしている者達もいる。
一人の少年が倒れた。
「貴様! もたもたしてるんじゃねえ!」
上官らしき男が少年の腹を蹴り飛ばそうとした瞬間に、ウォザディーは足に魔力を集中させて目にも止まらぬ速さで男の目の前まで移動してそのまま蹴り飛ばした。
「子供を蹴り飛ばそうなんて、大人のする事じゃねぇな」
ド派手な登場となってしまったウォザディーだった。
近くでよく見ると子供達は数人単位で足同士をロープで結ばれていた。仕方ないのでウォザディーは指揮官クラスを次々と排除していった。
キエッツォ軍は追撃に気を取られていた為に、追撃に不必要な魔法具兵器部隊への関心が薄れていた事も幸いして最大のチャンスが訪れた。
「メジマー、居るか」
「はい。ここに」
すっかり間者に染まったメジマーはウォザディーの前に跪いて登場した。
「随分と古典的な登場の仕方だな」
「古き良き時代の行動規範を参考に致しました。古の大先輩達の生き様ですから」
顔を伏せたままで会話するメジマーに、ちょっと寂しく感じたウォザディーだった。
「この子達を領地へ連れて行って領主館で保護させておいてくれ。経緯と許可はここに記したから持っていけ」
「ウォー様。いま我は物凄く嫌な予感がしておりますが」
メジマーの前には30人以上の子供と兵站を運んでいたであろう馬車が置いてあるのだ。三頭立ての馬車からは馬が外されている。
「ああ、馬だと追い付かれる可能性があるがメジマーが引けば逃げ切れるだろ」
「やはりか」
メジマーは項垂れたが、それで状況が変わる訳もなく渋々とハーネスを掴んだ。
「お前達、これで逃げろ。必ず助けてやるからな」
全員が乗り込むとメジマーは走り出した。異変に気付いた軍から追手が出たが間に合わないだろう。
馬車を見送った後で林に身を潜めていたウォザディーの前に降り立った者がいた。
「クレナ?」
クレナが来た事で、ウォザディーは考え得る中で最も悪い事態に陥ったと悟ったのだった。




