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第七十八話 緩んだ空気

 《キーベの夢》

「はあ、何だかよく寝たな」

 キーベはベッドから出ると時計を見る。

「やばい、実際に寝過ぎていた」

 キーベは急いで支度をすると家を飛び出した。そして時間ギリギリに王都警備隊の詰所に飛び込んだ。

「あれ、キーベさん。どうしたのですか」

「仕事に来ただけだ」

 キーベの登場を訝しげに後輩が見ていた。

「だってキーベさんは()()()殿()になったじゃ無いですか」


「そうだ、俺は……」

 キーベは平野に一人佇んでいた。周りを見渡すと領軍の面々がいる。

「あれ、いつの間に」

「キーベ殿! 避けられよ!」

 プトル殿の声? 目の前に地面から魔物が現れた。刃物のような爪が付いた腕が振り下ろされる。

「うっ、動かない!」

 体が金縛りにあったように硬直してしまっていた。スローモーションで迫り来る魔物の爪がキーベの左足を抉る。


〜〜〜

「ぐああああ!」

 左足に走った激痛が頭の先まで駆け巡った。

「キーベさん! 大丈夫!」

 痺れる頭にソイベの顔が映り込む。笑顔のソイベが見たいのに、彼女は目と鼻を赤くして頬には涙の跡がある。

「……あ……あ。……い……夫……。泣……な……で」

 キーベは声が上手く出せなかったのだ。

「ゆ……を……た。お……ろし……夢……」

「無理しなくていいから……。あなたが生きていてくれた……。それで十分……」

 ソイベはキーベの胸に覆い被さるように顔を埋め泣いていた。

 彼はこれが夢か現実か分からなかった。何せ、彼の胸で泣く彼女から愛情が感じられたのだ。現実では決して有り得ない事なのに足の痛みや喉のひりつきなどがとてもリアルなので混乱してしまうのだった。


▽▼▽


 夜明けと共にティディサア王国軍はキュテノの街を出発した。


 そして昼前にはキエッツォ軍を捕捉したのだった。

「よし、行くぞ。突撃!」

 王であるアージスモの本陣よりの号令で各騎馬部隊がキエッツォ軍に強襲をし掛ける。そして一撃離脱で林の中へ逃げ込むのだった。


 その林の木々が倒れて行く。地中を行く魔物が木の根を抉ってしまうのだ。

「落ち着いて木の動きを見て魔物の動きを捉えよ」

 騎馬部隊が林の奥に退避し、その前に立ちはだかった守備隊をアージスモが鼓舞する。木々が傾いていき、一本の木が倒れた。

 そこへ兵士達が槍を次々に突き立てる。地上に姿を現した魔物はその瞬間に槍の雨を喰らう羽目になった。

 その間にも騎馬部隊は林の中を迂回して飛び出し一撃を喰らわせると別の林へと駆け込むのだった。それを繰り返してキエツォ軍も魔物も少しずつ数を減らしていった。


 ティディサア王国軍が幸運だったのは、キエッツォ軍の魔法具兵器部隊が脅されてやっと攻撃しているので威力も精度も悪く連携などは皆無だった事だ。


「来るぞ! 右側だ!」

 ウォザディーは目に魔力を込めて木々の流れや魔力の動きを読み解き指示を出す。プトルを始めとする屈強な兵達が槍を構え魔物を待ち構え仕留めていく。

「流石だな」

「いえいえ、領主様の的確な指示のおかげですよ」

 この日の戦いはティディサア王国軍には大した被害は出なかったが、キエッツォ軍にはかなりの損害を与えたのだった。


 キュテノに戻った兵達のムードは明るかった。この調子で行けば決着が付くのも、もう少しだと誰かが言い出し大盛り上がりになった。


「ウォー様、いいですか」

「ああ、どうした」

 夜にウォザディーに割り振られた部屋で寛いでいる所にメジマーが声を掛けて来た。

「キエッツォ軍が不穏な動きをしております」

「夜襲か?」

 歴史的にあまり例は無いが、夜襲も戦術の一つに挙げられてはいるのだ。


「いえ、それが近隣の村を回っているようです」

「強奪か、今からじゃ間に合わないしな」

 通常は強奪と言ったら食料なのだ、兵糧の不安を解消するために近隣の村などを脅して奪うのである。許し難い行為ではあるが、死傷者が出る事も少ない上に今からではどうにもならないと諦めるしか無かった。


 しかし、ウォザディーの失敗は決め付けてしまった事だった。メジマーに追加で探らせていればこの時点で気づけた筈だったのだ。

「流石に狼藉は働かないだろう。メジマーも休んでくれ」

「はっ」

 この判断が思わぬ事態を招いたのだった。

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