第七十七話 反撃の拠点
《動き出す歯車》
メジマーは休む事なく飛び続け、日の出前には孤児院に到着した。
「主人殿! 開けてくれ!」
「ズナギュカさん? ちょっと待ってね」
パタパタと足音が近づいて来て扉が開かれる。
「こんな時間にどうしたの……!」
メジマーの姿を見た瞬間にソイベは両手で口を塞いで絶句した。血塗れでボロボロのメジマーもさる事ながら、青白い顔をしたキーベの左足は本来ある筈の腿から下が無かった。
「まさか!」
「辛うじて息はある。が、戦場では面倒を見切れないので看病を頼みたいのだ」
最悪の想定をしたソイベはメジマーの言葉に少し落ち着いた。
「それじゃあ、ウォザディーさんの部屋に運んで頂戴。その後であなたの手当てもしないとね」
「ウォー様の部屋だな、承知した。我の手当ては必要ない。今は時間が惜しい、一秒でも早くウォー様の下に戻らねばならない」
思いがけず、ウォザディーの安否が聞けたソイベは自分の心情に何か違和感を感じたが、それどこでは無いので必要な物を揃えて回った。そして甲斐甲斐しく看病をするのであった。
「メー。大丈夫?」
「ああ。しかし、もしかすると最悪の展開もあり得る。ここは結界があるから大丈夫だとは思うが……とにかく気をつけてくれ。そしてここを頼む」
メジマーとクレナにとって最早この孤児院は守るべき帰る場所になっていた。
「では、行って参る」
「ええ、御武運を」
強く抱きしめ合うと口付けを交わして離れる。メジマーは力強く飛び立ったのだった。
「これはこれは、やはり黒でしたか」
物陰に身を潜めていた異端審隊員がメモを取っていたのだった。
▽▼▽
ウォザディー達が這々の体で漸くたどり着いたキュテノは、普段の交易の中心地の顔は鳴りを潜めて完全に要塞と化していた。
「ウォザディーがそんなにボロボロになるとは、向こうはまだ何か隠し持っていたのか?」
「いえ、そういう訳では無いのですが……」
街の庁舎の最上階の部屋でアージスモとウォザディーの二人きりで話をしていた。
「一つお聞きしてもいいですか。何故この街の住人を避難させてまでここを拠点にしたのですか」
「先ず一つは、我々には休息が必要だったという事だ。安全にゆっくりと休める場所がな。ここならば、例の魔物に下から襲われる心配は無い」
確かにキュテノは交易の中心地の事だけあって潤っていて高い建物なども多く、その基礎工事で地面は殆どがセメントと砂利で固めてあるのだった。
「それにずるずると下がる訳にも行かない。我々は王都を火の海にする訳には行かないのだ」
「では、ここを拠点に迎え撃つというのですか?」
ウォザディーは迎撃だけは取ってはならない策だと思っているのでアージスモに尋ねた。
「いや、向こうは魔物以外にも魔法具兵器もあるからな。拠点防御は集中砲火でやられてしまう。そうであるから打って出る。その為の策も練ってある。しかし、ウォザディーがいるならばもっと良い作戦が実行出来るな」
「それが……」
ウォザディーはアージスモを信じる事に決めた。
「今の俺は魔法は使えません……」
ウォザディーは自分に起こった事を順を追って説明して行った。
「成る程。やはりウォザディーを囮にしたあの作戦は失敗だったという事か。お前が気に病むことはない。我々の責任だ。それに、作戦には元々お前は含まれていないんだ。それでも勝利の算段は付いているのだ安心しろ」
「分かりました。俺も出来る事は手伝いますのでなんなりと言ってください。」
アージスモはもっと違う方法で捜索をすべきだったと、今更ながらに後悔をした。
その後ウォザディーは作戦の話を聞いて、どこを手伝えるのかを考えたりしていると時間がかなり経っていた。
「明日は、やるぞ」
慣れない指揮を執る事になったウォザディーは必死に自分に言い聞かせるのだった。




