第七十四話 防戦一方
《間者たるもの》
ウォザディーのテントでの異変に逸早く気が付いたメジマーは、気配を消して物陰に潜んでいた。
そしてウォザディーと少し幼さは残るもの、体はしっかりと成熟している女性が酒を酌み交わすのを見守っていた。
(間者たるもの主の影となり、いつ何時も側でお守りすべし)
メジマーはプトルから貰っていた『間者たるもの』という題名の心得の本の内容を思い出していた。
(ふむ、中々別嬪な娘だな。主の鼻の下が伸びていないか? いないな)
酒も進み女がウォザディーにしなだれ掛かった。
(間者たるもの時には空気となりて、主の行動を妨げる事なくお守りすべし)
女がウォザディーの甲冑を脱がしていく。
(この流れは生殖行為に繋がるのでは。人間の生殖行為を見るのは初めてだな)
ウォザディーが女の肩を強く掴んだ。
「痛い!」
女が苦悶の表情を浮かべていた。
(人間は意外と荒々しいのだな。ん! しまった煙幕か!)
メジマーは素早くテントの入り口から外に出る。
「いた! 逃げ足の速い奴め」
メジマーが女を見つけるまでに数十秒しか経ってなかったが、随分と離れた所まで行っていた。
メジマーは女を追い掛ける。徐々に女との距離を縮めているが、女も中々やるもので折を見ては投げナイフを飛ばして来る。
林の中というのは魔乃物である利点の飛ぶ事が上手く出来ない。さらに大柄なメジマーには不利に働く。しかし、天は見放さなかった。女の髪が枝に引っ掛かったのだ。
「そこまでだ!」
メジマーが一気に距離を詰めようとした。
「なっ!」
あまりの出来事にメジマーは止まってしまった。女は髪が引っ掛かっても構わず走り続けた。当然髪の毛が引っ張られる。
普通ならその痛みで止まってしまう筈だが、なんと女の首がもげたのだ。
「しまった変装か!」
枝に引っ掛かってもげたのはウィッグと一体になった顔の皮を模した物だった。
メジマーはそこで追撃を諦めた。女の本当の顔がギムテアだったからだ。
「万が一変な術にでも掛かったら、ウォー様に迷惑をかけてしまうな」
ギムテアが人心を惑わし操る事を知っているメジマーとしては、それが最良の判断だった。
▽▼▽
朝から戦いは一方的っだった。キエッツォ軍は全軍の三分の二を投入して攻めて来たのだ。兵力差は10倍程となった。
「左翼を3ブロック下げろ! 右翼は5ブロック下げろ! 中央はそのまま少しで良い耐えてくれ!」
キーベが本陣で声の限り指示を飛ばす。
「キーベ、本陣を少し下げるぞ」
ウォザディーはキーベに断りを入れると本陣を動かした。
「指揮官殿! 右翼が下がりきれていません。このままだと孤立してしまいます」
「くそっ、遊撃部隊を右翼に……」
「待て! プトル殿が動いている。遊撃部隊は中央に入れろ」
ウォザディーは目に魔力を込めて戦場を見渡して、状況から出した判断をキーベに伝える。
「分かった。よし! 遊撃隊は中央の補強に向かわせろ!」
なんとか壊滅を防ぎながらもじわりじわりと押されて下がっていく。
「よし! 陣形が戻って来たな。全軍5ブロック下げろ! 速度を合わせろよ!」
ギリギリ包囲はされていないが、押されて下がるだけの領軍にキエッツォ軍は攻め立てる。
「ウォー様。もう間もなく到着致します」
「そうか。では北の林を回ってキエッツォ軍の先鋒の後ろを攻めて貰ってくれ」
メジマーが現状を伝えてくれたので、ウォザディーは伝言を頼んだ。
「キーベ! 中央だけスピードを上げてもう少し下げてくれ。」
「了解。中央隊現在地から3ブロック走らせろ!」
全体的に引いている最中に中央だけ速度を上げると横並びだった陣形がVの字のようにな形になる。前にスペースが出来た事でキエッツォ軍はそのスペースに向かって前進する。
そこに突如林から新手が現れてキエッツォ軍を分断したのだった。




