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第七十三話 ギムテアの思惑

 《教え子達》

「この間、ミフーソカ先生にお会いした」

「それで、シニオ。先生はお元気でしたか」

 王都ディアトキアの平民街商工区の南側の高級バーで、シニオとソナカがグラスを傾けていた。


「おいおい、面白そうな話をしてるじゃないか」

「ねえマスター、ボクにも同じ物をお願いね」

「おっ、シウパにマチスタ嬢! やっと来たか。これでみんな揃ったな」

「今日は俺の仕切りだったな。では、僭越ながらシニオ商会会長のシニオの名で、乾杯!」

「「「乾杯!」」」


 シニオは俺様会長でガンガンと突き進んで、シニオ商会を大きくしてきた。

 ソナカは空気が読めるが空気を読まない天の邪鬼な性格を良くも悪くも利用して、ソナカ・ディーケ会社を押しも押されぬ大企業に成長させた。

 シウパは熱血と筋力で周りに集まる熱狂的従業員と共に、シウパ商会を発展させてきた。

 マチスタは大胆な経営戦略と女性ならではのきめ細やかなサービスでマチスタ・カンパニーをトップ企業に押し上げた。

 彼らはディーケ製品を扱うライバル会社の長であり同じ師に学んだ同志でもあり、偶に時間を合わせて酒を酌み交わす間柄だ。


「それで、私にも教えてくれよ。先生の事を」

「まあ、シウパ落ち着いて。四人で飲むのも久しぶりなのですから積もる話もあるでしょうに」

「シニオはそうやって良い子ぶるのね。でもボクも世間話よりも先生の話の方が気になりますわ。」

「まあ、そうだな。俺が聞く立場でもそう思うな。単刀直入に言う。先生からこれを頂いた」

 シニオは鞄から紙の束を取り出し三人にそれぞれ渡した。


「何と!」

「まじか!」

「凄いですわ!」

 三者三様に驚いていた。


「先生はこれを有効に使えと渡してくれた。それを運が良かったと俺は思えなかった。はっきり言って悔しかった。その気持ちを共有して貰おうとこの資料を用意した」

「ああ、確かにこれは俺には思い付きもしないですね」

「そうだな。その手が有ったかって感じだな」

「ボクとしても届きそうで届かない感じが悔しいわね」

 一般の経営者ならば、先進技術を他社に流すなんて馬鹿だと言うだろう。

 しかしこの4人は同志でもあり、王都ディアトキア、いやティディサア王国でもトップの企業4社の経営者なのである。独占しようが利益が四分の一になろうがそんな事よりも、ミフーソカの偉大さを共有する方が遥かに大切な事なのであった。


「これの事はいいのだが、先生が気になる事を仰っていた。今、孤児院に身を寄せていると」

「なんと! それは本当ですか。孤児院といえば……」

「そうだ、今ここにあるのはイコルニアツだけだろ」

「ええそうね。でもあそこはまずいんじゃないかしら」

 四人は皆渋い表情で思案していたのだった。


▽▼▽


「もう、せっかちなのですから」

 ジニィは頬を染めながら目を閉じ、ウォザディーの髪に指を絡めた。


「痛い!」

 次の瞬間にウォザディーに肩を力一杯掴まれてジニィは目を見開いた。

「いつまで茶番を続けるつもりだ」

「茶番? 何の事ですか」

 ジニィは何を言われたのか分からないという表情を浮かべた。


「酒が入れば呪術が掛け易くなるみたいだな。変装といい、そこまでは見事だったぞ」

「わっ、私はそんなつもりは……」

 ジニィは何が何だか分からず怯えている風に見えた。

「もういいって、お前が魔力を俺に流した段階でお前の計画は失敗に終わったんだよ」

「ふふふ、相変わらず甘いのね」

 ジニィは素早く体を下にずらし肩の拘束から逃れると、横に転がって起き上がった。


「何しに来たんだ。ギムテア」

「あらあら、勝ち誇った顔をしちゃって。私だったら気付いた瞬間に殺しているわ。それが出来ない貴方の甘さが敗因ね」

 ギムテアは煙玉を懐から出した。たちまちテントに煙幕が掛かる。


「ほら、こんな煙なんて魔法で何とかしてしまえるのでしょ。どうしたの? このままじゃ私を取り逃すわよ」

「くっ!」

『ガシャン』

 何か袋のような物に甲冑を詰めたのだろう、鈍い金属音が響いた。


「これは貰っていくわ。それじゃあね」

「くそっ」

 入口が開いて煙が外に逃げると共に視界が戻って来る。


「油断した……いや、覚悟が足りなかっただけだな」

 ウォザディーはギムテアの指摘通りの自分に憤りを感じた。

 話し合いが通じると思っていた過去の自身を叱ってやりたい気分だった。

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