第七十二話 美女との夜
《荒れるヤーカン》
「くそっ! こんな所で! 奴さえいなければ!」
「もういっその事、全軍で突撃して仕留めますか」
「それではこちらの被害も甚大になるかもしれません」
軍議の場でも怒りが治らないヤーカンを他所に、話し合いは続くが答えに辿り着く事は無かった。
「魔法使いなど技術の力で上回れるのではなかったのか! 魔法具連結を今度は千人規模で行えばいいではないか!」
「ここで千の兵を失うのは得策ではありません」
もう兵達は魔法具連結を行うとどうなるかを知ってしまった。そうなると千も兵を確保することなど不可能なのだ。
秘書官はそれを濁して伝えた。
「それでは打つ手がないではないか!」
「ひとつ宜しいでしょうか。ウォザディーに関して不審な点があります。奴の得意魔法は風魔法だった筈です。なのに奴は火魔法しか使用していません」
怒り狂うヤーカンに恐る恐る魔法具部隊長が進言する。
「どういうことだ」
「もしかすると魔法封じに成功しているのではないかと。魔法具で魔法を使えると偽装しているのではないかと」
「だからどうだと言うのですか。仮に魔法具だとしても厄介な事には変わりないではありませんか。」
秘書官は理解出来ずに反論したがヤーカンは笑みを浮かべていた。
「ギムテア。お前なら真偽を調べつつ、本当に魔法具だったら奪って来ることが可能だろう」
「ええ、お安い御用よ。じゃあ早速今夜行って来るわ」
宵闇に姿を同化させたギムテアは、ウォザディーの所を目指してひた走るのであった。
▽▼▽
「誰だ!」
気配を感じたウォザディーは声を掛けた。テントの入り口に一人の女性が酒瓶を抱え立っていた。
「何奴だ」
「あっ、あのぅ。わ、私は……その、ジニィ……で、です」
少し警戒心を緩めて女性に問いかけたが、彼女には恐ろしかったのだろう。しどろもどろになりながらも何とか答えた。
「ジニィ、どうしてここにいるのだ」
「その、ぷ、プトル様に領主様のおっお酌をしろと……」
ジニィは今にも泣き出しそうになりながらも必死に答えた。
「そうか、分かった。プトルも余計な気を回さなくてもいいのにな。プトルには俺から言っておくから下がって良いぞ」
「そ、そんな訳には参りません。お願いです。ぜひお酌を……」
あまりに懇願して来るジニィにウォザディーは一つの結論に行き当たった。
「報酬か」
「えっ、えっと、はっはい。幼い弟が病気で薬代を稼ぐのに父も母も精一杯やっているのですが……」
ウォザディーの手元に有るお金は大した額ではない。領の金銭管理はデュオキャに一任しているし、軍費はプトルに任せている。故にここは素直にお酌を受ける事が、ジニィの為にもなるのだ。
「分かった。酌をして貰うとするか」
「あ、ありがとうございます」
ジニィはウォザディーに杯を渡すと酒瓶を重そうに持ち上げ注ぎ込んだ。
ウォザディーはひと口含むとゆっくりと味わう。毒などは混入されてはいなかった。
「変わった味の酒だな。だが旨い」
「ええ、南方のお酒との事です」
勧められるままウォザディーは飲み進めた。美酒は後を引き次々と飲んでいった。
「お前も飲むといい、旨いぞ。それで弟はどんな病気なのだ」
「では、ひと口だけ」
ジニィは酒をひと口煽った。その所作がウォザディーにはひどく妖艶に映る。彼の体の芯が熱を持った。
「領主様、少しペースが早いのではないですか」
「ああ、そうかもしれんな。あまりに旨くてな」
体の火照りを酒のせいにする為に呷っていたウォザディーを諫めつつジニィは身を寄せていった。
彼の体の芯の熱はに疼きに変わっていく。
「少し楽になされた方が宜しいかと」
ジニィの手がウォザディーの胸板を弄っていく。彼はいつの間にか上半身の甲冑を外されていた。
一段と密着する彼女から香る芳潤な匂いにクラクラする。
そして気付けばウォザディーの甲冑は全て脱がされていた。服越しに伝わるジニィの柔肌と熱は、彼の箍が外れるのには十分だった。
彼は荒々しく彼女を押し倒したのだった。




