第六十八話 一対五百
《メジマーの誤算》
「クー、ただいま」
「あら、メー。ウォー様は」
孤児院に戻ったメジマーはまずクレナの所に行く。
「ウォー様とは別行動になった」
メジマーは事のあらましをクレナに説明した。
「ねえ、それってうまく丸め込まれたんじゃないの? 私達は羽さえ畳めば人間と見た目的には大差ないでしょ」
「…………あっ!」
言われてみればクレナの言う通りだったので、メジマーは間抜けな声を上げてしまった。
「もしかして、ウォー様に不要だと思われてしまったのかしら。可哀想に、よしよし」
「やめてくれ。そんな事は無い、ウォー様は我等の事を思ってだな……」
クレナはからかい半分で思ってもない事を言って、メジマーの頭を撫でた。反論していたメジマーは、だんだん恥ずかしくなって頭を振ってそれを振り払った。
「分かってるわよ、もう。せっかく甘えさせてあげようとしたのに」
「むくれたクーも可愛らしいよ」
結局、二人の世界に浸ってしまった。
「はあ、なんだか今日は糖分が多めね。でも、羽が無くても人間には見えない事は言ってあげた方がいいかしら」
近くの木陰で読書をしていたルニムネは、悩み事が増えてしまったのだった。
▽▼▽
平野に一人佇む男がいる。
「ふあぁ〜。何だってんだ。こんなに予想より遅いなんて、どっかで寄り道でもしているのか?」
他に誰もいない平野で、ウォザディーの愚痴が風に運ばれ消えていく。そもそもキエッツォ軍の本隊がここまで進行が遅れたのは、他でも無い彼の魔法具で放った一撃のせいなのだ。
あの後に兵達がどれ程の労力を注いで抉られた地面を馬車が通れるまでにしたのかは、涙なしには語れない過酷な24時間だったとだけ記しておこう。
ウォザディーがもう何度目か分からない欠伸をして、大きく伸びをしていたら東の空が真っ赤に染まった。
「やっとお出ましか」
挨拶代わりと空を埋め尽くす無数の炎の塊がウォザディーに降り注ぐ。彼はまるで盾でも構えるかのように左腕を顔の前に出した。
鎧の前腕部が輝いて降りかかる炎を消滅させていく。ウォザディーの半径1メートル以内に着弾の跡は無かった。
「よし!」
ウォザディーは構えると、平野を埋め尽くすように進軍して来るキエッツォ軍に背を向け走り出した。
つまり逃げ出したのだ。
キエッツォ軍は一瞬呆気に取られた。前回とんでもない火力を見せ付けられた魔法使いが相手なのだ、たった一人とはいえ油断はできないと思い、皆が恐怖と闘いながら一歩一歩進んでいたのだから。
「「「待てぇ!」」」
兵達は怒声を上げ続けてウォザディーを追いかける。恐れたいた相手が突然逃亡したのだ。びびっていた自分が恥ずかしく思え、それが怒りの感情に変換されたのだ。
そして怒りは冷静な思考を奪う。
ヤーカン達が必死に止めようとしても、一度流れ出した動きは王命でも止まらなかった。全5部隊からなる先鋒隊の4部隊は突撃してしまったのだ。
残りの1部隊は、魔法具連結という特殊な共鳴反応を利用した大技を放つ為の準備で突撃しなかっただけだった。
「そうか、あれを察知して逃げ出したのだな。無駄な事を」
「そうで御座いますね。あれは追尾式になっていますから、どこまでも追い掛けていきます」
魔法具部隊が魔力を連結させて放った炎は凄まじいエネルギーを内包して、鳥の形を具現化していた。
ヤーカンと秘書官は知らなかった。追尾式の魔法具を開発したのがミフーソカだった事を。そして追尾式を発動するには魔法具連結が必要な事がウォザディーの耳に既に入っていた事も。
「そろそろかな」
ウォザディーは足を止めると腰の剣を抜き迫り来る軍勢に向かって走り出した。
「「「なっ!」」」
その場の全員が驚いた。突撃した兵達は戸惑い、魔法具から炎の鳥を放った兵達は次々に意識を失い、ヤーカン達本陣の者達は頭を抱えていた。
ウォザディーが乱戦となり兵達に囲まれた次の瞬間、その軍団に炎の鳥が激突し彼が前に起こしたのと同等の特大の火柱が上がったのだった。




