第六十五話 新たな一歩
《出陣》
王都ディアトキアはいつも以上に活気に満ちていた。王城の南門が全開になるのはいつ以来の事であろうか。
貴族街の南中央通りは両脇に正装した貴族達が整列をしていて何とも壮観だ。
平民街は人でごった返していて警備隊がロープを手に必死に通りを死守している。
「いざ出陣!」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!」」」
王であるアージスモが先頭で見事な装飾の馬鎧を纏った立派な馬に跨がり号令とともに常歩で進ませて行く。その後で鬨の声が徐々に大きく響き渡り一糸乱れぬ軍隊が続く姿は見る者を惹きつけた。
圧倒された民衆は、一瞬の静寂の後に大歓声を上げる。平民街などはもうお祭り騒ぎだった。
孤児院の子供達も遠目ではあったが軍隊の姿を見て大はしゃぎだ。ただ、院長兼保護者のソイベだけは複雑な顔をしている。数日前に一足早く出発したキーベの事を考えていたのだ。
「どうして……」
ポケットに忍ばせたプレートに触れながら考えを巡らせてしまう。
「とにかく、無事に帰って来ますように」
ソイベはごちゃごちゃの頭でキーベの無事を祈るのだった。
▽▼▽
ウォザディーが東の十五番王領に着いたのは、メジマーと別れてから2日後の昼ごろだった。それから中心都市のシーゴウツに着く頃には日が傾き始めていた。
シーゴウツの街はどこか重苦しい雰囲気だった。
「なあ、女将。この街はいつもこんな雰囲気なのか?」
「何だい! あんたは何も知らないのだね。呑気な旅人さんだこと。戦が始まったのさ。兵隊さん達は今戦場に赴いているんだよ。うちの人も戦場に行っちまったよ」
女将の言葉にウォザディーは驚いた。
「民間人を徴兵したのか! 何をやっているんだ!」
「あっ、いえいえ。違うんですよ。うちの人は志願したのですよ。何でも指揮官って人が前の大戦の参加者らしくてね。しかも領主様が来られるらしいのですよ。もう舞い上がっちまって大変でしたよ」
ウォザディーは取り敢えず領主に会うのが一番だと思った。
「それで領主様はいつ頃戻って来るのだ?」
「さあね。私も噂で聞いただけだからね。でも領主代行のデュオキャさんがもうずっとソワソワしてるんで、ボチボチなのは間違いないさね」
ならば先にその領主代行のデュオキャとやらに会っておくのが、良いと思ったウォザディーは領主館へ向かう事にした。
『カン!カン!』
ウォザディーはノッカーを大きく二度鳴らした。
「はい、どちら様で」
「ああ、俺はウォザディーと申します。先触れも無しに申し訳ないが、デュオキャさんにお会いしたい」
対応に出て来た執事風の老人はズレていた眼鏡を正すと、マジマジとウォザディーの顔を覗き込んで来た。
「これは失礼致しました。確かにあの頃の面影がありますね。デュオキャは私です」
「済まんが貴方の顔に覚えがないのだが」
ウォザディーは昔あった事がある者の顔を必死で思い浮かべて行くが一向に一致する顔が浮かばなかった。
「それは当たり前のことです。私がただ城でお見かけしただけですので」
「そうか、じゃあ俺としては初めましてだな。それで、領主が近々戻って来ると聞いたのだがいつ頃戻られるのだ?」
タイミング良く戻ってくるという事はアージスモからウォザディーについて何らかの指示を受けているのかも知れないので、彼は出来るだけ早く会いたいと思っていた。
「ちょうど戻られた所でございます」
「そうか! それは良かった。ぜひお会いしたいのだが」
ウォザディーはデュオキャに詰め寄る。
「申し訳ありませんが、それは無理に御座います」
「そ、そうだよな。戻られたばかりでお疲れだろうからな」
ウォザディーは己の気遣いの無さに恥ずかしくなった。
「いえいえ、違います。領主様は貴方ですから」
「……へっ?」
デュオキャに手で指し示されたウォザディーは、理解出来ず戸惑ったのだった。




