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第六十四話 一時の休息

 《辞令》

「キーベさん凄いです! 国軍に招集されるなんて!」

「別に凄かねえよ。悪魔と魔女の反乱経験者だからってだけの事だ」

 キーベとは親子ほど歳の離れた後輩が盛り上がっているのを、彼は冷めた目で見ていた。


「キーベさんはあのお伽話の大戦を戦い抜いているのですよね。不思議です」

「まあ、昔の事だ。今の俺にそれを求められても困るんだよ」

 実は、警備隊の皆には伝えていない事があった。


『【辞令】 王都警備隊 キーベ・スージッテ

 貴殿を戦時特別隊長としてティディサア王国軍東方軍として招集致す。

 尚、貴殿の指揮権が及ぶ範囲は東の十五番王領軍とする』


 この辞令を要約すると、キーベは戦時特別隊長として東の十五番王領軍の指揮官となったのだ。

 一つの領地の軍だ、しかも直轄領の指揮官である。


「おいおい一兵卒だった俺に国は何を期待しているんだ?」

 辞令を見た時に溢した、キーベの正直な気持ちだ。

 しかも招集だけで大騒ぎの警備隊員に、指揮官待遇だなんてとてもじゃないが言えないとキーベは思った。


 詰所にいても周りが煩いので避難という名目で、キーベは孤児院にやって来た。

「ソイベ。これを預かって欲しい」

「キーベさん、何の冗談ですか。それは家族や大切な人に渡してあげて下さいよ」

 本当の理由を果たす為に、キーベは二枚一対になっているドッグタグの一枚を差し出していた。

「だからこそお前に持っていて欲しい」

「えっ、それって……」

 いつになく真剣なキーベの真意を理解したソイベは戸惑ってしまう。


「えっ、で、でも……。そんな……」

「お前が奴に惹かれている事は分かってるつもりだ。それでも俺の気持ちは変わらなかった。もし俺が戦死したなら弔慰金はこれで受け取れるから孤児院の役に立ててくれれば良い」

 キーベは無理矢理にソイベの手にプレートを握らせた。


「まあ俺はしぶといから弔慰金はあまり当てにされても困るぞ。なんせあの大戦を生き残ったくらいだからな」

「ばか!」

 おちゃらけたキーベをソイベは睨み付けると孤児院に駆け込んでしまった。


「ふぅ、これで心残りは無いな」

 キーベはスッキリした顔で歩き出したのだった。


▽▼▽


「ウォー様、あれは何事ですか!」

「試し打ち?」

 常識外れの火柱にメジマーがウォザディーの所に駆け付けた。

 魔乃物だけに飛んでだけれど……。


「良かった。火事にはならなかったみたいだ」

「その代わり道がだいぶ抉れていますけれどね」

 ウォザディーは試しにと軍の前方に魔法具の力を放ったのだが、それでもかなりの負傷者を生んでしまった。


 落下を始めたウォザディーをメジマーが抱え上げた。

「なあ、メジマー。東の十五番王領の場所って知っているか?」

「いえ、残念ながら。人間の国の事はさっぱりでして」

 ウォザディーは気不味くなって話題を変えた。メジマーは仕方ないといった感じで話を合わせたのだった。

 それにしても、アージスモはそこへ行けとだけしか言っていなかったのだ。


「仕方ない。何処か近くの街で下ろしてくれ。乗合馬車か何かで目的地を目指す事にする」

「承知しました」

 メジマーは飛び去りながらも、地上を注視していく。暫く行くとその目に街の姿を捉える事に成功した。


「ありがとう。助かった。メジマーは一旦孤児院に戻っていてくれ」

「いえ、お気遣いなく。ウォー様をお守りするのが我の使命ですので」

 街から少し離れた場所に降り立った。


「東の十五番王領という所がどんな所か分からない以上メジマーを連れて行く訳にはいかない。数日探りを入れてみるから、その間は近くにいようが孤児院にいようが大差ないだろ」

「うむむ、ウォー様に危険はないのですか」

 ウォザディーの言っている事は理に適っていたので、メジマーも強く出れなかった。


「ああ、流石に現状で俺を敵に回すような事をする程、アージスモも馬鹿じゃないだろう」

「そうですね……分かりました」

 渋々了承したメジマーは飛び立った。


 ウォザディーはこれから起こるであろう事を思って溜息を吐いたのだった。

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