第六十一話 頼る者頼られる者
《悪魔の進軍》
「陛下、そろそろ参りましょう。王妃陛下がじきに参ります」
「なんだ、もうそんな時間か」
秘書官がヤーカンのテントに声を掛けると素っ裸のままヤーカンは姿を現した。すかさず待機していた侍女達が体を清め衣服を着させていく。
テントの中からは女の嗚咽が漏れ聞こえていた。
「陛下、女性を現地調達するのはお控え頂きたいのですが」
「ああ、人を上手く治めるのが王の務めだったっけか。分かってはいるのだ。今回は魔が差しただけだ」
ヤーカンは反省する気は更々無いようだった。
「毎回魔が差されているではないですか。ティディサア王国を倒したとしても働き手がいなければ我が国も倒れてしまいます」
「分かった、分かった。その程度で反乱を企てるような者達は、村の二つ、三つも皆殺しにして見せしめにすれば大人しく従うだろう」
ヤーカンは秘書官の小言が煩わしくなって極論を展開する。
「そう言う事では……」
「あらあら、随分と物騒なお話をしているのね」
秘書官の言葉を遮ったのは、予定より早く到着した王妃のギムテアだった。贅の限りを尽くし、だらしない体型のヤーカンとは対照的に彼女は年齢を疑いたくなるような妖艶な体を維持している。
顔も全盛期に比べればシワも見られるようになったが、それすら魅力的に映るほどに美容には気を使っているようだった。
「どうした、早かったな」
「ええ、漸くあの国を滅ぼせると考えたら居ても立ってもいられませんでしたわ。でもその前に後始末くらいはきちんとして頂きたいわ。貴方の女遊びは病気だと諦めていますけれど、ニナヒカー以外の子は許しません事よ」
ニナヒカーは二人が唯一授かった子供で20歳になった今でも甘やかされて育っている。
「ああ、それは済まなかったな」
「分かって頂ければ宜しいのよ」
ヤーカンは剣を抜くと、テントに戻って行ったのだった。
▽▼▽
「聞いての通りだ。協力の条件にカウコーヨ殿の解放を入れるつもりだったのだろうが、戦が始まる今となっては彼の力を手放すわけにはいかなくなった。さて、どうするつもりだ」
「そうですね。暫くは自分自身に従って動いてみようと思います」
ウォザディーは一度ヤーカンに会ってみようと思っていたが、そのまま言う訳にもいかないのでアージスモの問いに濁して答えた。
「そうか、仕方ないな。カウコーヨ殿の事は、この戦いが終わった後で解放しよう。その為の準備を進めてきていた事は嘘ではないのだ。だからもし、力を貸してくれる気になったら東の十五番王領を訪ねてくれ」
「分かりました。心に留めておきます」
アージスモはウォザディーの返答に満足そうに頷くと部屋を後にした。王である彼はこれから戦いの為の会議を始めなければならないのだろう。
〜〜〜
「頼みたい事がある。クレナはこの孤児院を守って欲しい。メジマーは俺をヤーカンの近くまで連れて行って欲しい」
「キエッツォが攻めて来るという噂は本当だったのね」
「我は構いませんが、何故あんな奴に会いに行くのですか?これから戦いをする相手ですよね」
ウォザディーは無理を承知で頼んだのだが、思いの外あっさりと了承して貰えた。
「そんな奴でも一時期は仲間だったんだ。もしかしたら話し合いで何とかなるかもしれないだろう」
「そんなものですかね」
ウォザディーはそう言うが、メジマーにはとてもヤーカンが話の通じる相手だとは思えなかった。だが、それは自分が魔乃物であるからかも知れないと思い特に反論はしなかった。
「孤児院の事は任せて貰って構わないわ。まあ、ここは直ぐに危険になる訳じゃないから心配はいらないとは思うけれどね」
「それでは。クー、行って参る」
クレナと別れを惜しみつつもメジマーはウォザディーを抱え上げ飛び立ったのだった。




