第五十八話 キヌラとの接点
《戦乱の狼煙》
キエッツォ王国国境に程近い村は火の手が上がり大混乱だった。右に左に逃げ惑う村人達を襲う兵士達は手をかざすとその掌から炎が飛び出す。そして家を人を燃やして行くのだった。
その光景を近くの丘の上から王であるヤーカンが見物していた。
「陛下、如何でしょうか開発部の技術の粋を結集しました魔法具の威力は!」
「うむ、素晴らしいな。まるで本物の魔法のようだ」
ヤーカンの承認が得られた事により、この魔法具の量産が始まった。
来るべき決戦の日へと向けての準備が着々と進められて行くのであった。
▽▼▽
「あら、初めてじゃ無いのに。忘れちゃったのかしら」
「馬鹿な! 俺は君には全く覚えがないのだが」
ウォザディーは記憶の限りを探ってみたが、やはりこの女性に見覚えはなかった。
「私の事を抱き締めてくれたじゃない。キスもしたのに」
「なっなっな!」
衝撃の告白にウォザディーはただただ戸惑った。
「やっぱり覚えてないのね。酷い人だわ」
「そんな事を忘れる筈がない。本当の事なのだろうな。君の名は?」
半信半疑のウォザディーは問い掛けた。
「嘘なんか付かないわよ。私はキヌラよ。どうせ覚えてないのでしょうけれどね」
「キヌラ……。んっ、まさか!」
ウォザディーはその名にどこか聞き覚えがあった。必死に記憶のかけらを寄せ集める。
パレード、紙吹雪、抱きついて来た女、触れる唇、謝る女性?
「って、三十年前の事じゃねえか! お前、抱き締めたじゃなくて抱き上げただけだろ! それにキスって言ってもここにだろが!」
繋がった記憶は、はっきりと思い出せた。
〜〜〜
群衆から飛び出して来た少女が勢いのままウォザディーの胸に飛び込んで来たのだ。それを抱き留めて抱え上げたら少女は満面の笑みを溢した。
『ありがとう英雄様。私はキヌラよ!』
そう言ってウォザディーのほっぺたに口付けをしたのだった。
『英雄様、娘が申し訳ございません。キヌラ! 離れなさい!」
彼女の母親が平謝りで、ウォザディーから彼女を引き剥がしたのだった。
〜〜〜
「酷いわ。5歳の少女にとっては頬へでも勇気がいったのよ」
「知るか。俺が頼んたんじゃ無いからな!」
変な言いがかりを付けられても困るので、ウォザディーは冷たくあしらった。
「そうね。その事はどうでもいいのよ。それよりもう王城には来ない方がいいわよ」
「どういう事だ」
戯けた顔のキヌラが急に真剣な表情になった。
「貴方は魔法使い様みたいになって欲しくはないのよ」
「なに! 師匠みたいとはどういう事だ?」
思いがけぬ所でカウコーヨの話になったのでウォザディーは突っ込んで聞いた。
「魔法使い様はこの国の為にその身を捧げたの。私たちが快適に暮らしているのは彼のおかげなのよ。尤も彼はとうの昔に死んだ事にされているけれど」
「何だと! だが、もしそうだとしてもなぜお前がそれを知っている。見た感じこの城の女官なのだろ」
衝撃の事実だが、ウォザディーにはイマイチ信じられなかった。
アージスモはカウコーヨには暫く会えないと言っていた。それは、いずれ合わせるつもりがあるからの言葉である。
ウォザディーは少し混乱していた。
「なぜって、それは私が魔法使い様のお世話をしているからよ」
キヌラは女官としての彼女の仕事の詳細をウォザディーに話した。
「そんな……。それでは師匠は生贄のようでは無いか」
ウォザディーは愕然とした。
「魔法使い様にもしもの事があったら、次は英雄様が狙われるのでは無いかと心配で」
「まだ、お前のことを信用したわけじゃない。だから事実を確かめる。お前はしっかりと師匠の世話をしていろ。いいな手を抜いたら承知しないからな」
ウォザディーは言いたい事を言うと部屋を出た。
受付でアージスモへの謁見願を出して、孤児院には戻らずに裏庭へ回り森の家へと入っていった。
「ミフーソカ! 出来ている物は……」
ウォザディーは目の前の光景に絶句したのだった。




