第五十六話 招待状
《父から託されたもの》
それは今から五年前の事である。
イコルニアツ孤児院の創始者で、院長先生のササツィ男爵が病に倒れた。ソイベは看病に通っていたが、彼の病状が徐々に悪化して行くに伴い、孤児院の雑務なども行うようになっていった。
そうなるとシスターをやりながらでは身が持たなくなってくる。神父様と相談の上、ソイベはシスターを辞める事となった。
彼は『いつでも戻っておいで』と優しい言葉で送り出してくれた。
「今日からお前が院長だ。よろしく頼む」
「ええ、お任せください。それにしても兄様は未だにいらっしゃらないわね。何度も手紙を出してはいるのですけれど」
ササツィ男爵が孤児院業に従事した時に、領地は息子のニナヒカーに継がせていた。
彼は一度だって孤児院に顔を出した事は無かった。それどころか孤児院の管理費など、教会の出資で賄いきれない分の支出に文句を言っていた程だった。
「あいつは来る事はないだろう。ワシが死ぬのを心待ちにしているだろう。ようやく爵位が継げるとな」
「そんな……」
ソイベはそんな事は無いと言えなかった。ニナヒカーからの手紙にはそれに近い事が書かれていたのだから。
「はは、そんな顔しないでおくれ。ワシにはお前という立派な娘がおるだけで十分だ。それでお前に話しておかなければならない事がある」
優しい顔で話していたササツィ男爵は、急に真剣な顔つきになって語った。
〜〜〜
それは更に二年前の話だった。
孤児院の前にズタボロの女性が倒れていた。その脇で幼子が泣いていたのだった。
ササツィ男爵は二人を孤児院に招き入れるとその女性の看病をした。しかし意識は取り戻したものの身体中の傷は酷く日々衰弱していくのだった。
その中で女性が何とか伝えた事がある。
彼女はツナシュナ伯爵の嫡男の邸に務めていて、先の戦いでキエッツォの軍勢に邸が攻められその被害に遭った。
ルニムネを託されて守る為に殺されかけもした。何とか逃げ出してツナシュナ伯爵の邸に向かうが、そこも襲われていた為にとにかく遠くに逃げる事だけを考えてここまで来て力尽きた事などを何とか語った。
伝えたい事を話し終えて安心した彼女は、最後までルニムネの事を案じて息を引き取った。
戦いが終結した後にササツィ男爵はツナシュナ伯爵に連絡を取ったが、又いつ戦火が巻き起こるか分からない現状でルニムネを危険に晒さない為にそのまま内密に孤児院で育てる事になったのだ。
▽▼▽
城から戻ったウォザディーはミフーソカの下を訪れていた。
「成る程。魔法を封じる魔道具か。ワシの作った物では無いのじゃが、恐らくはあの二人を操っていた物の発展版じゃろうて。同じように取り出せんのか?」
「その魔法が使えないのでな。お手上げなんだ」
ミフーソカの当然の問いに、ウォザディーはまた当然の返しをした。
「それで、その魔法具の効果を打ち消す物を作れば良いのか?」
「それでは時間が掛かり過ぎてしまうから、取り敢えずいくつか作って欲しい物がある」
ウォザディーはリストを渡した。
「ほう、成る程。これで、さも魔法を使っているように偽装するのじゃな。よし、これ位なら明日までに仕上げておくぞ」
「本当か! それは助かる。よろしく頼む」
嬉々として作業に取り掛かるミフーソカを残してウォザディーは孤児院へ戻った。
「あっ、お帰りなさい。これが先ほど、届いたのですけれど……」
ソイベが戸惑いがちに一通の封書をウォザディーに渡した。それを見た彼の眉間にシワが寄る。
封蝋に山と森を模した紋様、即ち王家の紋様が浮かび上がっていたのだから。
「お茶会への招待状みたいだな。……明後日の午後からか、随分と急だな。えっ……!」
主催者の名を見たウォザディーは驚き戸惑ったのだった。




