第五十三話 いざ王城へ
《不穏な空気》
「陛下! 失礼いたします」
「なんだ。これから良い所なのだぞ」
ヤーカンの隣で服の乱れた少女が震えていた。秘書官に見覚えがないので、恐らく新入りの女官であろう。
「せめてお部屋で行って頂けないでしょうか」
「何をいうか、ここも部屋だぞ」
ヤーカンは揶揄うように秘書官に笑いかける。確かにここも部屋である事には違いはない。執務室だが。
「す、すみません、失礼いたします」
涙目の少女が走り去って行く。
「ちっ、逃したか。まあ良い。後で部屋に誰か寄越してくれ」
「畏まりました。それで、送っていた使者が捕まったようです」
秘書官はまた女官長にドヤされると思うと頭痛がしたが、放っておいて報告をする。
「そうか。こちらの手の内に入れてからにしたかったが、まあ良い。開発部長官から報告があった。例の兵器の最終試験が成功したと」
「なんと! それは吉報でございますね」
戦争の切り札になり得る兵器の完成に秘書官も喜ぶ。
「戦争の準備を始めよ」
「目標はティディサア王国の征服で宜しいですか」
どこまでを目指すかで準備の規模も変わってくる。
「そうだな。一先ずはティディサア王国の息の根を止めるのを目標に致す」
「畏まりました」
こうしてキエッツォ王国は戦乱の道へ歩みを進めるのであった。
▽▼▽
ウォザディーは城門の前に行くと近くにいる番兵に声をかけた。
「ウォザディー殿ですか。確認して参りますので、少々お待ち下さい」
番兵は扉の奥へと消えて行った。
「懐かしいな」
ウォザディーの頬は緩んでいた。それは、彼の師匠のカウコーヨの魔力の波動を感じていたからだった。
彼に生きる術の全てを教えてくれた親のような存在なのだ。早く会いたくて仕方がなかった。
「お待たせ致しました。私は国王陛下付き侍従のジューイと申します。以後お見知りおきを」
「俺はウォザディーだ。昨日そちらの手の者に貸しを作っちまってな。呼ばれていたんだが」
ウォザディーは文官に対していいイメージを持っていない為に突っ慳貪に言い放った。
「伺っております。ご案内致します故、私に付いて来て下さい」
「……宜しく」
ウォザディーの態度もどこ吹く風でジューイは丁寧さを崩さなかった。
暫く迷路みたいな通路を進んで行き、今度は階段を上っていく。しかし、階段も一階分だけでまた迷路が広がっていた。そしてその奥の階段をまた上るのだった。
それを何回か繰り返すと広い廊下へと出た。多くの扉が並んでいるなかで、重厚で威圧感があるものの決して華美ではない扉をジューイはノックした。
「陛下お連れしました」
「ああ、入ってくれ」
中からの返事を待ってジューイは扉を開けた。そしてウォザディーを通すと扉脇の部屋に姿を消した。
仕方なくウォザディーは部屋の奥へと進む。
「ウォザディーよ。久しいの」
「ご無沙汰しております。陛下におかれましても御健勝でなりよりで御座います」
『カチャン』
先程までウォザディーの案内を務めていたジューイはお茶を準備して運んで来ていたが、ウォザディーのあまりに謹直な態度に手を滑らせた。幸い直ぐにバランスを取って事なきを得たが動揺は隠せなかった。
「流石の貴方でも陛下の前では借りて来た猫なのですね」
「黙れ」
「ははは、あまり苛めないでやってくれ」
あまりの変わり様に、ジューイはいつもなら言わない一言を添えてしまった。それに対して、ウォザディーは冷ややかな目をして睨んだ。
アージスモの言葉に気まずくなったウォザディーは周りに視線を泳がした。部屋の中も扉と同じで重厚でシンプルだが、細部にまで拘りが見られる品のある家具で纏められていた。華美という言葉とは対極の部屋だが、予算的には大差無いのだろうと思われる品々ばかりだった。
「王の執務室にしては地味だと思ったか?」
「いえ、ただよく許されたと思いまして」
ウォザディーは思った事を口にしていた。
「ここだけは我が儘を通した。お前との約束もあったからな」
アージスモはニヤリと笑って見せたのだった。




