第五十二話 減り張り
《風の便り》
フリュー二は王妹にあるまじき行為とは分かっていたが、人気のない中庭のベンチに腰を下ろして休んでいた。
「ふー、疲れましたわ」
フリュー二は掌で優しくこめかみを揉み解す。彼女は日の出と共に目覚めてから仕事に追われていた。
先程漸く終わったので朝食をとって、今は暫しの休憩中なのだ。
何故フリュー二がここまで仕事に追われているのか。別に彼女の仕事が遅い訳ではない。寧ろ政務に関しては王であるアージスモと比べても遜色ないといえる程だ。
フリュー二はかなり努力をして来たのだ。体に大きな傷痕がある彼女は政略結婚などでは使えない。
それを彼女自身が知ってからは、女性的魅力を伸ばす事よりも勉強に力を入れた。計算や財務管理、領地経営やリーダー学、政務に帝王学等、ありとあらゆるものを学んだのだ。
国の延いてはアージスモの為にフリュー二に出来る事はそれしかなかったのだから。その為に行き遅れと馬鹿にされようが、横柄で我が儘三昧と勘違いされようが一切気にしてこなかった。
そこまでして頑張って来たフリュー二が仕事に追われている理由は、この国の王妃であるイウファーが妊娠したからなのだ。妊娠初期で安静が必要なイウファーの分の仕事も、フリュー二が引き受けているから忙しいのは当然なのだ。
「ふぅ、優秀なのも考えものですわね。多少の遅れでこなせてしまう自分が恐ろしいですわ」
自画自賛していると頭上から声が降って来た。
「ねえ聞きました? 陛下のお探しになっていた例の方が見つかったそうよ」
「もちろん。あの女官長が涙を流していたのよ、驚きよね」
まさか外のベンチにフリューニがいるとは夢にも思わずに、女官達が噂話をしながら廊下を通り過ぎて行った。
「アージ兄様が探していた方? まさか!」
フリューニは立ち上がると走り出したのだった。
▽▼▽
ウォザディーはルニムネを抱っこして孤児院に戻って来た。まだ夜明けまではかなり時間がある為に、辺りは真っ暗だった。
音を立てないように注意しながら女の子部屋に入って行く。部屋にはベッドが四つ並んでいた。三つのベッドに二人づつが眠っていて、一つが空いている。そこにルニムネを下ろした。
「……んっ。……ウォザディーさん。おしっこ……」
寝ぼけ眼のルニムネが訴えかけてきた。
「便所くらい一人でいけるだろ」
「やっ、怖い」
小声でウォザディーは窘めるが、ルニムネは首を横に振った。
「仕方ないな」
「抱っこ」
ルニムネが両手を伸ばしてくる。
(夜中の便所を怖がる奴が、暴漢の後を追いかけるのはさぞ勇気がいっただろう)
今日ばかりは甘やかしてやろうとルムニネを抱き上げる。彼女は幸せそうに微笑むと顔をウォザディーの首元に埋めたのであった。
〜〜〜
翌朝、事情を皆に説明した。ソイベはウォザディーの無事を喜びつつもルニムネにお灸を据えていた。子供達は歓喜の嵐で、ルニムネは一躍スーパースター扱いをされた。メジマーとクレナは深酒のせいで全く気が付かなかった事にこの世の終わりの様な顔をしていた。
「折角の旅立ちの日にそんな顔は似合わないぞ」
「しかし、ウォー様が危険な状況で酒に潰れていたなんて示しがつかない」
尚もメジマーは項垂れている。
「めでたい席で主役が飲まされるのは古今東西お決まりの事だ。気にする必要は無い」
「ですけれど……」
ウォザディーが二人をフォローするが、クレナもやはり冴えない顔だ。
「分かった。じゃあ、今回の事を悪いと思っているならば、一日も早くお前達の子供の顔を拝ませてくれよ」
「なっ!」「分かりましたわ」
何気なしに言ったウォザディーの言葉が、二人の子作り旅をより過酷にしてしまう一因となった。
「じゃあ、俺も行って来る」
二人を見送ったウォザディーは、渋々といった表情で王城へ向かい歩を進めたのだった。




