第五十一話 捕獲
《開かずの間》
ティディサア王国の王城には秘密の部屋がある。開かずの間と呼ばれるその部屋は、一日中3交代制で番兵が扉の前に立っている。
この部屋に王を除いて唯一入れるのは女官のキヌラだけである。彼女は王族に仕える為に特別な教育を施されてきた女官の中では超エリートなのである。
「ご苦労様です」
「はっ、どうぞお入り下さい」
キヌラが扉の前の兵に声を掛けると彼が扉を開けてくれる。そして部屋に入ると扉はすぐに閉められてしまう。
「さあ、始めますか」
キヌラは二日に一度の割合でこの部屋の維持を仕事としている。それでいて給金は女官長よりも沢山貰っているのだ。
彼女はこの部屋の事を口外しないという誓約をしている。十分な給金は口止め料も含んでいるという事だ。
そこまで厳重に秘密にされているものは奥のドアの中にある。キヌラは慣れた手つきでドアに鍵を入れ錠を回すと解錠される。これにはちょっとしたコツがあってそれを体が覚えるまでは彼女でも解錠にかなりの時間を要していた。
「魔法使い様もこうなっては哀れなものね」
「……うあう……」
そこには部屋中に広がる装置に繋がれた老人がいた。
「さあ、ご飯にするわよ」
「……ああう……」
キヌラは身動きの取れない老人の口へと一口大の食事を入れる。老人が咀嚼して飲み込むのを確認するともう一つ入れる。それを数回繰り返して食事の箱が空になった。
食事が済むと老人は目を閉じた。彼は一日の殆どの時間を眠って過ごすのだ。
「さあ、トイレを新しくしないとね」
キヌラは装置の一つを操作する。中から密封された汚物の入った袋を取り出し、新しい袋をセットしてまた操作する。
「さあ終わった」
キヌラは今日も秘密のお仕事をこなしていくのだった。
▽▼▽
麻袋から外に出されたウォザディーはやっと人心地が付いた。
「ご無事ですか、英雄様」
「英雄?」
何故だかやたらとウォザディーに視線を送っていたイロハが溢した言葉にセスンが食い付いた。
「またそれか。もう随分と昔の事なのだからもう時効だろ」
「そんな事はありません。貴方は本当に我々の英雄でした。貴方の存在を歴史から消し去らなければならなかった時は仕方が無かったとは言え皆落胆したものです」
何だかウォザディーは背中がむず痒くなった。
「そんな我々に唯一残されたのは『英雄様』の言葉一つでした。名前でさえも口にする事は許されなくなったのです」
「だからもう良いって、時効だ時効!」
イロハの表情が沈んでしまったので、ウォザディーは努めて明るく言い放った。
「総隊長。この人は陛下が捕まえろと仰られた方ですよね。王妹殿下が必ず見つけ出せと血眼になっていた相手ですよね。拘束しなくて宜しいのですか」
「陛下は連れて来いと仰っただけです。捕らえろと命じたのは彼に接触しようとする間者に対してです。王妹殿下は……。まあ、それは良いでしょう」
セスンは疑問をイロハにぶつけたが、勘違いしている所もあったと納得した。
そして床に伸びている二人を拘束するとそれぞれ一人づつ担いで外へ向かった。ウォザディーは後を付いていくだけだった。
外に出たウォザディーはギョッとした。イロハと同じ様な格好をした人達が他に三人いたのだから。
しかもそのうちの一人はルニムネを抱きかかえていたのだった。
「何故、ルニムネがここにいる!」
「あんたが無事だったのは勇敢なこの子が追跡をしたからですよ」
イロハに詰め寄ったウォザディーにセスンが事実を教えてくれた。
「で、今日の所はその子を連れ帰って貰って、明日城に来て貰えないですか」
「分かった」
ウォザディーは今はルニムネの事を一番に考えた返事をして、彼女を抱いていたワカヨから奪うように引き取ったのだった。




