第五十話 果報は寝たふりで待て
《救出》
セスンは小型のディーケ製品のスイッチを入れた。そこからは特殊な狼煙が上がった。それは宵闇に溶け込み目立たなくなった。諜報部員以外はまず気付かないだろう。
「誰か来てくれますかね」
セスンは取り敢えずは五分だけ待ってみて、誰も来ないようだったら単独調査をするつもりだった。五分程度ならなんとか痕跡から後を辿れ、追いつける可能性が高いからだ。
そろそろセスンが行動に移そうとした時だった。
「どうしたセスン」
「総隊長!」
なんと最初に駆け付けてくれたのが諜報部の実行部隊の総隊長のイロハだった。彼は諜報部の次席で実行部隊の統括なのだ。
ただ地位が高いだけでなく部下からの信頼も厚く実力も備えた総隊長なのである。
セスンは事の詳細を話した。
「さてと、この子をどうするかだが……」
イロハは頭を悩ませた。流石に潜入に子供を連れて行く訳には行かない。眠っているとなれば尚更だ。
かと言ってこの状況での単独潜入は危険度が跳ね上がってしまう。
「セスン何があったの?」
ワカヨが現れたのだ。
「良いところに来たな。この子供を保護していてくれ」
「ええ、分かりました」
イロハの命を受けセスンからルニムネを引き取って抱き抱える。
「総隊長達は、……あそこですか」
「ああ、二人で行けば大した危険は無い筈だ」
周りを見て察したワカヨにイロハは二人で十分ということを伝える。余計な気を使わせずに自分の仕事に集中して貰おうというイロハなりの配慮だった。
「いいか、下水に繋がっている形跡が無い以上、ここがどこかに繋がってる可能性は3割程だ。疑う可能性としては十分だ。しかし唯の溜まり場の可能性の方が高い。いつでも戦闘出来る心積りでいろ」
「はっ」
そうしてイロハとセスンは扉を静かに開くと中に身を滑り込ませるのだった。
▽▼▽
ウォザディーは何とかこの状況を打開出来ないかと、必死に考えを巡らせたが良い案は浮かばなかった。なので、寝たふりを続けていた。
この30年魔法以外の事は何もしてこなかったウォザディーは、剣術も格闘術も全く使い物にならない程に衰えていた。それどころか普通に走るだけでもすぐに息が上がってしまう。
ただ、彼を擁護するならばたった30年で魔法を極めるという事は、その他の物全てを捨てる覚悟で臨まねば決して成し遂げられない偉業であったのだ。
袋の中でただ転がっているだけのウォザディーは、自然と耳に意識を集中していた。すると外から地面を伝う足音が聞こえた。
(二人か、かなり訓練を積んだ者達だな。俺でさえ微かにしか聞こえないのだからな)
ここで、ウォザディーは自分の言葉に違和感を覚えた。
(俺でさえとはどういう事だ魔法は封じられている筈だ)
しかし、室内の二人は迫り来る者達の存在に全く気付いていなかった。
ウォザディーは耳にさらに集中してみた。先程より外の足音が鮮明に聞こえるようになった。
だからといってそばにいる連中の声が大音量になる訳でも無い。音量の差が小さくなるのに距離感はしっかりと分かる。
これは魔法の初歩の体内魔力の集中というものだ。魔力を集中した部分の性能が強化される。
これが初歩といわれるのは、体内魔力を体内に集中させるからである。いわば魔力を体内だけで移動させるだけなのだ。
それに比べて外部に影響を及ぼす魔法(つまり殆どの魔法の事だが)は、体内魔力を体外に放出して外部の特定地点に集中させて魔法を発動させるのだ。
つまり、ウォザディーの封じられているのは魔法では無くて、体外に魔力を放出する事だと仮説が成り立つ。などと彼が考えている間にそばにいた二人は外から来た二人に伸されていたようだ。
外から来た二人はウォザディーに近付くと袋の口を解き外へと出してくれたのだった。




