第四十八話 真夜中の訪問者
《追跡》
今、ティディサア王国諜報部は大忙しだった。王都ディアトキアに入って来る人のうち身元がハッキリしない者で、過去に一度でも入門の手続きをした事がある者に対して尾行を行っているからだ。
諜報部員のセスンも一人の商人を尾行していた。この辺では聞いた事のない商家の者で、何故か3日前に一度だけ入門している。しかもその時が初めてだった。
「中々怪しい奴だな」
セスンは慎重に後を尾けるが、相手の方が一枚上手だった。
ある程度の距離を開けて尾けていたのだが、感付いた商人風の男は目的無くふらふら歩いているように見せ掛けてとある路地へ入って行った。
「おや、確かあの先は袋小路になっている筈ですですね」
セスンは暫く待ってみたが、一向に商人は出てくる気配がない。意を決して慎重に路地に入っていったセスンが見たのは、人っ子一人いない袋小路だった。
▽▼▽
暗闇の中の人影はゆっくりとウォザディーに向かってくる。
「こんな夜分に申し訳ありません。ちょっと追っ手を巻くのに時間を取られましてね。さて、キエッツォ陛下よりの招待状を預かっておりまして」
男は手に何かを持った状態で近付いて来た。ウォザディーはそれを手紙だと信じて手を出した。
「なっ!」
手紙だと思っていたものはウォザディーの手に吸い込まれるように消えた。男は咄嗟に後ろに飛び間合いを開けた。
「……なんだ、どうして発動しない!」
ウォザディーは男を拘束しようとしたが、魔法が発動しなかった。
「無駄です。貴方の魔法は封じさせて頂きました。大人しく付いて来て頂けますか」
「ふざけるな。ヤーカンは一体何を考えているんだ!」
突如ウォザディーは鳩尾に激しい痛みを感じた。
「ぐうぁはっ!」
「陛下を呼び捨てるとは無礼千万。連れて来いと命令されていなければ殺していた所ですよ」
男は殺気のこもった目でウォザディーを睨み付けていた。
「仕方ないですね。これで大人しくして下さいね」
「なっ……」
男がウォザディーの口と鼻を布で塞いだ。次の瞬間甘い匂いを吸い込んだウォザディーの意識は刈り取られた。
男は鞄から折り畳まれた麻袋を取り出すと、スヤスヤと寝息を立てるウォザディーを詰め込んだのだった。
▽▼▽
ルニムネは口を両手で塞ぎ必死に声を押し殺していた。そうしていないと叫び声を上げてしまいそうだったからだ。
夜中にトイレに行きたくなり目が覚めたルムニネは一人では心細かったので、ウォザディーに一緒に行ってもらおうと食堂に入って行った。
そこでウォザディーが袋に押し込まれている現場を目撃してしまったのだ。パニックになりそうな自分を必死に奮い立たせ、なるべく物音を立てないようにテーブルの下に身を隠した。
縮こまって両手で口を塞ぎ更に膝を立て顔を埋めた。
(大丈夫。私なら出来る。ウォザディーさんはいつも『ルニムネは聡い子だ』って言ってくれてるし)
ルニムネはギュッと目を瞑った。
(私の力じゃウォザディーさんを助けられない。今やらなきゃいけないのは助けを呼ぶ事。その為に私は絶対に見つかっちゃいけない)
ルニムネは決意をして目を開いた。体の震えはもう止まっていた。
男が袋詰めしたウォザディーを抱え上げて食堂を出て行った。ルニムネは足音が遠ざかるのを聞いてテーブルの下から出て来た。
窓から外を見ると孤児院の前に馬車が泊まっているのが見えた。
「どうしよう。……先ずはあの二人ね」
ルニムネは客間に向かった。
「大変なの起きて! ねえってば!」
「ぐぅがががぁぁぁ……」
ルニムネは二人を揺すって必死に声を掛けたが、深酒をした二人は一向に起きる気配は無かった。
「しかたないよね」
ルニムネは玄関から外に出た。丁度馬車が走り出したので、ルニムネは後を追い掛け駆け出したのだった。




