第四十五話 傷
《秘策》
「陛下よろしいでしょうか」
「…………何だ。今行く」
秘書官が王の部屋に声を掛けた。暫くして、ガウンを羽織っただけの姿のヤーカンが部屋から出てきた。
「日中はお控え頂きたいのですが……」
「ああ、すまんな。部屋を掃除していた者があまりにも嗜虐心を擽ってな。そうだ、ついでに運び出しておいてくれ多分死んではいないと思うぞ」
秘書官は溜息を心の中で盛大に吐きながら王の寝室を覗くと、ベッドの上に事後の女が白目をむいて倒れている。軽く痙攣している所を見るに、王の言う通り死んではいないのだろう。
「はぁ、クエチノを手放したのは失敗だったかな」
「その、クエチノですが死亡が確認されました」
秘書官は渡りに船と要件を伝えた。
「そうか、それは役に立ちそうで良かった。ただ思ったより厄介なのかもしれんな。すぐに奴に使者を出せ。人選は秘書長官に一任する。例の魔法封じの魔道具の携行も許可すると伝えておけ」
「はっ!」
秘書官は命を受けると、部屋に入り女をシーツで包んで抱えて出て行こうとする。
「すまんが、もう少し頑丈な女を早急に用意してくれ」
「はっ、侍女長に伝えておきます」
秘書官は痛くなった頭を無視して、侍女長の所に向かった。この犠牲者の引き渡しと新たな犠牲者を募る為だと思うと、胃まで痛くなってくるようだった。
▽▼▽
「残念だったな、お前じゃダメだってさ! きっとここに来たのも魔王の敵討ちの為で、お前の事はついでだったんじゃないか! ぷぷっ」
「そん……な……」
ウォザディーの揶揄いの言葉が胸に刺さりメジマーは項垂れた。クエチノは唇をプルプルと震わせている。
それを見たウォザディーはもう一歩だと確信して、話を続けた。
「そりゃ、そうだよな。クエチノみたいな可愛くてセクシーなレディが、仇に助けられて惨めにその相手に尽くしてる男なんか相手にしないよな!」
「…………」
メジマーに向けているようで、クエチノに向けたウォザディーの言葉は確実に彼女の我慢する気持ちを削っていく。
「わたしが……」
「ふざけるな! 惨めに尽くしてなどいない! 確かに救われたが、そこに至るお前の言動に感銘を受けたからここに居るのだ! それに魔王様はお前に託してお亡くなりになったのだろ、それは仇と呼ぶべき相手では無い!」
クエチノが口を開いて本心を話そうとした瞬間に、何故か先に限界を超えてしまったメジマーが思いの丈をぶちまけた。
「はぁー。お前は馬鹿か! 折角クエチノを煽ってたのが無駄になった。もう少しで本心を言いそうだったのに、お前が煽られてどうするんだよ! まあ、気持ちはありがとな」
「なな、なんだと!」
メジマーは漸く理解が及んだらしく、羞恥に顔を染めていた。
「はぁ、散々だが、もう良いだろ。あんたもコイツを憎からず思っているのだろ、何故断る?」
「それは……分かった、言うわ。私の体はもう綺麗じゃないからよ! こんな体でメーとつがいになんてなれないわ!」
メジマーの哀しげな瞳を見てしまったクエチノは頭を掻いて、一気に捲し立てた。
四天王はヤーカンに捕らえられ実験に使われていたとメジマーから聞いていたウォザディーは、その中に性暴力的な行いも含まれていたのだろうと想像は付いた。
「それなら、メジマーが時間を掛けて癒して……」
「まさか! それでは諦めるしかない……」
ウォザディーは愛し合う二人ならいずれ乗り越えられると思っていたので、メジマーの答えに怒りを覚えた。
「メジマーがそんなに薄情な奴だとは思わなかったぞ! お前が彼女の心の傷を癒してやれば良いだろ!」
「心の傷? ……成る程ね。人間達は生殖行為を特別扱いすると聞いた事があるわ。そんな事は私達には大した事じゃないの人間との間には子も出来ないしね、獣に噛まれた程度の問題よ。理由はこれよ」
クエチノが腕まくりをすると、傷やただれ等で見るも無惨な状態の腕がそこにあったのだった。




