第四十二話 手を差し伸べたからには最後まで引いて行こう
《走れ!キーベ》
その報告は突然やって来た。
「未確認生物がこちらに接近中との事です」
「何だよ、その未確認生物ってヤツは」
王都警備隊の詰所に駆け込んで来た兵の報告にキーベは質問で返した。
「言葉そのままです。見たこともない怪物が空を飛んで接近中との事でした」
「そりゃあ魔物だろう。空を飛ぶ種もいた筈だ」
悪魔と魔女の大乱の時を思い出してキーベは言う。
「魔物、御伽噺のですか」
「御伽噺と来たか。まあでも最後に見かけたのが、お前さんの生まれるずっと前の事だから仕方がないのか。取り敢えず弓を持って一陣は街の外、二陣は王城前に集合しろ」
キーベは指示を出すと王城へ向かった。
〜〜〜
「一陣突破されました。死傷者ゼロです。全く相手にされませんでした」
「そうか、しかしここは突破させるわけには行かないぞ」
キーベは少し意外に思った。魔物が人間を無視して進むなんて考えた事もなかったからだ。
「おかしいです! 魔物の進路が逸れて行きます」
「何だと! まずいあっちは!」
孤児院のある地域へと進んで行く魔物を見てキーベは走り出していた。
「第一隊は俺に続け! 残りは、ここで万が一に備えろ!」
指示通りに隊が分かれて行動する。キーベは振り返る事なく走り続けた。
「頼む、間に合ってくれ」
キーベの願いは届かなかった。
彼は間に合わなかったのだが、思っていたような事は起きていなかった。孤児院の前にソイベが立っているのが見えた。
「ソイベ、無事か!」
「ええ、でもウォザディーさんが……」
ソイベから事の次第を聞いたキーベは、ウォザディーに対する嫉妬心がまた少し膨らんだのだった。
▽▼▽
「ソイベさん、どうしても貴女に伝えないといけない事があります」
「えっ……その、心の準備が……」
ソイベは頬を染めて俯く。
「実は、あの……」
「子供達も全員無事だったな」
子供の安否確認をしていたキーベが外に出て来て、ウォザディーの言葉を遮ってしまった。
「何だ? あれ、ひょっとしてお邪魔だったか?」
「えええ、そそんなこ事あありませせんよぉぉ!」
「ああ、キーベでしたか。丁度良かった一緒に聞いてもらった方が都合がいいです」
慌てていたソイベとキーベだったがウォザディーの言葉に、疑問符を頭に浮かべていた。
「先程の魔物なんだが、……一緒に暮らす事になった」
「へっ?」「なに?」
二人はウォザディーの言葉を上手く理解出来なかった。
〜〜〜
事の起こりはこうである。
「さあどうした、殺せ。生きていても奴の思うままに使われるだけだ」
「どういう事だ?」
「其奴には特殊な魔法具が埋め込まれているんじゃ」
ただならぬ気配に窓から家を出て、駆けつけて来たミフーソカが話に割って入って来た。
「何だじゃあそれを取り出せば解決じゃないか。どこにある?」
「こめかみじゃが、そう簡単には取れないように細工がしてあるのじゃ」
その魔法具は他ならぬミフーソカがその手で作った物なのだから、その厄介さは一番知っている。
「ほら、取れたぞ」
「じゃから無理に取ろうとすると其奴は死ぬぞ。って、えぇぇ!」
ウォザディーは魔法でいとも簡単に魔法具を取り出していた。
「ほほう、確かに頭がスッキリとした。そうなると殺すのは延期してくれないか」
「だから、最初から殺すつもりは無いぞ」
「いや、殺さないと不味いのじゃ。その魔法具には生体認識の機能が付いている。其奴の生死は向こうには筒抜けじゃ」
ミフーソカはその魔法具が指定された魔力を使用して受信機に送信し続ける事によって、持ち主の生死を判断している事を伝えた。
「それでも今死ぬ訳には行かなくなった。助けたい女がいる」
「じゃあ、殺すか」
ウォザディーは有無を言わさずに魔法で爆破した。
……魔法具は木っ端微塵に吹き飛んだ。
「これでお前は死んだ事になった」
ウォザディーはニヤリと笑ったのだった。




