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第四十話 名を交わす

 《あの時の話》

 ウォザディーの手首を魔王が掴み、無理矢理に指輪を掌に置いた。

「貴様、名は何と申すのだ?」

「何だ突然、俺はウォザディーだ」

 素直に名乗ったウォザディーに魔王は驚いた表情をした。

「よもやこの世に魔乃物に名乗る人間がおるとは思わなんだぞ。汝にはもっと早う出会いたかったぞ」

「魔王とは随分礼儀知らずなのだな。こっちが名乗ったのだからそっちも名乗るべきだろ」

 魔乃物にとって名前を取り交わすという事は最大限の友愛の証である。通常は下の者が一方的に名乗るのが魔乃物流の礼儀なのだ。魔王との名の交換は恩賞になる程で、魔王の名前を知っているのは腹心の部下数名ぐらいである。


「ふざけおって。余たちの礼儀を知っていたらそんな事はとても言えんだろう」

「知っているさ。俺はあんた達のやって来た事を肯定は出来ない。そもそも生物としての生態が違い過ぎる。だけど言ってしまえばそれだけの事だ。分かり合えないから殺し合いになってしまった。それも仕方がない事なのかもしれない。だからこそ、このどちらにも正義の無い殺し合いにおいて命を奪う相手に敬意を示す事が唯一の俺の正義だ」

 魔王は今まで巡り会えなかった事を残念に思いながらも、最期の時間をこの酔狂な人間と共に出来て良かったと思ったのだった。


「……モノモナ」

「そうか、モノモナか俺の心にしっかりと刻んだぞ。もう限界なのだろう」

 先程からミシミシと軋むような音が静寂に混じっていた。そろそろ時を止めている程の力が無くなるのだろう。


 最後まで魔物を案じて命を散らし、崩れ落ちて来た魔王をウォザディーは優しく包み込んだのだった。


▽▼▽


「お前は勘違いをしている。俺は魔王の名を知っているぞ」

「馬鹿にするな! 魔王様は仮初名を持たぬ。貴様如きに名乗る筈なかろう!」

 怒りで自制心が保てなくなったズナギュカがウォザディーに襲い掛かって来た。


「モノモナ」

「!」

 ズナギュカの拳がウォザディーの鼻の先で止まった。


「有り得ない。そんな魔王様が名乗られるなんて……」

「勘違いするな。名を交わしたのだ」

 ズナギュカは驚いた表情から一転、ポカンとしていた。驚き過ぎて思考が追い付かないのだろう。


「なん……だと。魔乃物と名を交わす人間だと……」

「ああ、モノモナは最後までお前らを案じていた。立派で誇り高い者だったからな。今際の際に敬意を持って名を交わした。お前らにとって名はそういう物なのだろ」

 ウォザディーの言葉にズナギュカは更に驚いていた。ウォザディーは魔乃物の礼儀を知った上で尚、名を交わした。彼の常識ではそんな人間は存在する訳がないのだから。


「ハハハ、まさかこんな人間がいるとは……。思いもよらぬ事があるものだな。我の最後に名を交わしてくれるか?」

「ああ、俺はウォザディーだ。これで良いのか?」

 躊躇う気配を全く見せないウォザディーにズナギュカはもう笑うしかなかった。

「ふっはっはっはぁ、我の完敗だな。我が真名はメジマーだ。仮初名には何の力も無い唯の記号に過ぎない。これで名を交わしたという事よ。さあ、もう悔いは無い。一思いに殺せ」

 ズナギュカもといメジマーはウォザディーに背を向け座り込んだ。


▽▼▽


「陛下。ズナギュカの生体反応が途絶えました」

「そうか。元四天王とは大した事が無かったんだな。これで全部壊れてしまったな」

 家臣の報告に国王を自称しているヤーカンはニヤリと笑った。

「あの牝だけは壊れてても役に立つがな。昨晩もいい声で鳴いていたしな」

 元四天王のうちズナギュカ以外の三人は実験に精神が耐え切れずに自害を図った。二人はそのまま死んだが、唯一の女の元四天王は死なせて貰えなかった。

 そしてヤーカンのペット(性奴隷)として飼われているのであった。

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