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第三十九話 迫り来る魔の手

 《ズナギュカの苦悩》

 ズナギュカは本能に従い生きて来た。自分の美学に従い人間も殺して来た。

 魔物一残虐と言われて来たが、それは偏に彼の人間の殺し方が頭を潰すというものだからである。

 彼にしてみれば嬲りながら手足を落とし泣き叫ぶ姿を見ながらじわりと殺す奴らの方が、余程残虐ではないかと思っている。


 魔王があの指輪を手に入れてからは、人間を殺すなと命令されてしまった。しかしそれからの生活は思いの外、心穏やかに過ごせたと思う。


〜〜〜

「はぁ、はぁ、くそっ!」

 ズナギュカは今とても苦しんでいる所だった。

 ヤーカンによって魔物の本能のままにティディサア王国に被害を出して来いと命令されているのだ。心の底より人間を殺したい衝動に駆られる。

 そして人間を殺そうとした時だった、脳裏に魔王の姿が現れたのだ。


 そうなってしまうともう人間を殺す気になれなくなってしまう。しかし、殺しの衝動は治まらないので目に付いた獣の頭を破壊して気を紛らわせる。

「早く行かなくては……」

ズナギュカは気が狂う前に、なんとしても王都ディアトキアに着かねばならなかった。


▽▼▽


 ウォザディーの周りをキラキラと輝く粒子が包み込み、幻想的な光景が広がる。

「「「うぉわぁー、きれい!」」」

 子供達が見惚れて声を漏らす。


「あれは何!」

「ちっ!思ったより早かったな。間に合うか」

 ソイベが何かを感じて、ふと空を見上げると蝙蝠のような翼の生えた人がこちらへ向かい飛んできていたのだった。

「見つげ……だ……ぞぉぉぉ!」

「「「キャァァァァァ!」」」

 突然近づいて来た怪物に子供達は恐れ慄き尻餅を搗く。魔物が子供達に今にも襲い掛かりそうになったその時にソイベは子供達の前に立ちはだかった。


「「「せんせー!」」」

『ガギィン』

悲鳴を上げる子供達の前でソイベに魔物の爪が振り下ろされて、重い金属音の様な音が響き渡った。

「よし」

 魔物の爪はソイベの目と鼻の先で、火花を上げて弾かれた。結界は間に合ったのだった。


「キャァァァァァァァ!」

 一拍遅れてソイベは悲鳴を上げて子供達の所まで後ずさった。


「見つ……けた。お前……魔王様を殺した……奴だな」

「ソイベさん、子供達と中へ」

「で、でも……」

 ソイベはウォザディーを残して自分達だけ避難する事は躊躇われた。

「大丈夫、結界を張ってある。そいつはそれ以上入って来られない。それに俺は君が思ってる以上に強いんだよ」

「わ、分かったわ」

 ソイベはウォザディーの言葉を信じて子供達と共に孤児院の中に移動した。


「お前……出てこい……被害……だし……たくな……い」

「分かった。但し場所を変える。良いな」

 ここで戦って目立つのは色々と不味いので、話が通じる相手だったのでウォザディーは移動を提案した。


「分……かった」

「よし、動くな」

 ウォザディーは魔物もといズナギュカに近付くとその手に触れた。

『パチン』

 世界が歪み、次の瞬間には森の中にいた。


「あっ、そういえばミフーソカさんがいるの忘れてた。まあ家から出て来なければ平気かな」

「ほう、ここは魔力に溢れていて落ち着く場所だな」

 ウォザディーはいつでも魔法を繰り出せるように臨戦態勢でズナギュカに対峙する。


「随分と物々しいな。」

「それは元四天王のズナギュカが目の前にいるんだからな」

 ウォザディーはズナギュカの一挙手一投足から目を離さずに答えを返す。


「ほう、我の仮初名を知っていたか」

「敵とはいえ三十年前に殺しに行ったんだ。名も知らぬ者を殺すのは寝覚めが悪いからな。有名どころは調べさせて貰っていた」

ウォザディーの答えにズナギュカの瞳が鋭くなる。


「お前は嘘吐きだな。名を知らぬ魔王様を殺したくせに」

ズナギュカは今にも襲い掛かりそうな勢いでウォザディーを睨み付けていたのだった。

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